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電気グルーヴ「あすなろサンシャイン」を讃える。

本当は「今年のこの一曲」について書こうと思いましたが、都合により「人生のこの一曲」を取り上げることにしました。
年の瀬で混乱の多い時期ゆえ、何卒ご理解のほどよろしくお願いします。

最重要楽曲

さて皆さん、電気グルーヴの「あすなろサンシャイン」であります。

1997年3月に先行発売され大ヒットした「Shangri-La」。
その興奮冷めやらぬ5月にリリースされた、おそらく電気グルーヴ史上、最も発売が待望されたアルバム『A』(エース)の、最も重要なポイントに置かれた楽曲です。

アルバム8曲目として直後にメインイベンター「Shangri-La」を迎え撃つ重責を担っており、猪木対ブロディ戦の前に組まれた新日本vsUWF10人タッグ並みの価値を持ちます。

楽曲を簡潔に述べると、ディスコテクノオペラ。
凡百の「ロックオペラ」より4文字多い分、傑作であることは免れない事実であります。

歌詞は至ってシンプルで「あすなろサンシャイン」「なろう なろう あすなろう 明日はヒノキの木になろう」の2フレーズだけ。

それなのにおよそ9分となる大作で、何度も繰り返される言霊が『ちびくろサンボ』のトラの終末のように、芳醇な香りとクリーミーでコクのある味わいを堪能できる「聴く乳製品」とも言える栄養満点ぶりです。

健康ランドのタトゥー

題名は、バックトラックを聴いたピエール瀧さんがその場で歌い出したフレーズだそうで、その卓越した発想力と狂気には感服する他ありません。

その後の「明日はヒノキの木になろう」は、井上靖さんの『あすなろ物語』(1953)で知られる感動的な一節です。
「でも君たち絶対『まんが道』で知っただろ」と手に取るようにわかり、昭和40年代男の生き様が、健康ランドで見たあの日のタトゥーのように鈍い輝きを放ちます。

冒頭に響く荘厳な歌声。
ピエール瀧さんは、わざわざこの曲のためにボイストレーニングへ通ったとの逸話があります。
前作『ORANGE』「ポパイポパイ」で披露した上條恒彦さんばりの美声が、芸能の天井を軽く突き破り、芸術の高みにまで昇華されています。

泣きながら始発まで

サウンドはテクノの王道である4つ打ちベードラが基盤ですが、アルバムでは比較的サンプリングフレーズが少ない曲で、ストリングスは村山達哉さん編曲による生演奏となっています。

石野卓球さんが歌う「あすなろサン(シャイン)」とともに、オクターブで動くディスコティークなベースと白玉ストリングスが重なり、フィルターでかきむしられる様は、泣きながら始発まで踊り続けるチル野郎(彼女なし)の姿を想像させ、心にちょっぴり刺さる痛みを覚えます。

音楽はアルバムで聴くべし

ハイライトは、5分10秒あたりからストリングスのみをバックに歌い上げる瀧さんの絶唱。
希望、失意、悲哀、歓喜、興奮、無念、嫉妬、残忍、退屈…ありとあらゆる感情が交錯し、魂を揺さぶられること間違いなしです。
このパートを真顔で通り抜けられる人間を、僕は一生信用することはありません。

リズムトラックがフェードアウトしていき、瀧さんの歌とストリングスで締められるコーダは、リバーブたっぷりの「はぁ~」で締めくくられます。

そして残響を残しつつ、「Shangri-La」へと第二楽章のように繋がります。
そのためスマホから曲単位で聴ける昨今、曲終わりがブツっと途切れる事象が発生しており、あらためて「音楽はアルバムで聴くべし」という先達の言葉が正しかったことを痛感させられます。

考えるな、感じるんだ

この「あすなろサンシャイン」を「人生のこの一曲」に推挙した理由はわりと複雑です。
どれくらい複雑かというと、結構な複雑ぶりのため、誠に勝手ながら本稿では割愛させていただきます。
ありがとうございました。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。