平成時代のデジタルトランスフォーメーション(DX)とAccessおじさん

 これはエッセイというものなので、自分の経験から「そうじゃないんかね?」と思ったことを書いた文書なので、そういう風に読んでください。

 想定読者は大学生くらいなので、かなり冗長に書いています。

Accessおじさん

 自分が今の職場で働き始めた頃、いろんなコンピューターのシステムが稼働していた。今の職場は伝統と格式があるといえば聞こえはいいが、昔ながらの典型的な日本の組織である。

 職場にはいろんな仕事があって、職場のメインの仕事には高くてパソコンのソフトを開発する業者に発注して作ってもらった基幹業務システムがあり、Windowsにインストールするようなソフトや、Web画面で操作するようなもので仕事をする。が、こういうものは相当つくると高い。

 一方、会社には総務部というところがあり、大量の種類のこまごまとした仕事が存在する部署もある。そういうところではどうするか。専用のシステムなんて組んでられない。経理部や人事部であれば、一応ある程度どこの会社も同じ仕事なので、パッケージソフトというのを買ってすることができる(契約すれば、ある程度自社向けに簡単に改造してくれるものもある)。それでもダメな場合はどうすればいいだろうか。

 本当に小さな仕事であればExcelとWordでできるが、こういう時に出てくるのが、今回の主役のAccessというソフトである。趣味でAccessを使う人はおそらくいないであろうから、仕事をする人が使うので縁がない人もいるかもしれない。

 上記で上げた、専門の業者が作る基幹業務システムパッケージソフト、誰でも使えるExcelとWord、この中間がAccessである。という事は、専門のプログラマーではないがそこそこ練習すれば使えるようになるのがAccessで、このエッセイの主人公はプログラマーではないがそこそこ練習してAccessを使えるようになった人、つまりAccessおじさんである。念のため書いておくと、うちの職場は旧態依然なので、知る限りAccessを作る方で使えるのはみんなおじさんでしたのでこう書くことにします。

 Accessってどんなソフトなのかというと、素人でもそこそこ「パソコンのソフト」のように見えるものを作ることができるソフトである。実際、グーグル画像検索でAccessと打ち込めば、昔のパソコンのソフトみたいなものが出てくる。こういうのがそこそこ簡単に作ることができる。習えば一年くらいでそこそこの物ができると思う。

 上記の専用のソフトを作るには、知識のみならずそもそもかなり高いプログラミング用のソフトを買わなければならなかった(10年前くらいはそうだったと記憶してる)が、これはOfficeの業務用のやつであれば大抵ついてきてくれるので、かなり安い。しかも、無料のランタイムというのがあって、いざとなればAccessでシステム画面っぽいのを作る人はちょっと高い正式版のAccessを、単に作ったものを操作して情報を打ち込むだけであれば、無料のランタイムを使うことができたのでかなり安上がりにそれっぽいシステムが作れる。

 ここまで書くと「お、これって今新聞紙面やら雑誌を騒がせてる、DXとかいうやつではないか」と思う人も出てくるであろう。そうなのである。まさに、DXである。というか、新聞でDXというのを読んで「これ、Accessじゃん」と思ったから書いたというわけである。DXもいろいろあるが、ローコードやらノーコードとかいう、本業のプログラマーよろしく難しそうなのを延々とキーボードで打ち込まなくても、そこそこちゃんとしたシステムが作れるという点で、Accessは平成のDXだし、DXは令和のAccessである。

 問題は、彼らは衰退していったという事である。なぜであろうか。

Windows 95というもの

 1995年、Windows 95というものが発売された。Windows 95は簡単に言えば、大昔の基本的にキーボードで全部操作するパソコンから、今のWindowsのように、窓を複数並べたり、マウスでポチポチしてたら大抵の操作ができるようになり、パソコンの敷居がだいぶ下がった点で革新的なOSであった。

 そうすると、みんなパソコンを使い始めるようになる。すると、その中で専門的に学んだわけではないが、そこそこパソコンが得意な人間が出てくる。最初はWordやExcelを普通に使う。そのうち、その中に入ってるマクロという、半自動化機能(ちょっとプログラミングの真似事みたいなことができる)を使える人間が出てくる。そして、その中からAccessおじさんが登場するのである。

 このAccessというソフト、上記では「基幹業務システムExcelとWordの中間」と書いたが、実はやろうと思えば基幹業務システム(一部パッケージソフトも)と連携させることができる。

 Accessには重大な欠点があり、Accessのみであれば、本当の意味で「何もしていないのに壊れる」のである。普通に使っていくと、データの蓄積が発生する。データを打ち込んで保存していくと、どんどんたまっていく。で、昔は2GB分、データがたまるとほぼ確実に壊れる(たまに、本当に何もしてないのに、普段使ってたAccessがある日突然「壊れる」こともあった)。Accessは簡単にいうとデータ(データベース)のファイルシステム(プログラム)のファイルに分かれてるので、あらかじめシステムの方のファイルにデータベースのファイルを切り替えられるように仕込んでおいて、一年に一度くらいで切り替えれば、まあ使えるのだが、ここでデータベースだけ、基幹業務システムのしっかりしたデータベース、システムだけAccessにすれば、かなりしっかり使えるシステムの出来上がりであった。まあ、たまに何もしてないけど壊れるが。

 そういう人たちが、この旧態依然な職場にそこそこ存在していた。そして、定年退職で他社から再雇用されてきた人の中にも、一定数Accessおじさんがいるようであった。話をしてみると、そこそこAccessができると答える人がいる。おそらくであるが、実際日本社会ではまだそこそこAccessおじさんが存在しているのではないかとおもう。

 こう考えれば、日本も案外捨てたもんじゃないのではないか。Accessでシステムを組むのは、もちろんマウスで操作することもあるが、本格的なプログラミングとまではいかないまでも、Visual Basicというプログラミングっぽいものを打ち込む必要がある。ある程度のIT人材ではないか。

Accessおじさんは何故衰退したのか

 と、上記でAccessおじさんの誕生の経緯を説明してきた。しかしながら、令和の時代のDXにAccessの話なんて一切出てこない。

 しかも、なんとうちの職場でもAccessはそこそこ厄介者扱いされてしまっているのである。なぜであろうか。

 理由はいくつかある。一つは、独学である。Accessおじさんは、大抵は半分仕事、半分趣味でAccessを始めた可能性が高く、勉強も自習である。すると、似たようなAccessをつくっても、Accessおじさん同士で作り方が違うので、人事異動でAccessおじさんAがつくったAccessをAccessおじさんBが解読しようとしてもなかなか難しいのである。自由度が高い反面、統一された設計図がないので引継ぎが難しいようである。当然、分業して大きなプログラムを作るのも難しい。知識が違う。そして、そのままメンテナンスされずに使い続けられると、上記のようにある日突然なんにもしてないのに壊れる。たまに、システム内に一部簡単にいじれないようにパスワードを仕込んだが、パスワードを忘れる。

 そして、これがもう一つの理由につながっていく。Accessおじさんが作ったAccessは、最初は怒涛の生産性を発揮する。しかしながら、年を経るとAccessがないと仕事が回らない一方で、Accessを修理や修正することができなくなってしまう。すると、一気に邪魔者扱いされてしまう。Accessで仕事がすごく効率化されたのに、下手すれば一切評価されない事態になるところか、忌み嫌われることになってしまう。しかも、評価されないのでAccessおじさんもやる気をなくしてしまう。しかし一方、Accessは何もしてないのに壊れる。で、修理に呼び出される。うっとおしがられる。

 別の問題として、観察しているとAccessというのはある程度熟練してしまうと、その先に進めなくなるようである。つまり、Accessに頼らない高度なプログラムを組む方向へ進めないようだ。Accessは便利な一方、どうしても動作がワンテンポ遅い。場合にもよるが、複雑なものになるとボタンを押すと1分くらい待たされたりもする。ちゃんとしたプログラミングで書いたソフトであれば、そういうことにはなりづらい。

 もう一つ言えば、これは日本の特殊事情かもしれないが1995年あたりから就職氷河期が始まり、採用人数を絞ったせいで、年功序列が強い職場でさえAccessで作ったシステムの仕組みを伝えることができなかったのかもしれない。

結局、ダメじゃん?

 結局、Accessおじさんというものは、日本社会でそこまで愛されなかったようである。自分はAccessがそこまで使える人間ではなかった(挑戦したけど、仕事で作るものがなかった)が、令和のDXの時代、DXツールでいろいろな仕事道具を作ったDXにいさんねえさんは、Accessおじさんのように最後は捨てられてしまうのだろうか。

 そもそも、DXするのなら、かつてのAccessおじさんに、MicrosoftであればPower AutomateというAccessのWeb版みたいなのに移行させるような本(おじさんはWebの解説より本の方がいい)を出して、きっちりフォローしてあげてほしいな。とふと思う。

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