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瞬間はどのように分割されるか:前口上(その0)

皆さんは,時間を連続的なものと考えているでしょう.私もそう思っています.エネルギーの量子化で最小単位があるように,時間は量子化できず最小単位はないらしいのです.
本質的に連続である時間の記述に,デジタル化した数値を用いるのはこれとは別の話です.

おおらかな昔の時代の生活には,「時(刻)」の単位で十分でした.例えば,8時半などの表現です.そのうち秒針のついた時計が普及し,「秒」が単位になりました.100mを9秒台で走る人が複数いるので,9秒98とか9秒97とか0.01秒の差を計測しなければなりません.人間の生活は,「秒」オーダーの計測で事足りますが,現象にはもっと瞬時に起こるものがあります.そこで,時間のデジタル化がさらに細かくなりました.1秒の1/1000を1ミリ秒($${10^{-3}}$$),1ミリ秒の1/1000を1マイクロ秒($${10^{-6}}$$)というようにどんどん細かくしていき,1ヨクト秒($${10^{-24}}$$)まで来ました.
wikipediaによると,2022年には,1ヨクト秒の1/1000の1ロント秒,その1/1000の1クエクト秒まで制定されたそうです.このように時間はいくらでも細分化を進めたデジタル化ができます.ただし,これは時間を測る単位のことで,時間の本質は連続であり,これ以上細分化できない時間量子のようなものは存在できないらしいのです.興味深いことです.

イーゴリ・ピエロビッチ・イワノフの2009 年 6 月 29 日のモスクワでの講演
が「エレメント」に掲載されています.
次回から,各領域;ミリ秒,マイクロ秒,ナノ秒,ピコ秒,フェムト秒,アト秒,ゼプト秒,ヨクト秒について,イーゴリの説明を概観していこうと思います.
デジタル化された時間幅の各領域には,その時間幅に起こる現象とその時間幅の測定法が表裏一体で結びつきす.細分化した時間幅内に現象の変化がないようなら,何も起こらなかったと同じで,そのオーダーの時間の細分化はオバースペックのように思います.
私は,いろいろな材料の測定をいろいろな方法で行いましたが,だいたいが材料の定常状態を知るために測定しました.つまり,瞬時に起こる現象の測定とは異なり時間をかけて測定ができます.もちろん,X線や紫外線をプローブ光として材料に照射しますので,これにより材料が変質したり分解したりすることのないように,測定はできるだけ速やかに,照射するプローブ光のパワーもできるだけ弱くして測定します.強い光で時間をかけてデーター収集すれば測定像の解像度は上がりますが,材料が変質したり分解したりしては元も子もありません.
測定の高速性と高解像度性は,互いに背反でトレードオフになります.あたかも不確定性原理でいう「粒子の位置と運動量とが同時に確定した値をもつことは不可能である」と同じです.
私は関わったことはありませんが,結晶表面の研究は,高速で動き回る原子が作る動的な表面を扱いますが,そのような場合の可視化方法もあります.

それでは,イーゴリの講演に従い,ミリ秒の領域から始めます.


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