ディズニーランドの「美女と野獣」はアトラクションの歴史の転換点
2020/9/28、東京ディズニーランドに新しいアトラクションが誕生しました。
その名も「美女と野獣“魔法のものがたり”」。
https://www.tokyodisneyresort.jp/tdl/attraction/detail/197/
僕は1年ほど前に乗りましたが、衝撃でした。
あまりの完成度、そして大胆さ。
これはアトラクションの歴史を大きく動かすんじゃないか、、、?と、期待が膨らむ体験でした。
そんな「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、
どんなアトラクションなのか?
何がすごいのか?
そして、
アトラクションは、この先どこへ向かっていくのか?
そんなことを考える記事です。
注意:
この記事には、「美女と野獣“魔法のものがたり”」に関するネタバレが多分に含まれています。
体験したことのない方はご注意ください。
トラックレスは、
アトラクションに「留まる自由」を与えた
トラックレスライドとは?
「美女と野獣」は、トラックレスライドと呼ばれるタイプのアトラクションです。
トラックレスライドとは、その名の通り、線路がないアトラクションのことです。
いわゆるジェットコースターなどには、線路がありますよね。
お客さんは、ライドに乗って線路の上を進みながら、周囲の作品を見るわけです。
ここで、「これを見せたい!」という重要な演出があったとします。
当然作り手としては、ライドのスピードを落として、長い時間見てもらいたいですよね。
しかし、ライドを極端にゆっくり動かしたり、止めたりすることはできません。
次のライドとぶつかってしまうからです。
大量のお客さんを乗せるために、複数のライドが同時に動くのが当たり前です。
それらの間隔を十分取るためには、すべてがある程度の速さで動き続けている必要があります。
しかし!
トラックレスライドは、「同じ場所に留まる」ことが出来ます!
理由は単純です。
まず、線路がないので、複数のライドがそれぞれ別の道を通ることが出来ます。
あるライドが止まっている間、次のライドは別の道を通れば、ぶつかることはありません。
これは、非常に重要な変化です。
作り手が、見せたい演出を好きなだけ見せることができるからです。
例: プーさんのハニーハント
例えば、「美女と野獣」と同じく東京ディズニーランドにあるトラックレスライドの、
「プーさんのハニーハント」を見てみましょう。
アトラクション終盤、ライドはプーさんが見ている夢の中に迷い込みます。
そこは、ズオーとヒイタチという不思議な生き物がどんちゃん騒ぎをしているとってもカオスな空間です。
ライドは夢の中を行ったり来たりしながら、たくさんの不思議な体験をする...のですが、
その間、ずっと同じ部屋の中にいます。
その時間、およそ1分。
アトラクション全体が4分半ほどなので、かなり長く留まっていることがわかります。
これが、トラックレスライドが可能にした、
「留まる」演出です。
これによって、「なんだか怖い夢を見ている、起きたいのに起きられない」というドキドキ感がうまく表現されています。
(実際、この演出が「怖い」と感じる人も多いみたいです。)
「美女と野獣」の体験は、
"没入" 超えて "陶酔"
さて、話を「美女と野獣」に戻しましょう。
ざっくり説明
ゲストは、下の画像のようなカップ型のライドに乗り込みます。
最大10人乗りで、6台がまとまって進みます。
そしてこのカップ、「踊るように揺れる」ことが出来ます。
これによって、音楽に合わせて踊っているような感覚になります。
映画「美女と野獣」の世界を、愛され続ける音楽とともに存分に堪能できるアトラクションです。
大胆過ぎる時間配分
さて、このアトラクションは所要時間約8分と、かなり長めです。
しかし、注目すべきはその中身です。
大まかに以下のようになっています。
晩餐会...約1分半
名曲「Be Our Guest」にのせて、豪華な晩餐会が開かれます。雪の森...約1分半
ベルと野獣のそれぞれの想いが、「Something There」にのせて歌われます。襲撃...約1分半
野獣を倒すために街の人々が城を襲撃。倒れた野獣にベルが愛を伝え、アトラクションはいよいよクライマックスへ...舞踏会...約1分半
人間に戻った野獣(王子)とベルの舞踏会で幕を閉じます。曲はもちろん、「Beauty and the Beast」です。
さて、上の4つのうち、1、2、そして4は、それぞれ1分半にわたって、1つの部屋で展開します。
つまり、3つの部屋だけで、アトラクションの所要時間の大部分を使っているんです。
しかも、1つ1つの部屋にはそこまで大きな演出はありません。
「1分半もの間、同じものを見せ続けている」ということです。
冷静に考えると、これはかなり大胆です。
もし僕が作り手なら、「退屈に感じるのではないか」と不安になって、なにかが突然現れるようなマジック的な演出を加えたり、さっさと次の部屋に進めたりしたくなると思います。
しかし「美女と野獣」は、あえて何もしない。
特に4の舞踏会のシーンは、起承転結の「結」の部分なので、これ以上ストーリーの展開は有りません。すぐに終わってもいいはずです。
なのに、そこからダメ押しで1分半使っています。その間、照明の色くらいしか大きな変化はありません。
なんという自信...
なぜ「それだけ」でいいのか?
最小限の変化で、「同じものを見せ続ける」。
この演出は、どんな感情を生むのでしょうか?
僕が思うに、それは強烈な没入感、
もっと言えば"陶酔"感です。
実際の舞踏会を想像してください。
音楽に合わせて、ゆったりと踊っていると、そのうちに踊りに没入して、時間を忘れてしまう。「ゾーンに入る」とも言えるでしょう。
「美女と野獣」の体験は、まさにこれなんです。同じ場所で、同じ事をずっとやる。
そのうちに、深い陶酔感に包まれていく。
そんな体験が「美女と野獣」にはあります。
トラックレスで、アトラクションはどう変わる?
「美女と野獣」はまさに、アトラクションの常識を大きく変える衝撃的な体験です。
これまでのアトラクションは、動き続けなければならないので、「色んなものを次から次に見せる」しかなかった。
「美女と野獣」はトラックレスライドによって、「1つのものを見せ続ける」という新たな演出の道を切り拓いたのです。
アトラクションの未来を見せてくれる「美女と野獣“魔法のものがたり”」。
もしまだ体験していないなら、ぜひ行ってみてください。
ただし、酔いやすい人は注意!
一つ注意として、所要時間が長いのと、乗り物がずっと揺れているので、乗り物酔いしやすい方には辛いかもしれません。
準備できるのであれば、酔い止めの薬を服用しておくのをお勧めします。
面倒ですが、そのくらいの価値はあります。
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