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素直とわがまま②            根拠のない自信の源

18歳の私が進路を決めるとき、
「進学でも就職でも、嫁に行くのも福岡から出さない」と言った父に対し、
私は「これは私の人生なんだから、私のわがままを通してほしい」
と言い放って上京した。
私はエディタースクールを修了したあと、
父との約束を守って実家に戻った。
就職先も見つかったが、なまじ編集について学んだことがあだとなり、
私は地元での仕事に満足できなかった。
だから、結局は「やっぱり東京へ行く」といって家を出たのだった。

それから10年ほど後のこと。
私の話を聞いた吉福伸逸さんが
「行かせてくれたお父さんはえらかったねえ」といったのだ。
それは私が考えたことのない視点だった。
私は自分のことしか考えることができず、
父の思いを知ろうともしていなかった。

「行かせてくれたお父さんはえらかったねえ」
父はおそらく、私が親元を離れると、
もう戻ってはこないことをわかっていたのだろう。
私をそばにおいておきたい、たぶんそう望んでいただけなのだ。

私はいつも、父に守られていた。
子ども好きの父は我が子だけでなく、
ご近所の子どもたちにもやさしかった。
動物も好きで、捨てられた犬や猫、あるときはフクロウも保護してきた。
まだ幼かったころの私は、いつも父のあぐらの中に抱かれていた。
私はその温もりを知っていた。
中学3年の春、同級生のお父さんが亡くなったという知らせが届き、
私は夕食が喉を通らなくなった。
見かねた父は私をすぐに原付バイクの後に乗せ、友達の家へ行ってくれた。
私は泣きながら父の背中の温もりを感じていた。

反対を押し切って親元を離れてからも、
一人で自分の道をしっかりと歩いているという私の根拠のない自信は、
たぶん、父のあぐらの中の安心感に源があるのだろう。
そうやって父の愛情を受けてきた私がここにいる。
私がいまも幸せを感じながら生きていけるのは、
父がくれたこの贈りもののおかげだろう。

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