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さっそく読んでみた、田中伸弥さんの「落合の左足」です。

 巻頭随筆を読んでいて驚きました。2012年の芥川賞を受賞された田中伸弥さんが、メジャーリーグで活躍されている大谷翔平選手のバッティングについて書かれています。これがまた、目からうろこの随筆だったのです。

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 田中伸弥さんは野球ファンだったのですね。記事は大谷選手の体の特徴に始まって、やがて”バッティング時の呼吸”的な事柄について触れられています。うまくpowerを放出する際のメカニズムを論述するあたりから、私はなぜかハラハラとしてきて、えっ、そんな事書いてしまっていいの? というような事柄まで……。そうなれば私の読む目は、次の行、さらに次の行へと、いったいどんな結論へ導かれるのかと興味津々に読み進めていきます。

 ページをめくって何行目ほどの事であったか、あれ、違うぞ、と何となく視野が広がりそうな予感。読み終えて、はあ、そうか……と。私のハラハラしたのは、作家がスポーツ力学の理論を書けるものなのか? という視点でした。しかしここに書かれていたのは、スポーツに限らずあらゆる全ての人の行いに通ずる”うまい力の出し方”でした。まさに、しゃにむに事を行うその人自身では気づけぬ、他者の観点からでこそ見出される理論であったのです。そして、それを自身で会得して実践されたものが、「落合の左足」の動きなのですね。著者の、「それらが分かってから書いていては一生が終わる。分からないから、やる気がないから書いている」との言葉が印象的。

 田中伸弥さんの「共喰い」は、「文藝春秋」で読ませていただきました。今この作品を思い起こすと、ポンッ! という音が出てきます。前半で説明された装具から出るこの音が、後半で鳴ったその後…………すごいですね。

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