【M&A】中小企業M&Aガイドライン、実務のあり方・DDの詳細編

前回の記事を書き終えた後、あまりに内容がぺらっぺらというか、自分の環境の話ばかりで実質的な勉強になっていないことに気づいてしまったので、せっかくなのでバリュエーションのアプローチとBDDの進め方くらいは考えておきたいと思います。

バリュエーションの方法

我が家業は上場していませんが、一応株式会社になります。よってアプローチとしては、株式市価法・株価倍率法といったマーケット・アプローチも、DCF法・収益還元法といったインカム・アプローチも、修正純資産法などのコスト・アプローチも使えそうです。

とはいえ、上場していないため、株価が現在の企業価値を適切に反映しているものとはいいにくいので、マーケット・アプローチは難しそうです。

次にDCF法で見てみると、FCFの計算は既存帳簿より出来そうです。ただ、残存価値(TV)を計算する際の継続成長率やβ値の計算については難しそうです。継続成長率については、日本の人口や市場動向といったマクロデータなどを活用するのが一般的なのでしょうが、それでもこのコロナ禍では相当不透明になります。β値については非上場企業であり小規模な家業ということであれば、類似企業を見つけることが出来ない限り難しそうです。β値が求まらなければ、株主資本コストやWACCを求めることができず、割引率が求まらないため、算定は出来ません。

最後に修正純資産法を見てみます。こちらは現状持っている資産や負債を現在価値に割り戻した合計額ということでシンプルです。家業なので無形固定資産もほとんどないので、計算にはそこまで手こずらなさそうですね。この手法のデメリットとしては、あくまで会計上の評価に過ぎず、ファイナンス的な「将来どれくらい稼ぐか」といった視点が付与されていませんが、現状維持を見込んだ小さな家業であればそこまで気にしなくてもいいものかと思います。

BDDのアプローチ

とはいえ、ここで本当に将来の見込みを全く考える必要が無いかといえば、そうではありません。また、現在のビジネスが抱える長所・短所あるいはそこから生まれるチャンス・脅威なども俯瞰して整理することが買収前には必要です。

事業構造分析としては、マクロ環境(PEST)分析、市場動向分析(市場の定義、存在意義、トレンドの変化)、業績構造分析(事業、製品、顧客、拠点、機能)が挙げられます。

家業は肉屋なのですが、PEST分析だけとってみても、PEST×短期・中長期でいろいろな案が出てきそうです。特にTechnologyとかって肉屋にもあれこれありそうですよね。5Forces的な観点と組み合わせれば、ひょっとしたらスーパーとかのサプライチェーンに組み込んだりするようなニーズもあるかもしれません。

市場も、そもそも居酒屋向けの卸という観点だけだと、競合も供給者も顧客も非常に狭まったものとなりますが、食肉の供給と幅広くとらえ直すだけで、まだ見ていなかった顧客や競合も出てくるのではないかと思います。トレンドでいえば、「生産者の顔が見える食材」なんてその典型ですよね。

競争環境分析をする際には、ターゲットとする市場に応じたシェアであったり競合を考える必要があります。ここでも、特定の供給者における居酒屋向けの卸、なんて狭い範囲で考えるといつまでも考えは広がりませんし、そもそも競争に気付かないかもしれません。

ビジネスプロセス分析を考える際に、何が我が家業をここまで強めてきたか(あるいは弱めてきたか)をバリューチェーンに分解しつつ、短期・中長期で財務的な観点であったりビジネス的な観点で強み・弱みを整理が出来ます。肉屋でいえば、供給⇒物流⇒販売で何が他社と違うポイントで、何をしたらよくなって、何が起きたら悪化したのかを整理できます。また、それらを競合と相対評価することで、自社のKSFを抽出できます。

業績構造分析の際には、事業・製品・顧客・拠点・組織の観点が必要です。我が家業はコングロマリット的では決してないため、事業・組織以外の3つについて考えていきたいと思います。

製品については肉なので、牛・豚・鳥×高級・中級あたりでセグメント可能です。顧客でいえば、B(飲食店、大衆居酒屋、レストラン)とC(一般家庭)で分けられます。例えばオイシックスみたいな需要は刈り取れないんですかね?拠点でいえば、2店舗あるためそれぞれの違いについても検討可能です。

業績評価については、ROIC(営業利益/投下資本)で総合力を判定したのち、収益性分析、コスト構造分析、効率性分析を行うことで細分化可能です。

収益性分析については、上記のセグメントに応じて、どこが特に重要であり、どこに特に問題あるのかがわかれば、例えば重要なところだけを分割して売却する、といったことも考えられます。

コスト構造分析については、原材料費や外注費、人件費といったコストを分割し、可能であれば競合と比べることで弱点を炙り出すことが可能です。

効率性分析については、過去の投資がどのようなメリットをもたらしているのかを見ることができます。これは中小企業であればあんまり意味はなさそうですが。。

これらの分析によって、会社としてアピールしたいところ、そうでないところのメリハリをつけて、買収側の企業に対して買収のメリットをより具体的に訴求することが可能となります。今回は自社の話ではありましたが、これを同様に買い取り先に実施することでより現実感をもった売却が可能となりますし、足元を見て不当な価格で買い取られるリスクも減ってくるのではないかと思います。

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