見出し画像

名古屋へのいろんな誤解を解いてみる

筆者は愛知県犬山市に生まれ、小中高と西三河で過ごし、大学入学と同時に豊橋市でひとり暮らしを始め、名古屋市の企業に就職して以来、人生の半分以上を名古屋市民として暮らしています。

そんな愛知県でしか生活していない筆者が、名古屋について語られていることの実態をオブラートに包むことなく書き殴ったものです。ご笑納ください。

前提

通常わたしたちが日常会話において「名古屋」という語句を使用する場合、自治体名である愛知県名古屋市を指すケースは少なく、その多くが「名古屋国(名古屋市も含む)」を差していると思われます。

ついては本稿における「名古屋」も、基本的には「名古屋国」を指す概念として使用いたします。

地理

名古屋国の範囲は、他地方の人に「名古屋の方から来ました」と言えるあたりとなります。
具体的には、名古屋駅から在来線で 1時間以内に通勤できるエリアであれば、「名古屋国」の許容範囲と見なされます。

特筆すべきは、愛知県のみならず岐阜県や三重県の一部も含むという点でしょう。
ここに「名古屋国」というものが、日本で唯一の行政区画を超えた「概念」であることがわかります。

東京には「都」という大きな括りがあるので、23区以外でも「都民」と公言できますし、大阪は近隣に神戸、京都、奈良という確固たるアイデンティティを有する都市に囲まれているため、「大阪の方から来ました」というカモフラージュはほとんど不要です。

名古屋市民は周辺にインパクトの強い自治体が少ないため、長久手や春日井などの近隣市民に優位性を誇示することはありません。
そんな事情から周辺自治体住民の「名古屋の方から来ました」にはおそろしく寛容であり、むしろ「他地域の人に名古屋をアピールしてくれてありがとう」と感謝するほどです。

ただし、岡崎市以南の三河地方民、とりわけ西三河民が「名古屋」を使用する場合、歴史的な軋轢から名古屋市民が「おみゃーんとこは三河だがね」と牽制することがあります。

その岡崎市の北隣には、同じ西三河に分類される「トヨタ市」があります。
街そのものが世界のトヨタ自動車株式会社であることや、名古屋鉄道豊田線に市営地下鉄鶴舞線が直通しているため、他の西三河とは別格扱いです。

昨年、行政の長である名古屋市長がトヨタ市のスポーツ選手に粗相をしでかし、トヨタ市トヨタ町まで謝罪に向かったことも、名古屋国とトヨタ市の関係性を象徴するものと言えます。

名古屋にしてみれば、トヨタ市は機嫌を損ねてはならない相手であり、独立宣言(鶴舞線への乗り入れ停止)こそ最大の脅威なのです。

気候

亜熱帯と冷帯の特色がバランスよくブレンドされています。
夏は北側を覆う山地により南から海風に運ばれる湿気がこもるため、40度を超える簡易サウナ状態となり、冬は伊吹山を超えた寒気によって豪雪に見舞われることもあり、国民総冷え性というメリハリが際立っています。

この気候により以前から盛んだったメロン栽培に加え、知多半島ではキウイまで特産物となっています。

他地域から転勤で移住した人々にとって苦痛の絶えない気候ですが、国民からも「大概にしとけて」と愚痴が絶えません。

国民性

よく「排他的」と言われる名古屋国民ですが、前述の三河国は別として、他の都道府県に対する敵対心は薄いと思われます。

そこそこの都市機能に加え、モータリゼーションの発達によりイオン、ユニー・アピタなど郊外型ショッピングモールが複数選び放題。
後述する”親戚連結決算体制”による住環境の安定など、とにかく衣食住において不満がなく、他の地域に対し「うらやましい」という感情を抱きません。

それどころか、全国どこに対しても「どうせ名古屋と変わらんでしょう?」と思っている節があります。

例えば東京に嫁いで出産した娘から「飾るところないで、ひな人形送らんといて」と言われると、名古屋の親は「なんでぇ?」と不満を口にします。
東京の住環境にまるで興味がないため「部屋が狭くてひな壇が飾れない」ということに考えが及ばないのです。

「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」

名古屋の国民性を端的に表現するのに、これほど相応しいフレーズはありません。
満たされた者には、満たされない人の気持ちなど永遠にわからないのです。

ちなみに旺文社「平成30年度都道府県別大学・短大進学状況」によれば、名古屋国民を含む愛知県の地元進学率の高さは71.2%と全国トップです。
Uターン組も含めた地元への就職率も断然トップと考えてよいでしょう。

常に「見渡せばジモティ」な名古屋国民から見れば、他の都道府県民から「排他的」と批判されたところで、単に「アンタ、何を卑屈になっとるんだて」という返答になるのはやむを得ないことなのです。

経済

「無借金主義」「ケチくさい」「貯蓄が多くて手堅い」と言われる名古屋ですが、これらの特徴はすべて「実家依存度が高い」ということに紐づいています。

核家族化は進行しているものの、実家までクルマですぐ行けるケースが多く、”親戚連結決算体制”と言えるこの国独自の金融システムを誇ります。
実家の家計が赤字に陥らない限り、スムーズに融通が利くわけです。

金銭の授受は「あんた、これ持ってきゃあ」という儀礼とともに専ら現金が用いられ、口座振替による送金が少ない特徴があります。
そのためタンス預金の保有率、さらにその金額が他の大都市圏より高いのです。

しかし親類には頼る反面、他人に対してカネの工面を求めるのも求められるのも抵抗があり、これが一方で「ケチ」と評される所以となります。

名古屋の企業家も殆どが地元出身で、こうした親戚連結決算下で育ってきたことから、自ずと無借金経営となるのでしょう。

観光

名古屋は「観光地としての魅力が乏しい」と指摘されます。
実はこれも、前述したように他の都道府県に対して関心がないことが大きな理由です。

名古屋国民は常に衣食住が満たされているため、他県への気遣いがなく、また一方で名古屋だけが特別とも考えていません。
「わざわざ名古屋みたいな普通の街に人を呼ぶ理由がわからん」という姿勢が、自ら観光地になる積極性を失わせているのです。

その反面クルマの所有率が高いので、観光地へ足を運ぶ機会は多いのですが、お金を落とす感覚は乏しいと言えます。

というのも、地理的に関東へも関西へも日帰りで行ける地理的な優位性から、常にドライブ感覚がつきまとうのです。
そのため豪華ホテルなどにはあまり関心がありません。

朝出かけ、夜には帰る。
このモットーが名古屋国民の観光ベースにあるがゆえに、交通ルールも厭わない過激なドライビングとなるのです。

海が見たければ北は東尋坊、南は伊勢湾。
山が見たければ西は御在所、東は信州。
朝早く出ればTDLにもUSJにも余裕で行けますし、絶叫アトラクションなら名古屋市内から1時間で行けるナガシマリゾートもあります。
海外気分なら志摩スペイン村へ行けば存分に味わえます。

観光地に乏しいと言われるわりに、近隣の観光地が閉鎖に追い込まれにくいのも、ドライブで向かう名古屋国民が多いためでしょう。
実は観光において地産地消の傾向が強いのです。

文化

名古屋国には古くから「芸どころ名古屋」というフレーズがありますが、現在「芸」を堪能できるのは、歌舞伎専用劇場である御園座と、大須演芸場しかありません。

また芸術面では禍々しい炎上で知名度を高めた「あいちトリエンナーレ」、およびその継承企画がありますが、出展には全国各地の作家が参加しており、とりたてて地元感はありません。

音楽面では地域としての大きなムーブメントが長年生まれず、地元の音楽ファンの眉間に深い影を落としていましたが、90年代後半からようやく「ヒップホップの聖地」と謳われるようになりました。

しかし2021年夏に開催された波ナントカという宴会が、ファンの眉間に深い影を落とすことになり、再びこれといった特色のない文化圏となりました。

その一方、鳥山明というポップカルチャーの巨人を輩出しており「名古屋って何にもないな」に対する、ただひとつの回答として国民の心の支えとなっています。

食文化

名古屋には観光地としての魅力が薄いため、他地域からやってきた観光客は、せめてもの思い出作りにと飲食店へ飛び込む他ありませんでした。
こうして口にした料理群が、後年「名古屋めし」と呼ばれるようになり、現在では貴重な観光資源として貢献しています。

ただし、名古屋国民がさほど「名古屋めし」を口にする機会はありません。
その証拠に名古屋駅や栄のマクドナルドでは、老若男女の長蛇の列が絶えません。

例外は安価で食すことのできるスガキヤラーメンと、繁華街ならカルボナーラよりも遭遇しやすいあんかけスパゲッティのふたつです。

なおこの二点には、他地域の人が考える名古屋めしの特徴である味噌は使用されていません。

総論

名古屋国は鳥山明さんがいる限り大丈夫です。

三河国についてはこちらの続編でどうぞ。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。