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2022年8月-9月に読んだ本

人類堆肥化計画 / 東 千茅

駅前広場で開かれていた古本市場で、たまたま手にとった本が大当たりで嬉しい。とても好きな本だった。都会から里山に移り住んだ著者が、一般的に禁欲や清貧といった清らかな観念に結び付けられがちな里山暮らしに対して、そうした考え方は断じて否であると言い、里山本来の腐爛した賑やかな世界を悦びとともに伝えてくれる。

私とは何か / 平野 啓一郎

個人(individual)を分割不可分な1つの存在としてではなく、関係性に応じて色々な顔を持つ分人(dividual)の総合体として捉えることを提起する一冊。分人主義の考え方への納得も多くあるけど、何より著者が小説を描いてきた中で辿り着いた思考的探求をこうして別の本として切り出し、手に取りやすく差し出してくれるというのが嬉しい。

夜想曲集 / カズオ・イシグロ

五篇の短編集。生きることの真ん中にある苦味や切なさのようなものを、あくまで軽妙かつユーモラスに描き出していて、その匙加減の見事さに惚れ惚れする一冊だった。

えーえんとくちから / 笹井 宏之

まるでスーラの点描画のような眩しさと瞑想の只中にあるような浮遊感が独特な美しさのある作品群。一首目から一気に引き込まれる。

八朔の雪 / 高田 郁

TVドラマや漫画、映画にもなった「みをつくし料理帖」の小説第一巻。一話ごとの構成の巧みさ、登場人物それぞれの魅力、そして料理へのこだわり、時代考証の解説からも学びが多く早く次が読みたくなる。全10巻なのでまだまだ楽しめるのが嬉しい。

創造性はどこからくるか / 安倍 慶賀

「越境する認知科学」刊行にあたっての序文。

21世紀に入り、20年が経とうとしている。この間、認知科学は飛躍的な変化を遂げた。(中略) 以前の認知科学は、個人の頭の中の働きを探る学問とされてきた。しかし、近年の研究は、社会と知性は二重らせんのようのに、よじれあいながら人を特徴づけていることを明らかにしてきた。

という文章を読んで、改めて認知科学の本をこれからも読み続けたいなと思った。

ゴリラの森、言葉の海 / 山極 寿一、小川 洋子

霊長類学者と小説家の対談。2人の話がとても面白いけど、対談を収録している書き起こし形式なので、すぐに話が流れて他の話題に移っていってしまうことが多いのがやや残念。山極さん、小川さん、それぞれの本を読むのが正解だと思う。

息吹 / テッド・チャン

美術工芸品のように精緻に小説世界のディティールを描き出していて想像力の中にもこうした超絶技巧のような力というものがあるのかと驚いた。この本以降、似たような装丁の本が数多く出ていて、本屋でテッド・チャンの新作が出たのかもと勘違いしてしまうので辞めて欲しい。

コンヴィヴィアル・テクノロジー / 緒方 壽人

本のタイトルと、著者のTakram所属という肩書から、もっとテクノロジーに直結する実用的な本なのかもと思っていたが、実際には人と道具と自然との関係性を問い直し、より良いすがたを思索するような内容だった。イリイチの提唱したコンヴィヴァリティという概念を頼りに四方を見渡し、自分自身の現在地点を照らしてくれるような一冊。

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