謎【エッセイ】

 足を止めた。夜9時、まだ少し肌寒い季節。とある謎を見つけた。渋谷のネオンの明るさがちょうど入らないビルとビルの間の暗闇。一瞬目を疑った。なんだあれはと。その時はものすごく疲れていたため、幻が見えたのだと思ったのだ。
 うん? さっきから何を見つけたんだって? 謎とは何か? その言葉の通りだよ。僕が見たのは暗がりの中の青いトラック。その車体には『謎』の一文字。その時駅を目指し、僕は橋の上。いや、大きな大きな歩道橋に続くスロープを登っていた。だから、確かめようにも行くことができない。少しの月明かりに頼りながら目を凝らす。確かに大きく『謎』と書いてある。他に読み取れる情報は無し。そうこうしているうちにどんどん時間が溶けていく。今日はこの後予定があったため、泣く泣く駅に走った。
 渋谷からの電車の中で揺られながら、ずっと謎を考えていた。
いつもなら、スマホをいじったり、意識が飛びそうになったりするのだが、その日は違った。疲れ切っていた体と頭はもう蘇り、脳はフル回転している。1番最初に浮かんできたのは、あのトラックに入れば何かの諜報部員の訓練を強制的に行われ、世界各国を駆け回るスパイになるという妄想。これは考えられる説ではなく妄想だ。その妄想をしはじめたら一生が終わってしまうので今は一回消去することにした。
 でも、実はもう思いついている説が一つあるのだ。これはかなり有力な説。最近、いやかなり前だが、テレビで救急車をお化け屋敷にしたものを見たことがある。そんな感じであのトラックも何かの施設だったのではないか。謎、3次元で真っ先に思いつくのはリアル脱出ゲームだ。リアル脱出ゲームとは本当の建物などに謎をたくさん仕掛けてそれを参加者が解き、その建物などから脱出するというもの。僕は人見知りなので興味はあるがやったことはない。お化け屋敷さえ、車になる時代だ。謎も車になっているに違いない。そんな仮説を立て満足していると、ジャストインタイムで最寄駅に着いた。そのあとは自分の予定を済まし、人間が寝る前にするであろう行動を一通りして、床についた。寝落ちする数秒前、ふっともう忘れかけてた謎のトラックを思い出した。もしかしたらあのトラックは本当にスパイを作るトラックで明日にはもうなくなっているのではないか。そんな妄想をしたがその妄想が膨らむ前に僕の意識は無くなった。
 ついでにここからは後日談的なものになるが、僕の妄想が当たるわけもなく、そのトラックは陽がチリチリと照らす夏になっても何食わぬ顔でそこに鎮座している。
うん? そのトラックを確かめたのかって? いやいや、謎は謎のままで置いておくのがいいんじゃないか。決して勇気がなく近づけないわけではない。

神野 祐介(中学2年)

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