補給戦-何が勝敗を決定するのか

著者はマーチン・ファン・クレフェルトというイスラエルの学者さん。日本では1980年に翻訳が出されて、原著自体は1977年と若干むかし。自分が読んだのは中公文庫から2005年に出版されたものです。

内容はタイトル通り各戦役における食料や馬の餌、または武器弾薬、ガソリン、鉄道や自動車の予備部品といった戦争を実行する上で必要な物資が実際の戦争にどのように影響を与えたのか、または与えなかったのかを考察したもの。学術論文のような内容で細かい数字(1日当たり〇〇tの食料を運ぶのに馬車は何代必要で、1日当たりどれくらい進むことができ、実際どれくらい目的地に運搬できたのか)が続き、訳の冗長さも相まってなかなか呑み込めない著作だった。

最後に解説が20ページほどついていて、それがとてもうまくまとまっているので気になった方は図書館で借りてそこだけ読むのをお勧めします。

本書のコンセプトは大事だといわれながらも大雑把扱われがちな「補給」というものについてできるだけ厳密に考えていようというもの。厳密に数を数えてみることで今まで通説的に言われてきたことと違ったもの見えてきたと主張している。

たとえばナポレオンのロシア遠征において補給を無視していたとか、戦略がなかったとされているがむしろ今まで現地調達(徴発)が中心であった戦争について物資貯蔵庫を設けたり、物資を集中したりして歴史上もっとも計画された戦争と評価している。またプロイセンの大モルトケについて普墺戦争で補給について問題があったにもかかわらず普仏戦争でも放置していたと指摘されている。

大モルトケは鉄道を活用して普仏戦争に勝利したと一般に言われているが、鉄道の輸送能力では軍隊の進軍速度に対して運送時間が遅すぎて鉄道から補給なんて全然受けられず、現場がやりくりしたり補給の問題が表面化するほど弾薬の使用量がなかったので事なきを得た。鉄道はあってもなくても影響なしという結論である。

一方WWⅠでのドイツ軍参謀(要は敗戦した戦争の指導者のひとり)の小モルトケについて当然評価は低いのだが、むしろ大モルトケ以来放置されていた補給の問題について改善策を講じたとして評価されている。

ただ補給がすべてかと言っているかとむしろ逆で、ナポレオンの格言である「戦争において、精神と物質の関係は三対一である」という言葉を引用しながらむしろ戦争というものがいかに計画通りいかないか、その場での指揮官の判断などに左右されるか、むしろそのほうがよかったということを指摘している。最後の事例はWWⅡノルマンディー上陸作戦なのであるが、それは歴史上もっとも事前に準備され、必要なものを必要な時に必要な場所に運べるよう手配して始めた作戦であったが、むしろ計画が大きすぎてすぐ計画通りいかず、修正している間に現場が判断して行動したらむしろそれでよかったということを示している。

一点だけ気になったのは本書で紹介している事例が欧州の地上戦に限られているのでアジアや、はたまた海戦では補給はどのように影響するのか、教えてもらいたいと思った。

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