アート引越センターでの「労災隠し」 モンゴル人男性の労災事故について

総合サポートユニオンの組合員であるモンゴル出身のAさん(30歳代男性)が、アート引越センターの引っ越し作業中に、顔面を骨折する大怪我を負い、長期休業を余儀なくされましたが、会社がAさんの休業に関する労災申請を適切に進めなかったために、いまだに労災の休業補償を受け取れず、Aさんは生活に困窮しています。

私たちはアート引越センターと派遣会社・株式会社アーテルに対し、労災事故の責任を認めて、速やかに謝罪と補償を行うよう求めています。


モンゴル出身のAさん(30歳代男性)はフェイスブックに掲載されていたモンゴル語での求人広告をみて、派遣会社に登録しました。そして、仕事がある日は「明日は◯◯で仕事があるので、●●時に◯◯に行ってほしい」という内容のメッセージが派遣会社から届くようになっていました。派遣は日々単位で行われており、現在禁止されている「日雇い派遣」(雇用期間が1か月未満の派遣)の形でした。

Aさんにこの派遣会社から紹介される仕事はほとんどが、CMなどで有名な引っ越し業界の大手「アート引越センター」での引っ越し作業でした。今年3月にAさんは、アート引越センター墨田支店や江東支店、足立支店に朝7時30分に集合し、18時や19時まで休憩無しで働いていたときもありました。Aさんが怪我を負ったのも、アート引越センターに派遣されて、東京都中央区勝どきにあるタワーマンションでの作業中でした。

今年(2024年)3月28日、引っ越し作業中にトラックの荷台(地上から1.5m)から冷蔵庫を下ろす作業中、冷蔵庫が荷台からAさんに向かって倒れ、Aさんはその下敷きとなりその場で意識を失いました。冷蔵庫は500Lの容量で重さは100キロある大型のものでした。同じ現場で働いていたスタッフが救急車を呼んで、Aさんは救急搬送されました。

Aさんの怪我は病院で数針を縫う重症で、頬の骨などを骨折する「多発顏面骨骨折」と診断されました。幸いにも入院するほどではなかったものの、いまでも日常的に痛み止めを飲まなければならないほど痛みが続いており、骨が固定されるまでは仕事も運動もドクターストップがかかっています。

●安全講習もモンゴル語での作業指示もない「アート引越センター」の現場

Aさんが怪我を負った事故が発生した原因は、法律で義務付けられた安全対策がアート引越センターの現場で行われていなかったことにあると私たちは考えています。労働安全衛生法では、雇入れ時に安全衛生に関する教育を行うことが義務付けられています(第59条1項)。危険を伴う作業である場合、使用者は労働者に対し、危険を回避するために必要な安全教育を行うことが義務付けられているのです。また、外国語を母語とする労働者には母語による教育をしなければなりません。(厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」

しかしアート引越センターの担当者は「安全講習はしていない」と、私たちとの団体交渉において回答しました。また、モンゴル語を話すスタッフもアート引越センターにはおらず、Aさんが理解できる言語でコミュニケーションを取ることもできなかったと認めています。

これは明らかに法律違反であり、アート引越センターは労働者の安全対策を講じるつもりがなかったことで起こってしまった労災事故だと私たちは考えています。

●2ヶ月間、労災事故の報告を国に提出していなかったアート引越センター

Aさんが私たちの労働組合に加入した後に、私たち総合サポートユニオンは今年5月20日にアート引越センター江東支店(江東区亀戸)に、労災事故の補償などを求めて団体交渉の申し入れを行いました。すでに事故から2ヶ月が経過していましたが、驚くべきことに、アート引越センターは義務付けられている「労働者死傷病報告」の提出を国に行っていませんでした。その場の担当者は「Aさんはうちの社員ではなく派遣なので、提出していない」と、あたかも派遣労働者には労災が適用されないかのような発言を繰り返し、事故に対する反省は全く見られませんでした。

そもそも労働者死傷病報告は、労災事故が起こった際に企業が管轄の労働基準監督署に提出する書類で、4日以上の休業が必要な怪我が発生した場合には「遅滞なく」提出しなければならないと決まっています。派遣の場合には、派遣先・派遣元の両方に死傷病報告の提出が義務付けられています。死傷病報告の未提出は、いわゆる「労災隠し」にあたり、罰則も定められている重大な犯罪です(なお、アート引越センターは5月29日に亀戸労働基準監督署にAさんの事故に関する死傷病報告を提出しています)。

派遣で働く労働者や繁忙期に日雇いで働くAさんのような移民労働者のことをあたかも駒のように扱い、怪我をしても法律で義務付けられた報告すらしないアート引越センターの態度はあまりに異常です。

アート引越センターほどの大企業が2ヶ月間もの間、労災事故を国に報告せず隠していたのをみると、同社では他にも報告されていない労災事故があるのではないかと考えてしまいます。

●仕事を失い、生活に困窮

Aさんが病院に運ばれた後、派遣会社はその場の治療費等を労災保険で対応できるよう、手続きを進めていたようです。労災保険を使えば治療は無料になりますし、休業期間中に対する補償分の給付も受けることができますが、その都度の手続きが必要になります。ところが派遣会社は最初の手続きだけを行い、その後の労災保険の手続きを放置しました。

日本語のできないAさんはそのまま放置されることになり、労災保険の休業給付を受給することができず、医療費の一部を私費で建て替えています。さらに本来であれば受給できる休業補償もまだ受け取れていません。その結果、労災事故に遭ったことで生活の糧を失い、困窮するようになりました。医師から処方された薬も、お金がないため購入できなかったものもあります。

それでも、労働組合に加入して、会社に補償を求めてAさんは声を上げています。

「勤務先からの補償がないため、経済状況が厳しいのが現状です。
妻がフェイスブックで組合のポストを見て、会いに行きました。その時、こんな場所があることを知ってとても嬉しかったです。(組合に相談に)行ってみると、補償が必要だということがわかりました。会社に(団体交渉に)行って私の問題を話してくれた皆さんに感謝しています。今後もこの問題を解決してくれることを願っています。」

総合サポートユニオンには、労災事故や労災隠しの相談が相次いでいます。同じような状況にある方は、ぜひご相談ください。


技能実習生など日本で働く移民労働者からの相談が相次いでいます。特に労災被害に遭って、手指を切断するなどの大怪我を負い、その後解雇されたケースが少なくありません。このような労働者を支援し、活動を広げていくためにも、私たちの活動にご支援、ご協力いただけると幸いです。

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