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皮膚疾患のとらえ方(4)/合宿のテーマより 

講師 小林詔司 / 文責 積聚会通信編集部

『積聚会通信』No.8 1998年9月号 掲載

今回は皮膚の性状についてみてみよう。

皮膚の性状を観察するには、アトピー性皮膚炎が典型的で分かりやすい。

重症のアトピー性皮膚炎の症状は次のようにまとめられる。

  1. 皮膚が非常に厚い。 

  2. 手を近づけると火照りを感じる。

  3. 皮膚が厚いにもかかわらず患者は非常に寒がる。

  4. 表面に亀裂が入ったり赤く爛れ、じくじくと組織液が染み出る。

  5. 非常に痒く、症状が強くなれば痛みになる。

  6. 落屑がひどく、常に皮膚が白い粉を吹いているようでそれが落ちて敷布団や下着が汚れる。

  7. 症状は全身に及ぶ。

炎症が軽くなると、次のような経過を経て、症状は収束する。

まず落屑がなくなる。皮膚の厚みがなくなり寒がらなくなる、皮膚の赤みや火照りが弱くなり、それとともに痛みや痒みがなくなる、炎症部位の面積が狭くなる、というものである。

さてここで重要な点は、皮膚が非常に厚くなり、赤くなり、火照るにもかかわらず患者は非常に寒がるという点である。

これは一見、皮膚が厚くなって身体が冷えないように保護しているかのように思えるが、その実は逆で、身体がいろいろな理由から冷えた結果皮膚の性状が厚くなってきたとみるもので、このように理解すると他の症状にも応用が利く。おそらくは患者の自覚しない段階で身体の芯に何らかの冷えが生じ、その程度が徐々に強くなり、それに伴って皮膚の性状が変化していくものと類推できる。

この症状の治療に触れれば、基本治療をするときに背部兪穴(特に督脈を用いる)には鍉鍼を用いて逆治を施し、補助的手段として、失眠の半米粒の透熱灸を加えるのが基本的である。

鍉鍼の扱い、灸の壮数あんど患者の年齢や重症度に応じるもので、強い刺激を避けるようにして治療回数を増やすのがよい。

もちろん患者の食べ物などの生活内容の検討は重要である。

一般的な皮膚の性状や厚さの判断は以上に述べたアトピーの例に準じて判断する。

まず皮膚表面の状態は、落屑をみる、乾燥している、ざらついている、潤っている、湿っている、水疱があるなどの段階が想定できる。

潤っている状態を正常とするが、その他はいずれも熱症状であり乾燥の程度による区別である。

この熱や液性は、本来身体の中にあって身体を潤しているものであるから、身体の芯の力が十分であれば皮膚表面に浮き出てこないものである。

この熱はまた皮膚の厚みの異常となっても現れる。

厚みの異常には、皮膚が肥厚する場合と逆に薄くなる状態がある。

また皮膚が肥厚する場合は、弾力性が弱く固い印象を受けるものと弾力性があって軟らかい印象を受けうるものがある。この善し悪しは、弾力性がある方がよく、無いほうが悪いといえる。皮膚が肥厚して弾力性のないものは往々にして浮腫を伴うが、強皮症などはその典型である。

皮膚の薄くなったものも観察されるが、この場合は知覚も過敏になる。

舌がひりひりするなどもこの類であるが、やはり熱症状として把握し、身体の芯の冷えを治療の焦点とする。