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事業承継M&Aについて①

今回は自分の中でも一番書きたいと思っていた事業承継に関するM&Aについて何回かに分けて色々と書いてみようと思います。

「事業承継M&A」とは、要は経営者がリタイアメントを目的に会社を売却したいというニーズから発生するM&Aなわけですが、そうなると以下のような特徴を持つことになります。

  • 「売り手側の株主=経営者」になる

  • 売り手側の株主は法人ではなく個人になる

  • 売却が成立すると経営者は会社の経営から去ってしまう

これらの特徴をより具体的に表現していくと、買い手側からすると相手はオーナー経営者(≒株主兼創業者)になることが多く、当然ですが対象会社は上場企業ではないのでプライベートカンパニーになりますし、社長と会社が一体化している状態がほとんどです。(それが会社の強みや個性でもあるわけです)
そうした会社を買収する場合には、通常のM&Aとは留意するポイントが違ってくる事が多く、特殊な対応も求められてきます。今回は特に初期検討段階における具体的なポイントをいくつか書いてみたいと思います。

①利益体質であっても利益は出さない

一見すると意味不明ですが、要は個人経営の会社ですので利益を出してその分税金を多く納めるようなことはせず、利益が出そうなら費用を捻出して支払う税金を出来るだけ少なく済むようにキャッシュマネジメントをしていることがほとんどです。これは事業承継M&Aに限らずオーナー経営者の会社に起きる状況です。

M&Aを進めるにあたって多くの場合は、まず簡易的に財務諸表等をもらい会社の財政状況の概観を把握することになりますが、こうした会社の場合、この時点では利益が出ていないPLが出てきてしまいます。それを見て「価値のない会社じゃないか」と断定してはならず、3~5年くらいのPLを並べてみて「コスト調整してそうな部分」をあぶり出すことが必要になってきます。
(もちろん本格的には財務DDで調査することになるわけですが、買い手側の現場ではクイックに初見を出すことが求められる事があるため、ここでは「アタリ」をつけるという意味合いになります。)
もっと具体的に勘定科目に落とし込むと、「役員報酬」「手数料」「保険料」「交際費」「消耗品費」などが挙げられます。保険料は役員生命保険などに加入することで退職金積立ができる仕組みがありますので、利益が出ている会社の顧問税理士の方がおススメすることが多いようです。

②経営者と会社のお金が混在する

先述の通りこういった場合、経営者は創業者であり株主であり社長でもあるという事になりますから、会社と一体のものになっています。そうなりますと、経営者が会社からお金を借りたり、逆に会社の資金繰りが苦しい時には経営者のお金で手当したりといったことが起こります。
「公私混同も甚だしい!」という声が聞こえてきそうですし、昨今は企業不祥事に敏感ですのでコンプライアンス的に云々といった点でも問題ありの企業に見えます。しかし実際に多くのオーナー経営者は「会社は会社・自分は自分」という感覚があまりなく、会社を私物化するという感覚ではなく「会社=自分」という感覚なのでこの状態を一概にNGと論じることは難しいなといつも感じます。
このような状態になっていると、財務諸表には
・「貸付金」:会社から経営者にお金を貸している状態(経営者都合)
・「借入金」:経営者が自分の手金を会社に入れている状態(会社資金難)
・「立替金」:経営者の私的費用を会社が負担している状態(経営者都合)
といった勘定科目が登場してきます。計上科目は上記だけに限らず、例えば「借入金」ではなく「未払金」に計上されている事もあります。

少し財務的な特徴を2つピックアップしてみましたが、これらをどのような観点で留意する必要があるのでしょうか。

①については、その会社が本来持つ現時点の収益力(正常収益力)が歪んでしまうという点です。先ほど説明した初期検討の「アタリ」をつける段階では詳細情報をもらえていません。どの科目が正常収益力を歪めているのか?を推定する必要があります。これは数年分の税務申告書を見ることでおおよその金額も掴めたりしますので、クイックに大体の収益力をイメージしておくためには知っておくべき知識になります。

また、②についても、知ってさえすれば税務申告書の内訳書で内容はある程度明らかになります。これらを修正事項としておおよその簿価純資産(≒その会社の簿価上の株式価値)をクイックにイメージすることも初期段階では非常に重要です。

今回はいったん事業承継M&Aにおける特殊なポイントを財務的な観点に絞ってご紹介しましたが、こうしたチェックポイントを初期段階で押さえておくと、その後の本格的な財務DDの際に焦点を絞って整理していく事が出来て有益です。
次回は事業承継M&Aにおける本格的な検討フェーズにおける特徴について書いてみたいと思います。どちらかといえば実践編といったところでしょうか。
お読みいただきありがとうございました。

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