分霊箱で酒を飲む
分霊箱とは、小説「ハリー・ポッター」シリーズに登場する闇の魔法アイテムである。
その中に自分の魂を分けて入れておくことで死後も復活できるようになる、いわば残機だ。
強力な効果をもつが、もちろん相応の制約も存在する。この分霊箱を1つ生み出すには、自分の魂を引き裂くような壮絶な悪行……つまりは殺人を犯さなければいけないのだ。
1個つくるだけでもおぞましいこのアイテムを、ラスボスたるヴォルデモートは7つも生み出しており、終盤ではこの分霊箱を巡る攻防が物語の軸となる。
大のハリポタファンの僕は、もちろんこう思っていた。
「分霊箱、欲しすぎる~~~~~!!」
「特に、『ハッフルパフのカップ』が!!」
「それで酒とか飲みたい~~~!!!」
子どものころの僕は、こう思うまでで諦めていた。まずお酒が飲めなかったし。
しかし今は立派な大人。欲望のために使える金額が、10年前の比ではない。
つまりは、こういうことである。
購入した場所は、としまえん跡にある「ハリー・ポッター」のテーマパーク「ワーナーブラザーズスタジオ東京」。
精巧なレプリカということもあり結構な値段はしたが、屁でもない。大人なので。
ともかく、見てくれよこの完成度を。
こちらの「ハッフルパフのカップ」はヴォルデモートが生み出した7つの分霊箱のうちのひとつ。
ホグワーツ創始者の1人ヘレガ・ハッフルパフの所有物であった黄金のカップを分霊箱にしたものだ。
ハッフルパフのシンボルであるアナグマのレリーフも見事に象られている。
細かい意匠も実に精妙。ハリポタファン垂涎の一品に仕上がっている。
さて、カップを一通り堪能したところで……
これで酒を飲みます。
「ハリー・ポッター」作中では、分霊箱みたいな超重要アイテムで酒を飲むなんて考えられることではない。
というか、分霊箱には邪悪な魂が宿っているので、そんなもので汲んだ酒が安全なわけがない。
だからこそ、憧れるのだ。
作中であのヴォルデモートが大事に大事に守っていた分霊箱にお酒をつぎ、ゆっくりと楽しむ。
なんと痛快な経験だろうか。
そもそも、カップは飲み物をついでなんぼのアイテム。
購入したからにはやってみないと気が済まない。
ならば善は急げ。
ヤッホーブルーイングの「僕ビール君ビール」。フルーティーな口当たりが特徴の美味しいビールだ。
特別なカップにつぐのに相応しい1本だろう。
それでは、さっそくカップについでいこう。
ヴォルデモートも、まさか自分の分霊箱にビールをつがれるなんて夢にも思うまい。
底に穴あいてるじゃん!?!?!?
どういうこと!?
飲み物、全部こぼれちゃうじゃん!!!
カップとして成立してないじゃんんんん!!!!
ヴォルデモートだけではなく、このレプリカの製作者すらビールをつぐことを想定していなかったようである。
この分霊箱、レプリカであろうとするあまりカップとしての機能を剥奪されていたのだ。
これでは僕の悲願は達成できない。
ならば、選択肢はひとつ。システムを根っこから改善するのだ。
このテープで穴をふさげばいい!
よし、再トライ!
やった、つげた!!
見たか、ヴォルデモート!!
今から、お前の魂を入れたカップでペールエールを飲んでやるよ!!
「ゴキュゴキュゴキュ……」
「うっっっっま~~~~~!!!!」
魂の味、っていうのだろうか?
普段飲んでいるビールよりも、2段階ほど美味しく感じる。
一時おあずけを食らった分美味しく感じているだけかもしれないが、それはそれでいい。
夢を叶えたあとの勝利の美酒なのは変わりないのだから。
この痛快な罪の味、お財布に余裕があれば皆さんもぜひとも試してみてほしい。
(終)
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