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歌舞伎座「四月大歌舞伎」第三部

 東京の桜はこの2、3日が見頃。チラシにも桜が咲く、歌舞伎座の四月公演が初日を迎えた。

 今日は第三部を観に行った。まずは『ぢいさんばあさん』。
 配役は以下の通り。
  美濃部伊織 :片岡仁左衛門
  下嶋甚右衛門:中村歌六
  宮重久右衛門:中村隼人
  宮重久弥  :中村橋之助
  久弥妻きく :片岡千之助
  戸谷主税  :片岡松之助
  石井民之進 :片岡亀蔵
  山田恵助  :河原崎権十郎
  柳原小兵衛 :坂東秀調
  伊織妻るん :坂東玉三郎
 この演目は個人的に大好きな演目で、仁左衛門玉三郎のコンビで演じられるのは平成22年2月の「歌舞伎座さよなら公演」が最後。この時の映像を観たのが最初で、今公演はそれを思い出す配役だった。
 そして今日は六月に歌舞伎座で仁左衛門玉三郎のお富与三郎をやることが発表されたこともあり、仁左玉ファンは浮足立った様子だった。
 これは個人的な意見だが、この作品は数ある仁左衛門さんと玉三郎さんのコンビ名演の中でも一層その睦まじさがわかるものだと思う。この作品は森鷗外原作だが、作・演出を務める宇野信夫の色が色濃く出ている。仲睦まじいおしどり夫婦が夫の過ちをきっかけに37年間バラバラになり、互いに年を取ってから再会するというあらすじだが、この夫婦関係が非常に重要だと思う。歌舞伎の夫婦役は並んだ時の見栄えなどで満足してしまいがちだが、先月の『芝浜革財布』然り、人情物はその夫婦の情愛が出ないと白けてしまうと思う。特にこの作品は新婚の若夫婦と再会を果たした老夫婦をタイムワープで演じないといけないのが難しいだろう。しかし、この二人は容姿の美しさもさりながら、若いころから「孝玉コンビ」「TTコンビ」として積み重ねてきた実際の年月がある。そのため仁左衛門さん玉三郎さんがそのまま伊織とるんに見え、舞台上に1mmも違和感がない。この二人のコンビ芸の真骨頂ともいえる、雰囲気がそのまま芸となったような作品が大好きで、私は仁左玉コンビで三本の指に入れて数えている。
 他の役を見ると、まずは歌六さんの下嶋。どの社会にもいるような、我々にも身近な嫌な奴で、しかし悪気がないので客席から見ると愛すべき男だ。その点歌六さんは少し本人の優しい人柄が見え隠れしてしまう。
 隼人さんの久右衛門は若々しい弟。この人と並んでも老けて見えないのが仁左玉のすごいところ。
 その息子夫婦である久弥ときくは橋之助さんと千之助さん。序幕の伊織るんに対比しても実年齢もあってさらに初々しく見える若夫婦振り。思えば平成22年の公演では久弥は中村芝翫さん(当時・橋之助)、きくは片岡孝太郎さんだった。その息子同士が12年ぶりに同役を演じることに感慨を感じる。(千之助さんと同年代の私が言うセリフではないが。)ただ、叔父夫婦のために用意した新品の座布団に座るくだりで、今回は実際に座っていた。その後久弥はしっかり座布団を裏返していたがきくはそれがなかったためすこし違和感が残った。
 二幕目の「京都鴨川口に近い料亭」は男同士の沸き合い合いとした風情ある空気が見どころだが、今日は松之助さんが台詞を忘れてしまう初日らしいミスがあったため少しその空気が乱れた。「京の月に江戸の花の散る風情だ」は非常にきれいな場面だが、三階席からは月が見えないのが残念。
 
 幕間を挟んで最後は玉三郎さんの『お祭り』。
 若い者には中村福之助さんと中村歌之助さんの兄弟。
 女形一人で演じる『お祭り』は初めて観た。直前まで白髪の老婆姿を観ていた効果もあるのか、玉三郎さんの若々しく美しいことに驚かされた。同年代の幹部俳優が亡くなったり体調を崩したりしている中、この人は老いを全く見せない。その若さの秘訣は舞踊にあるのだろうと感じる一幕。
 ちょうど一昨日、今東京国立近代美術館で行われている「鏑木清方展」を見てきたこともあって、まさに清方の絵から抜け出してきたかのような芸者だった。
 あっという間に終わってしまったが、短時間で『ぢいさんばあさん』でしんみりとした客席を華やかに締め、帰りは晴れやかな気持ちで帰ることができた。

 私事だが、四月から新生活が始まるため今後の観劇がどうなるかわからない。本当は第一部の『天一坊大岡政談』も見たいがチケットを取れていない。なんとか観に行って、またこうして感想を書きたい。
 ちなみに、「三本の指」残りの二本は『吉田屋』と『二人椀久』。
 
 
 

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