女性役員と企業業績に関する研究一覧

業種・内生性などをコントールしないと、女性取締役比率と企業業績には有意な正の相関がみられたが、コントールするとそれは消滅した。


固定効果モデルにおいては、女性役員数の増加は業績を高めるが、内生性を考慮すると、その関係は見られなかった。


両研究で採用されている操作変数法については、ウェキペディアの説明が分かりやすい。

図にあるように、操作変数法とはXからYの効果が本当にあるか確かめるためのものであるが、適切な操作変数は存在しないとされる。



女性の活躍が進んでいる企業では業績が良いという、単純な相関に着目して女性登用の良い効果が伝えられることが多いが、どちらが原因でどちらが結果なのかに着目されることは少ない。

企業業績が良くなって、教育投資が増えて、女性の活躍が進むこともあるだろう。その点で、内生性を考慮した研究が増えるのは望ましく、上記2つの研究は読むに値する。


この研究では、記述的な比較ではあるが、女性役員が30%以上だと、ROE・株価の両方が高い傾向があることが分かった。

臨界質量理論は支持を得ている。女性役員が3人以上になるとはじめて企業業績等に影響を及ぼすという説だ。


パネルデータを用いており、因果関係が推測可能な研究である。概要より、結果をまとめると、

・正社員女性比率が30~40%だと、企業の利益率が高くなる

・30代女性の正社員比率が高いと、利益率が高い

・中途採用、企業のWLB(Work Life Balance)施策が整っていると、正社員女性比率の影響が顕著

・管理職女性比率は利益率と明確な関係を見出せない

・中堅企業、中途採用が多い企業、新卒女性の定着率が高いと、管理職女性比率が利益率にプラスの影響を与える

女性役員比率ではなく、女性正社員比率・管理職比率と利益率の関係を分析した点で、上記3つの研究とは異なる。

女性の比率が利益率を高めるメカニズムとして、人件費節約と生産性向上の2パターンが挙げられていた。

人件費の節約は、女性の能力は高いが、市場もしくは企業が女性の賃金を低めに設定していることから生じる。結果として、安い賃金で雇用することができ、企業は払うべき賃金よりも低い賃金で高い利益を享受できる。

管理職女性比率を採用したのは、女性だからといって優れた資質・能力が要求される管理職で賃金が男性より低くなることはなく、それ故、利益率の向上には、人件費節約ではなく、生産性の向上で寄与していると考えたからだ。結果的に、一部の業種で比率と利益率の関係性が示された。

企業は、利益率を上げるために人件費節約よりも生産性向上の手法を取るだろう。同じ仕事に同じ対価を払わないことは企業にとってリスクだからだ。

生産性向上のためには、社員の能力開発や能力を適正に評価することが欠かせない。重要なのは、結果をそのまま受け止めて女性の管理職比率を上げることではない。女性にそれに見合った能力がなければ意味がないからで、それは逆に男性でも同じだ。


パネルデータの説明については上記を参照。


大阪府の中小企業を対象にした研究である。

女性の管理職比率と売上高の関係には有意に負の相関がみられたが、育児支援施策数・PA施策数(女性の能力開発や女性が働きやすい環境づくりなど)と売上高には有意に正の相関がみられた。企業のWLBや均等化(男女)の度合いと売上高の指数の間には弱い正の相関がみられた。

この研究は、WLB等の施策と女性の勤続年数・管理職割合との関連も調べている。

その結果、経営者がWLBに理解があったり、育児支援策が多く利用されていると女性の就業継続意欲は高く、経営者の均等化への意識が高いと同時に育児支援・均等化施策が実施されていると、女性管理職の割合は高かった。

限定的な研究ではあるが、子育てやWLBに関する施策は会社に良い影響を与える可能性が示唆された。また、やはり、育児支援などの施策が就業継続に有効であることが分かった。

この研究は、大阪府の中小企業に対象を限定したものであり、一般化することはできない。

ただ、WLBやPA施策、均等化が売上高等の数値と関係があったことは、それらの施策が社員の生産性向上に役立った可能性があることを示している。また、育児支援策があることで社員は退職せずに仕事を続けることができる。

それは、社員が継続して自分の業務に携わることができ、新たな社員を雇って一から仕事を教える手間が省け、生産性が維持されることにつながったかもしれない。


結論として、

・製造業の利益は、女性役員・管理職を雇うことによる人件費節約によるものと、女性管理職の活用による生産性の向上によるもの

・ただし、サービス業には当てはまらない。サービス業の女性経営者は多いが、小規模なものが多く、差別化できないことから管理職も少ないかもしれない。


ダミー変数は、回答を1か0に数値化することで、分析を可能にする変数である。いるか・いないか、という問いは通常は数値化できないが、無理やり数値化して機械的に計算を可能にする。

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