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糖質な彼女~読書記録317~

坂木司リクエスト「和菓子のアンソロジー」の中の一作品である。

「和菓子」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?読書家としても知られる『和菓子のアン』の著者・坂木司が、今いちばん読みたい人気作家たちに執筆を依頼。日常の謎を描くミステリーから、壮大な世界観を展開するSF、心温まる優しい怪談まで、さまざまな読み味の作品が揃いました。疲れたときに読みたくなる、宝箱のような一冊。
読書家としても知られる作家・坂木司が、読みたいテーマを読みたい作家たちに“お願い”して実現した、和菓子モチーフの短編集。


という事で、この中の「糖質な彼女」。こちらが個人的には一番強烈だった。あくまでも個人の見解であり、小説というのは人の好みがあるので、私には、だ。

簡単にネタバレをしてしまうと。。。

主人公の男性は大学生で引きこもり。母に連れられ、総合病院の精神科に通院している。他人と口をきく事が出来ない。
母が診察室を出ていき、医師と2人になったところで、医師が本音を言い出す。

「予言してやるけどな、おまえ復学、ムリ、ひきこもり人生まっしぐら」
僕のカルテを、まるで汚れた雑巾か何かのように、指先でつまんでひらひらさせながら、医者はさらに嘲りつづける。
「こう、こっちが聴診器かまえて、服めくってくれますか、って頼むじゃん?そこで自分でシャツめくりあげるやつは、まだいいんだよ。少なくとも、自分でやろうとする意志が残ってるなら、望みはある。ところがおまえみたいに、うつむいたまま指1本動かさねえで、母親に「ほら、ヒロくんバンザイして!」とか言われてズボンにまで手ぇ突っ込まれて、やっと露出しているようなやつは、もう1ミリも可能性残っていない。そのまま大学休み続けて、中退して、就職もしない。あのお母ちゃんにパンツ穿かせてもらいながら、オッサンになって。ジジイになる。お母ちゃんが死んだら、そこで飢え死に。ジ・エンド」(本書より)

これは、かなり辛辣な言葉であるが、的を射ていると思う。この主人公は母親の過干渉から自分の意志を失っていたのだ。希望する進路も反対された。
小さい頃からを想い浮かべると、母親の一喜一憂に振り回されてきたのだった。
総合病院内で「スタバに入りたいわあ」「スタバ」「スタバ」と騒ぐ母を「死ね!」と突き飛ばし、逃げた主人公。だが、お金は持っていない。母が全て管理しているから。
そんな時に、昔から好きだった元アイドルに出会い、元アイドル・りりに連れられ、病院内にある作業所へと連れて行かれるのであった。
彼女は「とうしつ」と言っていた。主人公が「糖質」と受け取っただけで、「統合失調症の略」であった。そこの作業所は、統合失調症患者が和菓子を作る場所だったのだ。
そこに来たのは主人公の主治医の精神科医。なんと、りりの主治医でもあったのだ。
医師曰く、主人公の母と、りりの母は同じなのだという。子供を自分の思うままにコントロールしていく母。
りりは本来は、静かに本を読んでいたいタイプであったがステージママの元、アイドルになり、支配され、いつしか引退していった。もちろん、精神科に入院などは世間には内緒だ。
子供は、何らかのきっかけで統合失調症になったり、引きこもりになってしまったり。冷たいぶっきらぼうな医師に見えたが、主人公が立ち直るきっかけを作ってくれたのもこの主治医だ。


と、ここで私が思い浮かべるのが、自称少年革命家を名乗るYou tuberである。
この本に出て来る毒親は母の方だが、少年革命家の父は、まさに毒親ではないだろうか。
あの少年革命家のYou tubeなどでの発言は本当に自分の意志なのだろうか?
この本に出てきたアイドルのように、毒親の支配の元、演じているのではないだろうか?
そう思うと、彼の今後が心配になってしまう。小学校も殆ど行かされていない。
「学校に行くやつはロボットだ」
などと言うが、彼自身が毒親のロボットではないのだろうか。
小学校中退の人間に仕事は満足にはないだろう。You tuberを年金暮らしになるまで続けるような実力はないと個人的に観ている。
いつかは彼も壊れてしまうかもしれない。親から逃げるようにアドバイスしてくれる大人が廻りにいない。
可哀想に思えた。

中学生の彼が本当に付き合いたいのは、こんな大人なのだろうか?
哀れだ。
親は子供をコントロールしてはならない。深く想うのであった。



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