#218 江戸っ子が「宵越しの銭を持たない」理由

江戸っ子は「宵越しの銭を持たない」と言われる。その日稼いだお金はその日のうちに使い切るというのが「粋」なこととされていたのだ。
江戸に住む職人たちの享楽的な価値観があらわされているとも言えるのだが、「宵越しの銭を持たない」ことには合理的な理由があった。

1つは、当時の江戸は貨幣経済が発達し、仕事をすれば1日分の給料が貰えて、次の日もそれが続くのが当たり前だったということだ。人々の中に、仕翌日も仕事があり、それに見合った日給が支払われるという確信があったからこと、宵越しの銭を持たなくても生活が成り立っていたのである。

もう1つは、当時の江戸の火事の多さである。
江戸はたびたび大火にみまわれた。多くの人々が密集して木造家屋に住む江戸の町は、ひとたび大火にみまわれると甚大な被害を出した。

消防車や消火栓のない当時は、火事になると燃えている周囲の家屋を壊して延焼をいかに小さくするかというのが消火活動だった。消防署の地図記号が「Y」の字のような形をしているのは、家屋を壊すために用いられた「さすまた」に由来している。
現在も残っている「木場」という地名は、江戸時代に大火があった際に町の再建のための木材が置かれていたということが由来となっている。
江戸時代は火事があるのが当たり前、燃えたら作り直すというのが常識だったのだ。

そんな中で、木造の町屋に住む町人たちは高価な家財道具を持とうとはしなかった。高価な家財道具を揃えても、火災によって焼失するリスクが高かったのである。
そのため、日々の飲食や趣味にお金を使うというのが江戸の職人にとっては合理的な価値観だったと言える。

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【参考】


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