0→6 First Fight

私には妹と弟がいて、妹が産まれるまでは
なんだかぼんやりすごしてた。
幼い頃のなぜなぜ期も、魔の2歳イヤイヤ期も
私にはなかった。
両親は高校を中退して籍を入れ
私の為にせっせせっせと働いていたので
子供ながらに
私が迷惑をかけたらいけない。
そう思っていた。

弟が産まれて
私は保育園に行く事になった。

家で空想の中で遊んでいた私に
同じ年の人間のお友達はムリがある。
しかも私は途中入園で
みんなはもう遊ぶ友達が決まっていた。
そんな私に声をかけてくれたのは
マキコちゃん
色が白くてまつ毛が長い
お姫様みたいな女の子。
園長先生のお孫さんらしく
みんなの人気者だった。

そして
マキコちゃんにいつもべったりくっついている
ゴリラみたいな女の子
マドカちゃん。
マドカちゃんはいつも
給食の時間になると、グループの子の牛乳瓶を取り上げてシャッフルして

『どれがお前のだ?』

って聞いてくるんだけど 
どんなに目を凝らして見てても
絶対に当たらないんだ。
そもそもゲームじゃないからね。

マドカちゃんと一緒になって
牛乳当てゲームをしてた
ダイスケくんには
藤棚とトタン板の間にボールを投げられて

『一緒に遊びたかったら、取って来い』

これが本当に怖くて
滑り台の遊具の隣にある藤棚に
柵の隙間をすり抜けて飛び移るんだけど
熊蜂がブーブー飛んでるし
トタンは古くてヒビが入ってるし
泣くと涙でボールが見えないし。
なんでこんな事しなきゃいけないんだろうって
幼いながらに思ってた。

マキコちゃんは
やっぱり優しくて
さらに頭も良くて
私が藤棚に行く前から
ダイスケくんと言い合いしてて
すごく怒って先生を呼びにいってた。
そのおかげで
私は藤棚から下ろしてもらうときに
先生に抱っこしてもらえた。
親にもあまり抱きしめてもらった記憶がない私は、それが本当に嬉しくて
先生の事は大好きだったし
マキコちゃんにも本当に感謝している。

藤棚にはもういけないけどね。

飽きもせず
マドカちゃんは私の牛乳をとりあげ
当たらない牛乳当てゲームを繰り返し
マキコちゃんと話せないように
ガードされたり
そんな毎日が本当にイヤで
ある日、母に思い切って

『保育園に行きたくない』

と言ってみた。
妹、弟をあやしながら
朝食の準備をしていた母の顔は
みるみる鬼みたいになって
ドライヤーが飛んできた。

『休むなら、自分で先生にいいにいきなさい』

そう言われて
お迎えのバスから降りて来た先生に
泣きながら休む事を伝えると
後ろから走って来た母にバックを渡され
結局先生になだめられながら登園した。

まだ若いお母さんは
子育てにも、生きていく事にも
とにかく余裕がなかったんだよね。
もっと強くて
ハッキリ『イヤだ』と言える子だったら
お母さんも苦労しなかったし
私も傷つく事はなかったかな。

あの頃の私は
自分は本当に
橋の下に落ちてた子だと思ってて
遠慮ばかりしてたけど
子供なんだから
もっとわがままでよかったと思うよ。


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