見出し画像

6月30日の派遣会社への抗議行動に参加してみて(総合サポートユニオンの組合員の感想)

 6月30日、派遣切りに遭った組合員3名のために、総合サポートユニオンはそれぞれの派遣会社に対して街頭での抗議活動を行いました。私は組合員の1人として、自らも演説をしたりシュプレヒコールを上げたりしながら、一部始終を見ていました。そんな一参加者の視点から、当日の出来事を振り返ります。

 派遣切り、そして抗議へ

 組合員Aさんは出版社で、Bさんは中華レストランで、そしてCさんは保育士として、それぞれ派遣で働いていました。3人に共通するのは、1)派遣先の都合で休業状態になったにもかかわらず、派遣会社から別の派遣先を紹介されることもなく、雇い止め・中途解約を通告されたこと、2)その後、労働組合に入って派遣先と派遣会社に雇用維持と待遇改善を求めて団体交渉をしているものの、解雇撤回には至っていないということです。このように会社から一方的に「派遣切り」や「雇い止め」された労働者はこの3人だけではなく、日本中に何十万人といるはずです。このような状況を放置しないためにも、AさんとCさんの契約が切れてしまう30日に合わせて、3つの会社の本社前で抗議行動をすることになったのです。

翌朝のニュース:
https://www.tokyo-np.co.jp/article/38978
Aさんによるブログ記事:
https://note.com/sguion/n/n6cb8bd1c0e20
Cさんによるブログ記事:
https://note.com/sguion/n/ncca32f3c0f8e
Cさんを含めた保育全般が抱える問題についてのニュース(「Bさん」として登場):
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200623-00184618/
Cさんのような女性労働者が直面している問題についてのニュース(「Bさん」として登場):
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200628-00185494/
派遣労働者の権利について今野晴貴氏が解説:
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200527-00180420/
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200626-00185143/

 3か所連続行動

 この日の東京は昼過ぎから激しい雨に見舞われ、強い風も吹き荒れ、傘をさすのもままならないほどの悪天候でした。抗議活動をしている間は、たまたま比較的に小降りだったものの、3つの場所を転々と移動しながらの抗議行動は体力面でもたいへんです。緊急行動だったので、呼びかけが行われたのも前日夜でした。にもかかわらず、最終的には20人ほどの仲間が応援に駆け付けてくれました。そして、この日の行動は私の記憶に残る意義深いものとなりました。

・1か所目 株式会社エキスパートスタッフ(銀座一丁目)

 Aさんが契約していた株式会社エキスパートスタッフの本社がある銀座アスタービルの近くに組合員が集まりました。まずお互いの簡単な自己紹介をし、当事者のAさんから事情を聞きます。Aさんは派遣先に正社員と同じようにテレワークの許可を求めたものの断られ、感染リスクを避けるために休みをとったところ契約を途中で打ち切られ、そのまま派遣会社からも解雇されてしまいました。25日に団体交渉の申し入れを行いましたが、その場では「お引き取り下さい」と追い返され、後日派遣会社から保険証を返却するよう通告されただけでした。収入がなくなり、仕事も見つからない中で、どうやって生活しろというのでしょうか。派遣会社として義務を果たすべきです。行動の流れを確認し、さっそく拡声器を使って道行く人たちに事情の説明をしたり、本社事務所に向けてシュプレヒコールを上げたり、プラカードとビラでアピールしたりして、抗議活動をしました。

「派遣会社には労働者を守る社会的責任があります!」
「コロナで仕事がなくて、どうやって生活すればいいんですか!」
「今すぐ派遣切りを撤回してください!」
「派遣労働者の生活を守ってください!」

続いてAさんと組合員らが雇い止め撤回を申し入れに会社事務所へ向かいました。私を含む残りの参加者は演説で応援しながらビラまきを続けます。1階に店舗を構えるビルの管理会社の方が出てきて、事情を訊きに来る一幕もありました。突然の街宣に戸惑っていましたが、仲間の生存がかかっているという事情を説明すると理解はしてくれた様子でした。しばらく街宣を続け、気づくと予定時刻を過ぎていました。まだ会社事務所で話し合いが続いていましたが、Bさんの抗議行動の場所に向かうことになりました。

・2か所目 株式会社サポート・システム(秋葉原)

 向かったのはBさんが契約していた株式会社サポート・システムの東京支社が入っているビルです。さきほどと同じように自己紹介をし、当事者のBさんに改めて事情を聞きました。Bさんは休業補償について会社に相談したところ中途解約されました。5月中旬に団体交渉の申し入れを行い、6月頭に第1回目、約3週間後の29日に2回目と交渉を重ねてきたものの、解雇を撤回させるには至っていません。そこで今度は、まず会社事務所に向かい、解雇撤回を改めて申し入れることにしました。参加者全員で詰めかけます。しかし、対応してくれた社員の方からは、担当者が休みなので明日以降に出直してくださいと告げられました。電話で呼び出してもらうよう要請したものの、電話に出ないと言われてしまいます。会社の責任者が休みなら派遣労働者は生活苦に耐えるのが当たり前なのでしょうか。Bさんの切実さを全く理解していません。そこで、数名の組合員を折り返しの電話があるまで事務所で待機させ、残りは街頭で宣伝行動の準備をすることになりました。

 1人が拡声器で道行く人に事情説明をし、数名がプラカードを掲げ、残りの参加者はビラを配ります。1か所目のときより雨が強くなり、ビラを受け取る人は少なめな印象でした。しばらく続けましたが、折り返しの電話もなく、事態は進展しませんでした。Bさんの会社にも抗議を続けていく必要があります。

・3か所目 株式会社ウィルオブ・ワーク(新宿三丁目)

 仕事が終わってから駆け付けた組合員を加えて、参加者は20人ほどになりました。場所は株式会社ウィルオブ・ワークの本社があるビルです。Cさんは正社員との平等な在宅勤務や、休業補償の全額支払いを保育園と派遣会社に要求したところ、6月末をもって派遣契約終了と派遣会社との雇用契約終了を言い渡されてしまいました。抗議行動当日の昼に派遣先の保育園に対して第1回目の団体交渉を行っており(派遣会社も同席)、緊急事態宣言を受けて休業した日数分の賃金は100%の補償を認められていたものの、派遣契約終了の理由も納得できるものではなく、解雇撤回にも至りませんでした。
 新しく行動に加わったメンバーの自己紹介を簡単に済ませ、さっそく会社事務所に全員で向かい、改めて解雇撤回を申し入れます。しかし、出てきた社員の方は、担当者が不在で何もできないので出直してください、の一点張りです。2つの会社で不誠実な対応をされ続けていたこともあり、私たちは担当者が出てきて対応してくれるまで、このまま待ちますと告げました。私自身は、交代で3、4日は居座り、なんとしても解雇を撤回させるくらいの覚悟でいました。何もせずに待っていても仕方がないので、半分ずつに分かれて事務所に居座るのと並行して街宣行動を開始することになりました。

 私は街宣の方に参加しました。周囲に高いビルが多かったためか、雨は大して降っていなかったものの、外は強烈な風が吹き荒れていました。道行く人たちも傘を破壊されたり、歩くのに精いっぱいだったりで、なかなかビラを受け取ってくれません。そんな中、会社事務所に残っていた組合員たちが外に出てきて、会社の担当者が出社することになったと報告してくれました。その担当者を待ちながら、今度は全員で街宣を行いました。ここで当事者のCさんも拡声器で演説してくれました。

 しばらくすると、見知らぬスーツ姿の男性が組合員の1人に話しかけてきました。抗議内容に興味をもってくれた通行人の方かと思ったら、この人物こそ会社が呼び寄せた担当者でした。私は聞き取れませんでしたが、「帰っていただくために来ました」と言っていたと後で知りました。組合の専従スタッフが「この人が会社の担当者です!ここで団体交渉しましょう!」という掛け声を上げました。街宣とビラ配りを続ける数人を除いて、この人物の周りに組合員が集まります。みんなで会社の対応について抗議します。男性の方はあくまで一番近くにいた組合員の1人にだけ聞こえるような小声で話そうとするだけです。拡声器のマイクを向けて、みんなに聞こえるように話すことを促しますが、応じてくれません。詰め寄るCさんを直視しようともしません。諦めず抗議を続け、なんとか路上で話し合いをする流れになりました。

 私は路上で団体交渉が行われるというのは初めての経験でした。道端で人だかりができている状況に、道行く人たちも何だ何だと興味を示していました。この時からでしょうか、何かが変わったのです。興味をもった方が暴風雨の中にもかかわらず、ビラを受け取ってくれるようになりました。会社の担当者を中心に、組合員たちが取り囲んで話し合いに熱中しています。当事者のCさんも、AさんもBさんも、会社担当者に詰め寄っています。輪の一番外側では、道行く人に声をかけ、ビラを配るメンバーがいます。私もプラカードを持って道行く人たちに声をかけてアピールしていました。人だかりに引き込まれるように、通りすがりの人たちも関心を向けます。同じく派遣で働いているという方が集団に加わって、話に耳を傾ける場面もありました。当事者の方たちの切実さと他の組合員の熱意が、見ず知らずの人たちにも共感を広め、普段は通りすぎるだけの道端が人間同士のつながりを感じられるような、1つのまとまった空間になっていたのです。時間がゆっくり流れているような、不思議な雰囲気でした。

 30分でしょうか、1時間でしょうか、正確な時間はわかりませんが、やがて話し合いは収束に向かいました。その場で解雇を撤回させることはできませんでしたが、会社側から以下の譲歩を引き出すことができました。

・7月からの契約をどうするかは7月3日に伝える
・3日までの休業手当については支払う方向で検討し、翌7月1日の17時までに連絡する

 そして、このブログを書いている最中に当事者のCさんから組合員全員に連絡がありました。とりあえず3日までは契約を延長してもらえることになり、それまで休業補償を受け取れることが決まったそうです。私たちが路上で要求したことをそのまま受け入れた形です。粘りと執念の勝利です!

 時刻は21時を回っていたでしょうか。夜遅くなっていたため、参加者同士で感想を簡単に交換して、その場は解散になりました。まだ予断を許す状況ではありませんが、この日の行動が1つの成果につながったと言えるのではないでしょうか。

 今回の行動に参加した感想

 今回、行動に参加して、私は労働者の団結がどんなに力強いものかを知りました。まず、別々の会社で働いている組合員のための抗議を同じ日に連続で行ったことで、問題意識を共有していっしょに行動することができました。また、3か所目では会社事務所に留まって、担当者を呼んで誠実な対応をしてもらえるまで帰らないと粘ったことで、ポジティブな対応を会社側から引き出すことができました。その後の路上での団体交渉では、組合員の派遣切りに抗議するとともに全ての派遣労働者の生存を守るために、みんなが一丸となって行動できました。そうやって団結することで、一方的に解雇を通告してくるような横暴な会社が無視できないような立場に、やっと立つことができたのです。仲間の団結が会社との力関係を覆したと言えます。今後、AさんとBさんの解雇撤回のためにも、同様の粘り強い行動をしていく必要があるでしょう。会社側が本当に怖いのは、現場で働いている労働者の怒りに直面したときなのです。あきらめる必要はない、おかしいことをおかしいと言うのを怖がらなくていい、そんな希望と勇気を抱かせてくれる、記憶に残る一夜でした。参加してくださった組合員のみなさん、これからもいっしょに闘っていきましょう!


総合サポートユニオンの活動に協力いただける方は以下の記事もご覧ください。

●総合サポートユニオンのコロナ相談体制の支援のお願い
https://note.com/sguion/n/n72911d86017f

●総合サポートユニオン(生存のためのコロナ対策ネットワーク加盟)では、コロナショックによる派遣切り・非正規切りに取り組む「社会運動ボランティア」を募集します!
https://note.com/sguion/n/n0fb64b8bd2d0


*********************************
総合サポートユニオン
東京都世田谷区北沢4-17-15 ローゼンハイム下北沢201号室
TEL:03-6804-7650 FAX:03-6740-1690 メール:info@sougou-u.jp
********************************

総合サポートユニオンの活動を応援してくれる方は、少額でもサポートをしていただけると大変励みになります。いただいたサポートは全額、ブラック企業を是正するための活動をはじめ、「普通に暮らせる社会」を実現するための取り組みに活用させていただきます。