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脱炭素化における廃棄物発電の立ち位置とは?

今回は少し専門的な切り口から考えてみたいと思う。それが、ごみ焼却の未来について考えること、正確に言うと廃棄物発電の未来について考えてみることです。このnoteを書くきっかけとしては、僕の職場のUNEPと IGES-UNEP環境技術連携センター(IGES Centre Collaborating with UNEP on Environmental Technologies(CCET))、と廃棄物資源循環学会のコラボ企画で”廃棄物発電ガイドラインに関するウェブナー”を開催することになったことです。ちなみに、この他、コンポストに関するガイドライン、メカニカル・バイオロジカル・トリートメント(機械的・生物的処理)のウェブナーも今後開催しますのでご期待ください。

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1.ごみ焼却の現状とは?

今度のパネルディスカッションで僕が仰せつかったディスカッションタイトルは「Technology adaptation in developing countries, and the viewpoint of an international organization」、日本語に訳せば「開発途上国における技術の適応さについて、国際機関の考えとは?」となるかな?このタイトルをウェビナー準備段階でまじまじと見ると気になるのが、「開発途上国における技術の適応」、という文字のつながり。CCETのコラボで作成した廃棄物発電に関するガイドラインの目的は、アジアの開発途上国における都市ごみの環境上適正な管理における廃棄物発電の在り方や技術的な情報を提供することを目的としている。逆を言えば、先進国、つまり世界銀行の総所得データに基づく高所得国の国においては、廃棄物発電は必要な技術として理解してよいのかもしれない。

さてまずここで基本データのおさらい。この図は、UNEPの世界廃棄物概況や世銀の廃棄物関連データ、その他の参考文献をベースに一般ごみの廃棄物形態を2050年まで分母を地球丸ごと一個で予測してみたものです。

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2020年の一年間で廃棄される一般ごみの量は約21億トン、処分形態はオープンダンプ:50%、管理型埋立:11.4%、リサイクル:22%、廃棄物発電:15.2%、単純焼却:1.2%です。そして2050年の予想は、一般ごみの量は26億トン、オープンダンプ:42%、管理型埋立:12.9%、リサイクル24.2%、廃棄物発電19%、単純焼却:1.9%です。廃棄物発電に関しては2020年の15.2%から2050年には19%と多少は増えているが、一般ごみの排出量が約1.2倍増えているので、量的には約3.2億トンから約5億トンに増えています。これを2018年における所得別カテゴリーごとに見たのが以下の図です。一般ごみの処分形態における廃棄物発電の割合は、高所得国:15.4%、上位中所得国:9%、低位中所得国:1%、低所得国:0%でした。

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現在世界では約1700の廃棄物発電プラントがあるといわれていますが、その80%は日本(754基)、フランス(126基)、ドイツ(121基)、スウェーデン34基、イギリス46基、イタリア41基、アメリカ(77基)のような高所得国に存在しています。アジアでは、日本の754基に加えて、中国に286基、韓国に35基あります。

ちなみにここからちょっとお金の話し。廃棄物発電施設に必要な初期投資額は開発途上国では約42~90億円、先進国では約200~235億円、結構かかります。一方、何もしない廃棄物の不法投棄と野焼きは、廃棄物1トン当たり200~500円程度、低所得国が廃棄物発電施設初期費用を出せない理由はわかる。でも、もう一つ数値を見たらその考えは変わるはず。その数値とは、廃棄物の不法投棄と野焼きで生ずる環境汚染コスト。不法投棄・野焼きの環境汚染コストは、1トン当たり1万~1万3千円程度。世界で排出されている一般ごみ約21億トンのうち半分は不法投棄、その不法投棄の多くは野焼きされているため、単純計算すると年間6000~8000億円もの環境汚染コストを生じている。適切な初期投資、必要な環境汚染未然対策コストの方が、事後処理コストよりも圧倒的に低いことは明確だ。

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2.開発途上国における廃棄物発電の役割とは?

ここから当日議論されると思われるポイントを整理していきたいと思う。既に主催者や司会者から色々と連絡を受けているが、UNEPに対してみんなが聞きたいと思っていることは、「UNEPとしてごみの焼却や廃棄物発電を奨励するのか?」、この一点だと思う。日本は歴史的に見ても世界でも有数のごみ焼却・廃棄物発電王国であり、世論もそれを受け入れられているが、この感覚は日本人だけが持っていると考えたほうが妥当であろう。欧州でもごみ焼却や廃棄物発電は使用されているが、基本的にそれを極力避けるために、まずは上流で資源の効率化を進めつつ、廃棄物の分別を徹底的に行い、リサイクル効率を上げる、というのが原則。それでもどうしても残ってしまうゴミに関しては廃棄物発電で電気を活用し、埋め立て処分は最終手段である、という考え方である。日本はリサイクルはするけど基本的には焼却・廃棄物発電という感覚とは違う。

一部の国が高所得国入りをしてきているアジアの国では、廃棄物焼却や廃棄物発電に対するイメージ、世論、政策が移行してきていると感じる。例えば今から20年近く前では、ごみ焼却は環境・影響に深刻なダメージを与える、ダイオキシン類などを発生させるのでよろしくない、という考え方が大部分を占めていた。しかし、その後経済発展が進み、処分場がひっ迫し、環境技術開発の高度化も進み、関連する情報の包括的な理解度が向上し、一人一人の環境リテラシーが上がったため、ごみ焼却のイメージが変わってきている。我々が使うのが、国民一人当たりの所得が年間4000ドルを超えてくると、国民総所得(GNI:Gross National Income)グループ分けで高位中所得国に入るごろから、廃棄物管理の高度化が始まる一つの指標である。アジアでは今後も人口増加、経済成長、資本主義の高度化が進むため、廃棄物発生量も増加することは明らかである。二国間クレジット制度を活用し、日本のプラントメーカーがミャンマーで廃棄物発電プラントの建設・運用をしているのが一例だが、今後もこのような動きは多く見られる。

ではアフリカはどうか。アフリカ大陸初の廃棄物発電プラントがエチオピアに2018年に建設され運用が始まったものの、その運用が軌道に乗るまでは少々時間がかかる見込み。しかしアフリカの場合は、そもそも廃棄物管理がまだ十分に整備されていないので、廃棄物発電プラント建設・運用というよりかは、まずは分別から始めよう、という現状である。廃棄物発電を設置・運用すればごみ問題が解決する、という安易な考えは大間違いということを認識しなければならない。

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でもここでの問題は、廃棄物管理だけを見た場合は、この考え方でよい。つまり、環境上適正な廃棄物管理を実施するための選択肢の一つとして廃棄物発電は重要であるということ。CCET廃棄物発電ガイドラインの6ページ目に記載してあるプレチェックフローにすべてのチェックが付き、実行可能性調査を実施し、技術的・資金的なめども立ち、長期的な運用の見通しが立てば、というのが大前提である。これをクリアしない限りは廃棄物発電は選択肢にはならないし、その場合は廃棄物発電の導入をしないほうがよいであろう。無用な産物、座礁資産(Stranded assets)とならないためにも。

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3.日本はどのように進んできたのか?

ここからは、脱炭素化、グリーンテクノロジー、グリーンニューディール、スマートグリッド、という文脈からの廃棄物発電を考えてみたい。EUでは2011年にEU域内における温室効果ガス排出をゼロにする欧州グリーンディールをスタートさせ、それに伴い、特にEUや日本をマーケットとしている大手企業もビジネスとして2050年脱炭素化宣言・ロードマップを明確にしている。日本も、周回遅れ気味ではあるが、ようやく2050年脱炭素化を明確にし、この2050年が脱炭素化を達成する目標のであるのがデファクトスタンダードとなっている。

日本では、脱炭素化宣言の一歩手前として低炭素化社会という単語が2000年代のキーワードだった。日本は衛生管理やその地理的な条件から焼却を中心とした廃棄物処理を進めてきたことから、廃棄物発電は一つのスタンダードな焼却施設として廃棄物インフラに組み込まれている。1990年代から国内でも始まった気候変動対策に対する焼却・廃棄物発電からの二酸化炭素排出においては、①徹底した廃棄物の分別、②技術革新によるエネルギーの効率的な回収とその利用の高度化、が主軸とである。低炭素化社会+循環型社会形成として日本が力を入れていたのがエコタウン政策。廃棄物業界内での企業間、特にこのエコタウン事業から必須となったリサイクル事業者との統合的な静脈産業システムを構築することで、廃棄物・リサイクル業界を基盤としたゼロエミッションと産業振興、地域社会の活性化を目指してきた。今はそれをさらに拡大させた地域循環共生圏、ローカル版SDGsと呼ばれており、それぞれの地域の特性を生かしたサステナブルな街づくりを目指している。つまり、それぞれのサステナブルな対策・活動を有機的に結び付けて、包括的なアプローチを用いて脱炭素化を目指すもの。

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廃棄物発電から二酸化炭素回収技術も開発されているが、廃棄物発電から、当たり前だが、焼却時には二酸化炭素は排出するので、もちろん技術的には二酸化炭素排出ゼロにすることはできない。このため、廃棄物焼却時に排出する二酸化炭素排出を技術的可能範囲で削減するが、焼却時に発生する熱を再利用し蒸気を作り、その蒸気でタービンを回して発電して、熱をリサイクルしているというのが現状である。日本はサーマルリサイクル、欧州はサーマルリカバリーと呼ばれる廃棄物発電、この言い方は本当であればリユースショップなのにリサイクルショップという日本人的な使い方の影響も受けているのであしからず。いずれにせよ、全産業から排出される二酸化炭素のうち、国レベルや地球丸ごと一個レベルにおいては、廃棄物業界からの二酸化炭素排出量は2~6%程度なので、廃棄物業界の脱炭素化、正確に言うと正味脱炭素化はそれほど優先度は高くはない。しかし、年間約21億トンも排出されている一般廃棄物のうち、世界平均でその約50%は不法投棄、低所得国ではその約90%は不法投棄されている現状を踏まえ、廃棄物の焼却・廃棄物発電は今後も重要な役割を果たすであろう。

日本における総発電量の中で廃棄物発電からの電力量はどれくらい占めるのだろうか?環境省の情報によると、2017年度の日本の廃棄物発電による総発電量は約9207GWhで約310万世帯分の消費電力と計算している。2017年における日本の電力の総発電量は1兆6000億kWh。この二つから計算すると、日本の総発電量のうち、廃棄物発電による電力の割合は約5.8%である。単純に世帯数計算すると、310万世帯/5699万世帯 = 約5.4%。なので、日本の総発電量のうち廃棄物発電由来の電力は約5.6%ぐらいと思われる。

ちなみに日本の電力源は、石炭27%、LNG36%、石油2.6%。、原子力6.5%、水力7.4%、太陽光7.4%、風力0.8%、地熱0.2%などである。このうち自然エネルギーが18.5%。この自然エネルギー由来の電力の割合を挙げて、火力系を下げつつも、廃棄物発電の効率を上げて、正味として脱炭素化社会を構築することが重要であろう。

参考までに欧州における総発電量に占める廃棄物発電の割合は、1~5%の水準。なので欧州でも、脱炭素化社会に向けたエネルギー戦略においては、別の電力源における高発電化や持続可能なエネルギー源への転換が優先されている。

4.スマートシティーと廃棄物発電

そうなると、今後も環境上適正な廃棄物管理という文脈で、廃棄物発電施設は重要な役割を担ってくる。そうなると、やはり気になるのが、スマートシティーにおけるスマートグリッドにおける廃棄物発電の位置づけはどうなるのであろうか?ここには論点が二つあると思う:①脱炭素化の主要議論であるエネルギー産業においては、スマートシティーにおけるスマートグリッドという分散型エネルギーインフラ・政策が、今後我々が実施していくべき街づくりである。②廃棄物管理に関しては、技術高度化・導入を用いて廃棄物発電の更なる効率化、つまり今後も集約的なインフラを整備していく。でも、この二つはインフラ的には逆行しており、少なくとも廃棄物管理には、例えば、廃棄物排出を最小限化したとしても、一都市一廃棄物発電施設が必要であるのは間違いないであろう、特に既存のインフラが既に整備されている日本や欧米諸国にとっては。

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では、既存の廃棄物関連インフラ、例えば、環境上適正な管理下にある処分場・焼却場・廃棄物発電施設・その他リサイクル施設がない国、これから導入しなければいけない国はどうなるのであろうか?例えばアフリカ諸国、数年前に、アフリカ大陸初の廃棄物発電施設がエチオピアに導入されたけど、そもそも廃棄物の回収量が少ない、分別がしっかりできていない、運営維持体制が十分に整っていない等の様々な要素があり、現在では十分稼働できていないのが現状だ。

もちろん低所得国や低位中所得国でインフラを整備するためには、そこにつながる様々な要因、これらは冒頭に話したCCET廃棄物発電ガイドラインの6ページ目に記載してあるプレチェックフローで調べる必要は大前提。これらの国において、2050年の脱炭素化デファクトスタンダードという世界の潮流における、廃棄物発電とスマートグリッド、言い換えると集中型と分散型インフラが今後どのように整備していくのか、について考えてみたいと思う。

5.開発途上国における脱炭素化と廃棄物発電の関係は?

ここからは、今現在、エネルギー関連インフラが十分に整備されていない国、世界銀行の一人当たり国民総所得が約1200ドル以下の低所得国、人口は約7億人、を想定して考えてみます。世界銀行のデータベースのよると、低所得国における電気普及率は約42%、その中で約45%は水力発電と多くの持続可能な電力源に頼っている、と見えるのが数値上の話し。現実は電気普及率が物語っている通り、圧倒的な電源不足・不安定というのが現状。特にアフリカ大陸、その中でもサハラ砂漠以南地域はかなり厳しい現状です。ちなみに、僕が勤務している国連環境計画(UNEP)の本部はナイロビにありますが、本部キャンパス内ではたまに停電、同僚の家も停電がたまに起こります。電気普及率が100%となったときに、再生可能エネルギー使用率が高うなっていることを目指さなければならない。

低所得国が今必要としているエネルギー政策は、高所得国が突き進んできたと同じ石油由来の安定したエネルギー開発というのが、経済発展での黄金律であるが、デファクトスタンダードである2050年脱炭素化への道筋を戦略的に考えた場合、ここで再生可能エネルギーインフラ開発に舵を切るべきであろう。その一つが分散型エネルギーインフラとなるスマートグリッドであるのは間違いない。先進国でも難しいのに低所得国では無理なのでは、と考えるのが”先進国住人の古い考え”、これからインフラを整備するのであれば、最先端技術を現地のニーズに合うSDGsスタンダードな環境技術を導入することこそが、低所得国が求めている環境技術だ(先進国の環境技術をそのまま移転するのは、先進国の”開発途上国支援”の絵に描いた餅である)。

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では、2050年の脱炭素化デファクトスタンダードに向けた低所得国で必要なインフラ開発戦略は何であろうか?それはハイブリッドタイプである。水力や地熱発電、大規模太陽光発電・風力発電、小規模太陽光発電・風力発電、そして環境上適正な廃棄物管理としての廃棄物発電の組合せの最適化されたインフラ開発となる。少なくとも、廃棄物発電以外は再生可能エネルギーであり温室効果ガスを発生させない、これらをインターネットでつなぐスマートグリッド技術である。それに対して、廃棄物発電は電力源とはなるものの二酸化炭素を排出してしまうため、スマートグリッドでオフセットする必要がある。つまり、2050年に脱炭素化社会となったとしても、廃棄物の環境上適正な管理の観点から廃棄物発電施設は一つの選択肢として必要なインフラの一部であり続けるでしょう。このため、廃棄物発電から排出される二酸化炭素をオフセットするために、再生可能エネルギーを主用電力源としたハイブリッド型スマートシティーを目指すことが今後の戦略的アプローチとなる。

6.2050年のある日、あるアフリカの地方都市のニュース番組

「本日も太陽光パネルによる発電量は、この街が必要としている電力の120%になる見込みです。そのうち、郊外に設置されているソーラーパーク(その昔は廃棄物の埋め立て処分場だったところに、大規模太陽光パネル施設と廃棄物発電施設を建設)から40%、各家庭や各建物に設置されている個々のソーラーパネルから60%の電気が発電されています。季節柄でもありますが、この予報は今後1か月間も同じ天候と予想されます。また、廃棄物発電施設での発電量は再生可能エネルギー比の2%を占めています。アフリカ都市の多くでは、世界の目標であった2050年脱炭素化社会を達成しています。注目すべきことは、その昔先進国といわれていた日本のような国では、再生可能エネルギーを基盤としたインフラ設備の転換政策に失敗し、いまだに脱炭素化を達成できていないという現状。我が街のハイブリッド型スマートシティーは、このような国におけるモデル都市になっている。」

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