夏祭り【短編小説】

 もうこんな時期ですか。
殺し屋テラフは夏が嫌いでした。小さなころから人を不幸にする技を叩き込まれてきたので自分や人を幸せにするなんてことは考えたこともありませんでした。
 夏といえば祭り、花火大会、花見とかみんなが盛り上がるイベントがあります。ですがそんなイベントに行ってなんの得になるのだろう。そう思っていました。
ある時テラルは仕事のためにターゲットのいる町の祭りに向かうことになりました。その町のお祭りは神社の境内で毎年開催されるもので結構な人で盛り上がるそうです。祭り当日の夜。テラルは神社の階段の所に並ぶ列を見てあっと驚きました。あまりにも想像より人が多かったのです。こんなに人が多いとは想像もしていませんでした。こんなにも楽しさとかを求める人がいるのかと思っている自分が心の奥にいました。こんなことに咲く時間があるんだったら……。とも考えてしまいます。素早い動きで長蛇の列を抜けるとテラフはターゲットのいる屋台をめがけて走っていきました。依頼主が提供してきたマップに表示されている濃い赤の矢印には深い恨みが現れているように感じました。この殺しを依頼してきた依頼主は、屋台の野郎にだまされたの一点張りだった。おかしな客もいたものだとおもってしまいます。でもこれも仕事。どんなに軽い理由でさえ遂行するのが真の殺し屋なのです。テラフはいつも仕事をこなすとき対象となる相手がどんな人なのかを考えてしまいます。でも一度スイッチをいれるとテラフはもう後戻りはしません。今回もそのつもりでした。
「君はなんで人がこんな祭りに来るのかわかるか」ターゲットの男はそういうと立ち上がりました。長い間剃っていないであろうあご髭、目に生気は感じられず、服もボロボロになってしまっている。
「あの人らは君と違って欲望にまみれているのさ。常に自分の欲求を満たすために行動している。」
「欲求……。」テラフは自分の中の欲求を探した。昔から自分の欲求を満たしたいと思ったことがなかった。そんなものいらないと思っていたし実際にいらなかった。
「でも夏はいいですよ。なんだか夏はその欲求を包み込んでくれるような気がします。」
「でも周りの人たちはみんな……。」
「今を生きないと夏に置いて行かれますよ。」
テラフは仕事をこなし、夏祭りを去った。

 それから毎年テラフはヒトのマネをして夏祭りに行くようになった。あの男に会ってからはヒトのように生きてみたいと思うようになりましたが、まだ夏においていかれるという感覚はわかりません。
 今でもあの男の言葉がたまにリピートされます。

金沢 かずえ(中学2年)

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