マーダーミステリーゲーム“ほしのおと”について。(または、unreliable scripture.)


注意

・本稿はマーダーミステリーゲーム“ほしのおと”に関するネタバレを含みます。

・本稿はマーダーミステリーゲーム“ほしのおと”の二次創作要素を含みます。

上記の二点ご留意の上、本文を閲読して下さい。





ーーーーーーーーーー

聴取


(橋本秋星、⬛︎⬛︎病院のベッドで横たわっている。)
(受け答えは明瞭。時折窓の外を凝視する様な素振りあり。)
(以下、述懐の一部を抜粋)

 今、一つの星が寿命を迎えました。
いや、これは例え話なのですがね。
僕たちが住む地球からはまだその光を確認できますが、実際には、もうその星は存在しません。
その星は地球から40350光年も離れたところにありますから、地球からその星の光を確認出来なくなるのは、今から40350年後です。
本当は、40350光年も離れている星を肉眼で観測することは出来ないのですが、、、。
これは例え話なので。

(橋本秋星、突如として入眠。十分程度後に覚醒。)

 女の子を育てていました。
おとちゃんという子です。
初めて見た時から、泣き虫な子でした。
泣き虫で、星が好きで、とってもかわいい子でした。
育てたと言っても、直接何かをしたということはありません。
僕はぬいぐるみでしたから。
ぬいぐるみの掟を知っていますか?
ぬいぐるみは、動いたり話しているところを人に見られてはいけないのです。

ーーーカートゥーンアニメの様ですね。

 、、、そうですね、僕も「あれと似てるな」って思いました。
いろんな事をしました。おとちゃんを元気付けたり、よりよく育てる為に。

〜〜〜

 10歳になったおとちゃんは、とっても良い子に育ちました。
ぬいぐるみは10歳までしか生きられません。
おとちゃんとはこれでお別れになります。
僕たちは、、、いえ、僕は、最後におとちゃんに何か言葉を伝えたいと思って、ぬいぐるみの仕業だとバレないように、おもちゃに仕掛けをして、おとちゃんに、愛情と祈りを込めてメッセージを伝えました。
もしかしたらおとちゃんは、お星様からのお告げと思ったかもしれませんね。

 その夜、ぬいぐるみとしての役目を終えるべく、僕は最後の報告をしました。
報告というのは、、、なんというか、ぬいぐるみの仕事のひとつです。
おとちゃんの1日の様子を報告するんです。
その翌日、僕はおとちゃんを殺しました。

ーーーどうして?

 (しばらく考えた後)そう聞かれると、答えに窮しますね、、、。
「そういう運命だから」と答えるのが、僕としてはいちばんしっくりきます。

 、、、本当のことを言うと、僕が育てていたおとちゃんは、僕が事故で死なせてしまってから40350年後のおとちゃんだったんです。
えっと、、、おとちゃんのお父さんは科学者で、自分が死んでからも正確なおとちゃんを再生するためのプログラムを組んでいたんです。
10年周期で。
なので、4035体目のおとちゃんの複製を、僕は殺したことになります。

 僕は、、、単純に、驚きました。
だって、やり直してるんだと思ってたんです。
僕が事故で死なせてしまった女の子を自分で育てて、今度はそんな事故なんて起きないようにするっていう、チャンスを、神様が与えてくれたんだって、思ってたから。
でも実際は違くて、僕の祈りはどこにも届いていなかった。
僕が見ていたおとちゃんは、もう随分前に存在しなくなってたおとちゃんだったんです。

 でも、その後、僕たちは本当のおとちゃんに会いました。
本当のおとちゃんはやっぱり死んじゃってて、天使みたいでした。
おとちゃんは僕に、「生きて罪を償って」とお願いをしました。
その為に僕は目覚めたんです。

 、、、これはお話するか迷ったんですが、僕には友達がいました。
バイク事故で一緒に生死を彷徨った友達。
そいつが最後に、僕に言葉を残してくれました。
それがあるから、僕はちゃんと生きようって、今思ってます。
まぁ、そいつは居なくて、本当は僕だったんですけど。

 「音」は「星」に届きません。
宇宙空間は殆ど真空で、振動が空気を伝うことはできないからです。
僕たちーー橋本秋星と乙木おとは、終ぞ通じ合うことはありませんでした。
でも、通じ合えないからこそ、人は人のために真剣に想い祈ることができる、、、。
「距離」があって、「断絶」があるからこそ、人は最後に、心の底から祈ることができるのだと、そう思います。

 めちゃくちゃな話でしょう?
でも、僕にとってはこれが真実です。


手記


 現段階の見解。
橋本秋星は事故に関するトラウマを克服する為に、“聴取”で述べた内容を自身に信じ込ませているのではないか?

 PTSDに陥った患者の中には、事実を覆い隠すカバーストーリーをでっちあげ、それを事実と捉えることで無意識下で心理的負担を軽減させようとする者がいる。
多くの場合は、カバーストーリーと現実との間の齟齬により脳が誤作動を起こし、種々の身体的な悪症状へと繋がる。
だが、橋本秋星が特殊なのは、そのカバーストーリーが全て本人の形而上の領域で完結していることだ。
よって、現実と認識のズレによる誤作動を起こす可能性が極端に低く、“橋本秋星とおとちゃんに纏わる物語”は聖典のように、橋本秋星の人生の方向性を決定付け、支える要因にまでなっているかもしれない。

 また、橋本秋星の述懐は妄言と言っていい程に荒唐無稽だが、受け答えははっきりとしていて、妙な一貫性と無視できない現実との符合がある。

 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ の父親には取材を拒否され続けているが、学友をはじめとした知人達に、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ の人柄面について(天文学への興味等)、諸々の事実関係を当たってみるべきだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?