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源氏物語と国宝「三十六人家集」

 先日、大河ドラマ「光る君へ」で、源氏物語の豪華本を製作する様子が描かれた。それを見ながら、私は母と一緒に出かけた九州国立博物館の「本願寺展」を思い出した。
 その年、親鸞の七五〇回大遠忌を記念する「本願寺展」が展示された。
世界遺産に選ばれた本願寺には「教行信証(きょうぎょうしんしょう)」ほか、国宝4件、重要文化財24件を含む約130もの品々が、遠い昔の生きた証として展示されていた。
 
 ドラマに登場した源氏物語の豪華本も美しかったが、その後生まれる国宝の「三十六人家集」は、それ以上の輝きを誇っていた。それはそれは見事なものだった。これほど美しい本は世界中のどこを探してもないと思われた。本の編集に携わってきた私が、見たかったのもそれだった。
 造本のなかでも「継ぎ紙」と呼ばれる和紙工芸について、王朝継ぎ紙研究会主宰の近藤富枝さんは次のように解説されている。

「継ぎ紙とは、平安時代に作られた極めて美しい和紙工芸の一種です。和紙をさまざまな色に染め、文様をきら刷りするなどしてさまざまな種類の紙を用意する。これを直線的に切り継いだり、自由な線で破り継ぎする。あるいは、少しずつ色の段階の付いた紙を重ねる。さらにその上に金銀の砂子や切箔を施したり文様を描き加えると、華やかで滋味のある繊細な料紙ができあがります。当時の継ぎ紙の作品としては、唯一『西本願寺三十六人家集』が残っており、世界にも類まれな芸術品として、平安の美とは何かを私たちに教えてくれています。」

(王朝継ぎ紙研究会 主宰近藤富枝)

 このほかにも雅やかな古筆、書院の室内を飾る荘厳華麗な障壁画群など、ため息の出るような美の遺産が掲げられていた。古くから綿々と受け継がれてきた日本の伝統を私は誇りに思っている。ドラマのなかでそれが見られたこと、脈々と続く歴史の重みには美しさ以上に強さが宿っていると改めて思った。
 



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