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TORAIZ AS-1のハナシ❷
(初出:2018/12/24 最終更新:2021/09/19)
今回はPioneer DJ TORAIZ AS-1のサウンドについて、もうちょい具体的に書きます。
この公式動画でもわかるように、AS-1はDave Smith Instruments社が2015年に発売した6ボイスのポリシンセProphet-6をベースに開発されたモノフォニック・シンセです。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61574674/picture_pc_06eca003803ef414f286d86cdb942a06.png?width=800)
あまりにルックスが違うので、最初はKORG MS-20と同社のmonotronのように、"フィルター回路が同じだけの関係"と思ってたわけですよ。
まあそもそもAS-1の見た目がmonotronぽいし。
ところが取説を片手に階層を掘ったところ、初めて目にする"SLOP"なんてセクションがあるわ、HPFにはノブに出てないレゾナンスがあるわで、「ちょっと奥さん、これどういうこと!?」と声を荒げそうになってしまいました。
エディターソフトで覗いてみる
AS-1本体にはフィルターとエンベロープの一部など最小限のノブしかありません。
もちろんPARAM/CATEGORYノブからフルエディットも可能ですが、メニューを掘り下げていくのも大変です。
そこでパラメータの全貌を知るため、SoundTowerというサードパーティから配布されているAS-1用サウンドエディターをPCに入れてみました。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32573909/picture_pc_725ced78db51cb103db273c7336d4f40.png?width=800)
このサイト、90年代のHTMLな煤けた薫りというか、The ホームページといったノスタルジーが漂ってるんですが、Pioneerさん公式のお導きなので安心してよさそうです。
ここでは"TORAIZ AS-1 Sound Editor LE"が無料でダウンロード可能です。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32609244/picture_pc_5da0b2e3306f3497e12179aa9d654df5.png?width=800)
本体デザインを継承したせいか、ちょいと地味ではありますが、パラメーター数の多さがわかります。
ちなみに同社ではiPad専用のアプリ(有償)もリリースしています。
キーボードやホイールまであるので、むしろ本体より使い勝手がめちゃくちゃ良さげかと。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59942430/picture_pc_778d4c36eabd865ef3d6106a5f86c60f.png?width=800)
買おっかな…
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61454318/picture_pc_baed59390811f10369264e695632f6bb.png?width=800)
いや…まあそういうことで。
Prophet-6のまんま
さて、この画面キャプチャーと、Prophet-6(以下P6)のフロントパネル画像を部分的に比較してみた図がこちら。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32573469/picture_pc_521219a3f9f2d455963e811bc69aa424.jpg?width=800)
細かくてすいませんねぇ。
左列がAS-1、右列がProphet-6で、上からOSCILLATOR、FILTER、ENVELOPE、MODULATION、EFFECTS、LFO、ARPEGGIATOR & SEQUENCERの各セクションを並べております。
驚きました…ほぼ同じやんけ。
AS-1のEFFECTSにはリバーブがない、ディストーションが独立していない(FX1に内包)などの細かい差異はあるものの、それ以外はまったく同じパラメータが並んでおります。
こちらの記事によれば、Pioneerさん曰く「Prophet-6をある程度ベースにしつつ、艶っぽい音はそのままにさらにエッジのたったようなサウンドに仕上げています」とのことですが、まさか構成がパラメータレベルで同じとは…
つまるところ、モノシンセとして音が立つよう、なおかつ部品がコスト的に調整されているということでしょう。価格差が大きいですから、なにしろ。
僕がお金持ちなら、両者の出音をオシロスコープに通して「いやあ、ここは似てますなあ」などと腕組みする自撮り動画をアップしたいところですが、残念ながらそれは無理です。
それにしても、Prophet最大の特徴であるポリモジュレーション(AS-1では”MODULATION”表記)を、最新のP6仕様(フィルター・エンベロープとOSC2の数値を±で設定できる)で受け継いでいるのはすごいです。
OSCILLATOR
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32609762/picture_pc_df82dcacc931ba3a22a2a160a2569f48.png?width=800)
まずはオシレーター周りから、機能や特徴を紹介します。
廉価シンセですらオシレーターシンク可能な2OSC仕様になってきた昨今、特に注目のパラメーターが"SHAPE"。
ノブを左に振り切ると三角波、センターがノコギリ波、右に振り切ればパルス波へと連続可変していきます(P6の本体表記はTri-Saw-Pulse)。
波形を選択してから別のノブで変化させるタイプのシンセも増えましたが、3つの波形をシームレスに繋げるのはmoogからの影響が伺えます。
KORG monologueの外部入力からオシロスコープで波形を見てみました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61502588/picture_pc_9c5a3a862ee0220fd4dc678dd7a1e3ee.png?width=800)
画像左から、左に回し切った三角波、真ん中のノコギリ波、右に回し切ったパルス波(PULSE WIDTH =127)です。
ノコギリ波は逆鋸状なのがわかります。
またパルス派は通常矩形波となる値ですが、音を聴いてもわかるように、ややエッジの強い波形です。
このSHAPEは(ポリ)モジュレーションのターゲットとなっているため、時間経過とともに波形がモーフィングするサウンドも作れます。
ちなみにパルス波は、その右隣の"PULSE WIDTH"の値が127だと波形が左右対称(通常は矩形波とされる)となり、最小値0と最大値255になるとパルス幅が0%となるため無音となります。
そしてLFOのモジュレーションソースにもなるOSC2は、鍵盤に追従しないよう設定でき、すべての音階に対して同じ周波数で変調することが可能です。
さて「オートチューニングだか何か知らねぇが、最近のアナログシンセは安定し過ぎて面白みに欠けらぁな」とお嘆きの貴兄に嬉しいのが、ピッチに不安定さを加える[SLOP]セクション。
ほどほどにかければヴィンテージな揺らぎに、目一杯かければ失笑してしまうほどの音痴に調教できます。
[MIXER]セクションには、OSC1、OSC2のレベルはもちろん、OSC1の1オクターブ下の三角波を出す"SUB LEVEL"、ホワイトノイズを追加する"NOISE"があります。
AS-1のフィルターは自己発振可能なので、純粋にサイン波が欲しい時は、このパラメーターを全て0にしておきましょう。
また"SUB"の存在感は格別で、安いヘッドフォンでもズーンと響く低音を楽しめます。
一方ホワイトノイズは、少量混ぜてフィルターを開け閉めするとプロフェット風味がお口いっぱいに広がります。
ちなみにここから各章の最後に、公式のチュートリアル動画(英語)を貼っておきます。
FILTER
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32611596/picture_pc_ff31c888d1444240aad7524a2562d742.png?width=800)
続いては公式でも「Prophet-6と完全に同じ」と謳っているフィルター・セクション。
P6同様、AS-1にも自己発振可能なLPF(4ポール)とHPF(2ポール)の2基があり"CUTOFF"はもちろんのこと、"RESONANCE"と"ENV AMOUNT"も独立して搭載されています。
それなりの高級機でもLPF/BPF/HPFの切り替え式、HPFは"CUTOFF"のみという機種も多いので、結構レアかと思います。
LPFはキレが良く、カットオフを相当絞っても、波形の美味しいところだけをしっかり残してくれる印象。
レゾナンスも効きはいいのですが、音痩せすることなく美しく発振してくれます。
OSC-FILTERの時点で、基礎体力の高さを思い知らされます。
HPFの殺傷能力は極めて高く「わー、ローが全部消えちゃった!」と慌てふためくほどです。こちらのレゾナンスは、ただ上げるだけでは効果が不明瞭ですが、LFOモジュレーションとの組み合わせで絶大な効力を発揮します。
なおフィルターのキーフォローは、それぞれオフ/Half/Fullの3択です。
ENVELOPE
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32611863/picture_pc_cbbc95225ce59364b69bc9abeb0284e0.png?width=800)
エンベロープはフィルター用とアンプ用の2基搭載。
AS-1本体のノブでは"ATTACK"、そして"DECAY"および"RELEASE"の一括コントロール(フィルター/アンプ双方に作用)しかできないので、きめ細かい音作りをしたい向きは、こちらの設定をお忘れなく。
それにしても、音の立ち上がりの良さはすごいです。
ちなみにフィルターにもベロシティの設定がありますが、本体のパネル式の鍵盤を弾いても反映しないので悪しからず。こちらはシーケンスデータを細かく作ったり、MIDIキーを繋ぐ際に有効です。
MODULATION
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32612214/picture_pc_af8eef89a74f2bbda39dc536d4c7c90a.png?width=800)
そして、AS-1でP6気分を堪能できるキモと言っていいのが[MODULATION]。
後述のLFOとは別に、FILTER ENVとOSC2を使って変調するのがこのセクションです。
パラメータを見ればわかるように、ソースもターゲットもP6とまったく同じ。先に書いたように、可変範囲も±(プラマイ)設定できる点で、先代のProphet-5やPro-One以上に複雑な音作りができます。これはすごい。
変調できるターゲットはOSC1のFREQ(ピッチ)、SHAPE(波形)、そしてPW(PULSE WIDTH)です。例えばフィルター・エンベロープでSHAPEを三角波からノコギリ波経由パルス波方面へ変調させることもできます。
またOSC2の"KEY FOLLOW"をオフ設定することで、変調の周期を"FREQUENCY"に設定した周波数に固定出来ます。
つまりOSC1に対してLFOでの設定とは速度や波形が異なる変調がかけられるわけです。
ちなみにOSC2の"LOW FREQ"をオンにすると、LFOの周期がOSC2の周波数に左右され、より複雑な音作りも可能です。
ま、これだけウダウダ書き連ねてもわかりにくいと思うので、ひとまず私からは「レッツ・トライ」の一言でまとめさせていただきます。
LFO
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32612864/picture_pc_23abab3f211621de5ce7cc209fee45d7.png?width=800)
こちらは[LFO]セクションです。
シンセを齧った経験をお持ちの方は、歯茎からの出血とともに理解されてるでしょうが、周期はテンポとシンクロできます。
"FREQUENCY" は4/4で8小節から32分三連符までの18種から選べます。
ターゲットは[MODULATION]に比べて多く、OSC2のピッチ、アンプ、フィルターに対しても変調できます。5種類の波形から選べるところもP6譲りです。
それとP5ではピンクノイズ変調ができたんですが、P6同様ピンクノイズはありません。
その代わり、”FREQUENCY"を最速にして"SHAPE"を”Random"にすると、ノイズモジュレーションがかかります。これをフィルターにかけると、ビリビリバリバリのノイズに変わりますのでお試しを。
EFFECTS
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/61542819/picture_pc_d39fb580b9e0e530c58ddbe4a3752332.png?width=800)
[EFFECTS]セクションに”FX1”と”FX2”の2系統があり、音色ごとにメモリ可能です。
FX1ではBBD(アナログエコー)を再現したディレイ、リングモジュレーター、そしてP6では独立していたディストーションのいずれかを選べます。
ディレイはテンポとの同期もできますが、鳴らしてる途中でRATEを弄ると、飛び道具的に使えます。
リングモジュレーターとディストーションは、綺麗にまとまりがちなの本体サウンドの汚しにもってこい。
なお、P6にあるリバーブはメモリの都合で割愛されたとのことです。
FX2はコーラス、そしてフェイザー3種のモジュレーション系でP6と同じ。
コーラスだけがステレオ出力となってます(本機のアウトプットがステレオ仕様なのはこのため)。
またフェイザーは高音域に効くPhaserH、低域に効くPhaserL。
そしてPhaserMは中域のミドル…ではなくて、シンセメーカーで知られるオーバーハイム・エレクトロニクス製のフェイズシフターMAESTRO(マエストロ)をシミュレートしているとのこと。
すべてアナログ回路製のAS-1において、このセクションのみデジタルです。
そのためアナログに拘る人はバイパス推奨と公式さんが言ってはいますが、クオリティはかなり高いのでONでヨシ!とワタクシは言っておきます。
GLIDEの謎
フィルター以外はP6とは別の部品が使われているということですが(でなければこんなに安くない)、その代替部品についてもデイヴ・スミスさんがいろいろと指南されたそうで、まさに「Pro-Oneリサージェンス」と呼ぶにふさわしいシンセです。
たたひとつだけ、謎仕様を見つけてしまったので、最後に書いておきます。
![画像10](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32613404/picture_pc_68900e7b6631639e2148bf2b53b68459.png?width=800)
それはこの[GLIDE]、つまりポルタメントに関する2つの問題。
AS-1では、通常のポルタメントかけっぱなし以外に、レガート演奏に対してのみグライド効果をかけることができ、レイト/タイム固定で4種類から選べます。
ところが、内蔵シーケンサーでスラー(前の音とトリガーを連結させる)をオン、かつグライド効果をかけると、音程がちょっと怪しくなるんですよね。
いろいろフレーズを試したところ、スラーの際ピッチに何らかの処理がされていること、そして内蔵シーケンサーではGLIDEの設定が全音に対してかかってしまうのだと推察されます。DAWなど外部のシーケンスでは解決できそうですが。
もうひとつ、フィルターを自己発振させたサイン波にGLIDEの設定が追従しないこと。これはシーケンスのみならず、手弾きでも同様でした。
サイン波を作る時は、口笛やテルミン風な奏法をイメージすることも多いので、わりと残念なウィークポイントなんですよ。
どうやらP6も同様らしいので、ある意味ホンモノな証となるわけですけども。
こういう欠点はあれど、ずば抜けた音の良さ、鳴らしてるだけで時間泥棒確実のプリセット、何より税抜き5万円台という価格でここまで音作りの没入感を味わえるシンセは他にないと思います、ホント。
それと本体のみでは反映しないため詳しく触れませんでしたが、P6同様にAFTERTOUCHの設定もあり、初心者はもちろん、がっつりシステム組んでる古参組にも配慮されたいい商品です。
マイ収納ケース
AS-1にはオフィシャルのキャリーバッグがあるんですが、これ、Pioneerの海外法人の製品で、残念ながら日本で販売されていません。
ということで、なんか身近にないかなと探したところ…
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59945995/picture_pc_0cf184e77eb725919cf302e8f747c1bf.png?width=800)
20年前に購入したゼロハリバートンのミニケース(DZM1-SI 絶版)があったので、恐る恐る入れてみたら、専用かと思うほどにピッタリでした。
筺体とヒンジが当たるんじゃないかと思ったんですけど、向きに注意して固定ベルトを装着したら問題なし。
ケーブル類もポケットに収納できるので、一式持ち運べます。
気温や湿度や衝撃から守りつつ、大切に長く使いたいと思います。
ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。