深い夜に。
「救急車で運ばれた笑」
この「笑」って何?連絡してこれるくらいだから心配など無用なんだろうけど、それにしたって「笑」って何?私は笑えない。何が起こってどうなってるの?電話したって出ないだろうけど、でも気が気じゃない。無用と言われようが私は心配だ。そんなメッセージを受け取って私が心配することなど容易に想像できるだろうに何故わざわざそんなことを送ってくるの?私はその報せを受け取ってどうすればいいの?
しばらく経ってからの返事には「結石!今は電話無理、」と書かれていて、安堵とともに落胆した。思っていた通り大事ではなくて、いや、多分相当痛いだろうししんどいだろうけど、でも今すぐ命に関わるようなことではなくて一先ず安心。だけれど、やはりこの人は私に心配など求めていなかったんだと虚しくなった。電話が出来ない状況なのは理解出来るし納得もしている。でも私はそれで私たちの関係性がより一層浮き彫りになったような気がした。
「もうやめたい」とぽつりと言葉が落ちた。誰に言うでもなく、ただ落ちていった。彼をすきでいるのをもうやめたい。なんの可能性も、僅かな未来すらないこの関係を終わらせたい。男がこういう都合のいい女を切りたくないのは分かる。会おうと言えば会って、金を出し渋ることもなく、ベッドではそこそこ積極的で、話していればそれなりに楽しくて。交際の面倒くささのない都合のいい女を男はそう簡単に切らないだろう。だから私から切り出さなければこの曖昧な関係は終わらないだろう。だらだらとなあなあと続くだろう。分かっているのに切り出せなくて情けない。
いい歳して恋愛体質でろくでもない男に振り回されて、時間と労力を削られていく。人生そのものを終わらせない限りそんな体質は変わらないだろう。馬鹿に塗る薬はないと言うが、それと同じだ。死ぬまで治らない。いや死んでも治らない気がする。来世の私もきっとろくでもないクズ男の沼にどっぷり浸かるんだろう。
一人声を上げて泣いて泣き疲れてやっと眠る。そんなことを繰り返していくんだろう。馬鹿馬鹿しい。
「電話してごめんね」と嫌味を込めて返信すると「ごめんね」と返事が来た。思ってもないくせに謝るな。本当は面倒見てくれる人がすぐそばにいて「好き嫌いして酒ばっかり飲んでるから結石なんか出来るのよ!明日から水飲んで一緒に散歩するよ!キャベツ食べて!トマトも食べて!」って叱ってくれてるんじゃないのかな。だから電話できないんでしょう?「玉ねぎ食べてよ!今玉ねぎ高いんだからね!あなたの身体のためにそれでも買ってきたんだから!」って私が言いたいのに、別の誰かが言ってるんじゃないかな。私には心配する権利もないというのに。こういう被害妄想で悲劇のヒロインぶるのほんとに気持ち悪いからやめたいのに、止まらない。頭の中でネガティブな妄想がどんどん膨らんでいく。
元気な声を聞いて安心したい。自己満足のためのわがままだけど、こんな短い文面で何をどういうふうに受け取ればいいの。いくらでも取り繕えるこんな文字で、安心材料なんかひとつも見当たらなくて、膨らんだ被害妄想でますます喉のつかえる感じがひどくなる。誰かがゆっくりじっくり私の喉を押し込んでいっているような嫌な苦しさがある。
すきという言葉じゃ収まらないほどの重い感情とどう向き合えばいいのだろう。「愛」という言葉は余りに軽くて、ダサい。どちらとも相応しくないこの感情をどう消化しよう。いくら咀嚼したってなくならない気持ちを飲み込めない。それなのにまた横顔を思い出したりしている。笑った時の目尻の皺とか大きくない手とか骨盤の近くにある盲腸の手術跡とか。声もそのぬくもりも思い出せてしまうのが悔しい。
私は最近彼との関係をどう終わらせようかと考えていた。彼の気持ちが私に向いていないことは確かで、続けていたって傷つくのは私なんだから早くやめたほうがいい。
「もう君のことは諦めるね。」その一言で終わる。「君も私と同じ気持ちじゃないなら、苦しいだけだからやめたい」と思っていることを言えばいい。それなのに「すきだよ」と言ったら「俺も」と言ってくれるのではと期待している。私はどこまで馬鹿なんだと自分でも思う。そんなこと言うわけない。だいたい初めて肉体関係を持った時に「またしたい?」と聞かれてこくりと頷いて「俺もまたしたいからまた会おう」と言われた。これはセフレの契約を結んだも同然なのに「えっちしない日もあったしセフレじゃないもん」ともう一人の私が苦し紛れに言った。アホくさい。
大切なものは失ってから気づくと言う。きっと私が離れた後「あ、あいつ、本当はめちゃくちゃいい女だったかも?」って彼が思ったらそれで勝ちだ。でもそれに気づいたって彼は私を追ってなどこないだろう。だから今気付かせたい。でも鈍感なクズ男が気づく訳ない。じゃあ何で私はあの男にさっさと見切りをつけないんだ。ばかなのか?ばかなんだろうな。
YouTubeの「これを聞いたらあの人から連絡が来ます」なんていうおまじない系ヒーリングミュージックを垂れ流している。もちろんLINEは来た。でもこの音楽のおかげではないだろう。ほぼ毎日LINEしてるんだからそりゃあ来る。彼の気まぐれで来る。でもまた違う音楽を聴き流している。「これを聴けば両想いになれます」「あの人から告白されます」なれないし、されない。分かっていても再生している。くだらねぇと言いつつ流している。ない可能性に賭けている。ばかだからだ。恋をしている人は大概ばかなんだ。
私には少しばかり変態なところがある。真の変態には「そんなの序の口だろ。変態嘗めんなクソアマ」と思われそうだが、ドのつくノーマルな人からすればきっとちょっとクレイジーなところがある。
先述した通り彼は今「結石」を抱えている。私はその石ころをこの目で見たことはないが、彼の中にあったカルシウムやマグネシウムなんかが石ころになって彼の尿道を通って出てくると思うと、胸の奥のほうというか、お腹の下のほうというか、自分の中の奥のほうからそこはかとなく湧き上がってくるものがある。出来ればその石ころを砕いて粉にして、漢方みたいにして飲みたい。そして出来れば彼の最後の女になって彼の死を見届けて、焼かれて骨になった彼を見てわんわん泣いて泣き崩れて、震える手で歪なその箸を掴んで、喉仏を拾いたい。そしてそれは壷には入れずに、そっと持ち帰って、結石同様に砕いて粉にして飲みたい。ドラッグみたいに鼻から吸ってキめたいとすら思う。だから私は彼の喉をよく舐める。喉仏の骨上げは故人と関係の深い人間がするものだ。だから、私は喉仏を拾いたい。そしてそれを自分の身体に入れて、私の一部になってほしいのだ。セックスを「ひとつになる」などと表現することがあるが、それは永遠ではない。ずーっと挿れっぱなしなんてことは無理だ。でも彼の身体の一部を自分の中へ取り込めば、私になる。本当の意味で一つになれるのだ。すきな人が死ぬのを望んでるみたいで最低だ。
私は上記したように少しばかりクレイジーなところがあるので、きっと彼と次に会ってセックスする時に彼の尿道をじっくり見てしまうだろう。ここから石が出たのかと。どのくらいのどんな石ころだったか詳しく聞いてその鈴口を観察して想像するだろう。そんなサイズの石ころが出て来たなら私の舌も幾分か押し込めるのではと思ってしまう。それが彼にとって快感かどうかは分からない。痛がるようなら二度としないだろうし、ただ観察して終わるだろう。
彼もまた人には容易に話せない性癖を持っていて、私に時折それを押しつけてくる。そういう意味では私たちはお似合いなのだ。「ねぇだからもうずっと一緒にいようよ。私たち、イニシャルも血液型も星座も同じなんだよ。」って可愛く言いたい。そしてちょっぴりクレイジーなセックスをしたい。
以前私のことを「お母さんのような大きな優しさ、愛情を持っている人」と言ってくれた女性がいた。心理テストや占いでも「慈悲深い」「愛情深い」「心根の優しい人」などと言われたことがある。私はその深く広い太平洋のような心でわがままで自分勝手で気まぐれな彼を包み込んでいたい。こんなふうにあなたを愛せるのは私だけなのよと思っている。それに気づいてほしい。けれどそんな押し付けがましいことを口にするのは愛情ではない。だからいつもにこにこしてただ受け入れている。それを都合のいい女だと言われてもだ。
男は追いたい生き物だとかいろいろ言うけれど、私は私の方法で恋をして愛していればいいと思う。私の心が彼を受け入れられなくなったら、今までの鉄をも融かしそうなほどの情熱はきっとすっと消えるだろう。穏やかな凪の海のように彼を包んで癒して、時々挑発するような視線で彼を見つめながらこの口で彼を包んで、くだらない話で笑って、彼の人生の一部になれればそれでいい。私は愛することで自分の存在意義を見出している。人はみな愛されるべきだ。そのために生まれてきた。けれど、愛することもまた、その意味であると私は思う。
こころが揺らいで崩れかけてくだらないことをまた書き殴ってしまったけれど、少し落ち着いた今、私にはこの方法があっているんだなあと改めて実感した。
誰かに伝えたくて書いたわけではないけれど、誰かの目に止まればやはり嬉しい。人に見られることを意識するとどうも素直な気持ちを書けないけれど、それもまた私なのかなと思う。
読んでくださりありがとうございます。
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