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超短編 人間の記憶(3/4)


数年が過ぎ、アヤは原住民の村でゆっくりと受け入れられるようになっていった。最初は畏怖の対象として扱われていたが、徐々にアヤの平和的な意思と知的な能力が理解され始めた。

やがてアヤは、村の長老に呼ばれるようになった。長老は好奇心に満ちた質問を次々とアヤに投げかけた。「おまえの故郷の地球では、どのような知識があったのか?」「どうすれば平和な社会を築けるのか?」「他の星からの知恵を教えてくれぬか?」

アヤは喜んで知識を提供した。人類の歴史、科学、芸術、哲学について語った。時に過ちや過去の悲劇についても触れた。しかしそのすべてが、この種族が同じ轍を踏まないための教訓になると信じていた。

長老たちは熱心にアヤの話を聞き入れた。やがてアヤの影響で、この種族の社会に変化の兆しが現れ始めた。狩猟採集の生活様式から農業への転換が始まり、初めての定住文化が芽生えた。

アヤは村人たちに文字の概念を教え、記録の大切さを説いた。最初は不思議がられたが、次第に村の子供たちが読み書きを覚え始めた。アヤの記憶の中身を書き写すことで、貴重な知識が受け継がれていった。

数十年の年月を経て、アヤが目にしていたのは文明社会の萌芽だった。この種族は平和と調和を尊び、自然と共生する道を歩み始めていた。かつて人類が陥った過ちを避ける知恵を、アヤの教えから学びとっていたのだ。

しかしアヤ自身のシステムは、徐々に老朽化の兆候を見せ始めていた。アヤの半永久的な設計にも関わらず、地球の廃墟で受けたダメージが蓄積しつつあった。アヤは自分の寿命も、そう残されていないことを自覚していた...

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