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10 スコール

『この人で良い』ではなく【この人 が 良い】じゃないとダメなんだ。

10年間恋愛をしていなかった、30代半ばのしがないOLが恋に落ちた。
心臓の音がひどい。動機で胸が痛い。頭に鳴り響く恋の音。
隙無く詰めてくるコミュニケーションに誘われて、閉じこもっていた部屋から一歩でたら、いつの間にか穴を掘られていて落ちていった。

その人のことを考えると息ができなくなる感覚。身動きが取れない水の中でおぼれている感覚。まだ肌寒い、春の陽気に誘われたとでも言い訳をして、この居心地の悪い、生暖かい水の中に沈んでいく…。


自分じゃないみたいだ…。

自由が利かない心と頭。何を返信したら良いか、タイミングは…?
今までどうやって何をどんなふうに話してたっけ…?
顔も知らないのにこんなに好きになれるんだな…。

「しがないさんと会う日まで、毎日走って自己研磨頑張ります!^^」

そのままでも十分好きだよ…と思いながら、嫌われないように当たり障りのないLINEを返す。眠れない、寝付けない。ずっとドキドキしている。心臓の音が本当にうるさい。あなたのことが大好きです、という気持ちを込めて、『なんとも思ってない風な』返信をする。

スマホを抱きしめながら寝ると、夢の中でも話しているみたいだ。24時間ずっと考えている。あなたのこと、会う日のこと、そして、あなたと過ごす未来のこと…

結婚願望0のしがないは、これを機に「結婚」というものを前向きに考えるようになった。「未来」を見るようになった。
『私が好きだと思えば付き合おう』ではなく『願わくば私を選んでほしい』と思える人が現れた。


どうしたらあなたに『付き合ってほしい』と言われるだろう…?


ついに1回目のご飯の日がきた。
その日はいろいろ最悪のタイミング。ホルモンバランス的に肌の調子も悪い、機嫌も良くない。大切な日はいつも盛れない。なぜ、どうして、タイミングが悪すぎる…!…でも、頑張らないと…!


「しがないさんですか?こんばんは!^^」


すごく笑顔の好青年…!
なぜ写真を出さないか不思議なぐらい素敵。清潔感もある。

その瞬間、私は固まってしまった。脳内フリーズ。
そこからお店へ移動し、今までの恋愛遍歴を延々と聞かれて2時間終了。

何も話せなかった、何も伝えられなかった。
少しでも良く見る洋服、化粧を施したが、そんなもの、この好きだという気持ちを前にすると全部かき消されてしまう。

私は会えてうれしかった、会っても好きだと思った。
あなたは?あなたは楽しかったですか?どうか、楽しんでくれていますように。楽しませることはできなかったけど、この緊張とともに、少しの好きだという気持ちが伝わっていますように…


帰りにその人からLINEが届いた。



「女って単純でツライwww 落としたらポイゲーム飽きないわwww」


聞こえていた恋音はまだ心に響きながら、頭の血がスッ…と覚めていくのがわかった。

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