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スガハラで働く#05|女性職人の、働く

新年あけましておめでとうございます!本年もどうぞよろしくお願いします。2022年の『スガハラで働く』、最初の記事は女性職人にフォーカスを当てたいと思います。スガハラでは女性の職人が多く活躍していますが、ちょっと驚かれることがあります。工房で働く職人といえば、男性というイメージがあるからでしょうか。この時代、性別でカテゴライズすることに大きな意味はなさそうですが、それでもライフステージの変化に左右されやすい女性が、ガラス職人として働くことについて聞けば、スガハラで働くということの一つの側面が見えてきそうです。

ハンドメイドガラスのSghr / スガハラの公式note『スガハラで働く』
暮らしを彩る、暮らしに寄り添うガラス製品を、熟練した職人たちの手によって一つ一つ大切に作っています。すべての製品が生まれる工房は、千葉県の九十九里にあります。海風が心地よく、自然豊かな場所です。noteでは『スガハラで働く』と題して、おもにスガハラで働く人やことを紹介していきます。

職人、桑升桃子さんに聞く

まず話を聞くのは、入社10年目の桑升桃子さん。2度の産休とそれにともなう育休期間を経て職人に復帰し、現在もデザインした製品が新作に選出されるなど活躍を続けています。(近年では、フラクタルアスールなど)そんな桑升さんも、入社当時は、自分のやりたいことができるのかどうか、少なからず不安があったようです。

「わたしが入社した時は、みんな女性の先輩たちは下玉巻き(成形の土台)だけをやっていた印象があって、わたしは型吹き技法が好きだったので、やってみたいけど、やらせてもらえるのだろうか…という思いはありました」

しかし、女性職人の大先輩である内藤さん(後ほど紹介)が、自分の班を持ち、内藤さんにしかできない技法で仕事をしているのを見て、やれないことはないんだろうな。そういった気持ちでいたそうです。そして現在では、自身がデザインしたグラスの製造などで、型吹きを行うことも増えてきたとのこと。

桑升さんが入社から10年。10年というと大きな物事が変わる一つの単位だと思いますが、その中で女性が職人として仕事をすることについて、職場環境の変化はあったのでしょうか。

「最近のことですが、コロナの前と今では結構違うなと感じています。まず、仕事をする班の人数を減らさざるを得なくなったことで、スピード重視というよりもじっくりと作る傾向に変わったのかなと思います。複数人で連携するよりも、例えば一人で下玉を巻いて一人で吹いた方が、技術的には難易度は低いんです。すると、工房のなかに個人作家のように一人で仕事をする女性職人がいる、みたいな以前では見られなかったような光景もあって、個人的には面白い現象だなぁと感じています」

なるほど。コロナでものづくりの体制にそんな変化があったとは。デザインや素材の変化などではなく、そういった働く環境の変化が、作るものにまで及ぶというのは、とても興味深く思います。

職人、江良葵さんに聞く

続いて、入社8年目の江良葵さんにもお話を聞きます。江良さんも産休と育休期間を経て復帰し、現在は第二子がお腹にいるということです。まず、江良さん自身が現在妊娠中ということで、今まさにどのような感じで仕事をしているのかが気になります。

「それこそ周りの方に支えてもらって、何とか仕事はできていますね。つわりの期間中は負担がある作業から外してもらったりと、何かと気を遣ってもらって。いわゆるマタニティハラスメントみたいなもの、私の負担をカバーしなくてはならない誰かが怒ってしまう、なんてことは一切なくて、そこはすごくありがたいと思っています」

なるほど、なるほど。以前の若手職人の対談でも、職人の荻江さんが言ってましたね。そういう環境だから、産後も職人として現場復帰できるかもとみなさん思うのかもしれないですね。そして、江良さんも入社から8年ということで、職場の空気感が徐々に変わってきたことを感じているそうです。

「あたらしく入社してくる子たちも、やっぱりあたらしい考え方を持っていて、それに応じて会社の考え方や教育方針も変わってきていますね。やはり女性が多くなってきているので、私自身もすごく良くしてもらってますけど、女性に合わせて働き方を融通してくれている点はあります。」

また、江良さんも桑升さんが言っていたことと同じく、ものづくりの性質にも変化があったと言います。

「以前はとにかく数を作らなければ間に合わないことも多かったのですが、今は数が限られているけど、じっくり作るものも増えてきて、とにかく体力がなければ仕事ができないという状況ではなくなってきているように思います。それがまた、女性にとっては良いのかなと」

職人、内藤有紀さんに聞く

最後に、女性職人にとっての大先輩とも言える内藤さんに話しを聞きます。かれこれ30年近くスガハラの職人として仕事をされてきて、内藤さんの仕事、作るものには確固たるものがあります。もちろん、内藤さんがデザインした製品も数多くあります。(近年では、流華リブなど)

桑升さんも言ってましたが、内藤さんがやっているから自分もできなくはないのかな、やら。内藤さんにいろいろ聞いて安心した。というのは、スガハラの若手女性職人からちらほら聞く言葉。きっとそれだけ、女性職人にとっては頼れる存在なのだろうと思います。
内藤さんが入社された時は、それこそ男性ばかりの職場。かつ夏場は50度近くにもなり、体力も気力も必要とされる仕事をすることに、そもそも不安はなかったのでしょうか。

「不安というよりかは、ガラスをやりたいというのが先行していたので、確かに男性の職場でしたがあまり不安はなかったように思います」

やっぱり、内藤さんもそのタイプ(ガラスが好き過ぎる)だったんですね…

当時より内藤さんは、型吹きの技法ではなく、型を使わない宙吹きの技法をやりたかったそうです。そして宙吹きというのは、吹く人の個性がでるもので、それがおのずと自分の製品になっていったとのこと。だから内藤さんのデザインに良く言われる女性らしい曲線とか、そのことを自分では意識していなくて、「男性女性というくくりってあまりないと思いますけど」と、何ともかっこいい返事が。

では女性だから、男性だからということは抜きにして、内藤さんがスガハラの職人として長く仕事を続けて来れた理由とは何でしょうか。

「まず、好きなことやりながらお給料が貰えるなんて、これは良い仕事だと当時も今も思っています。そして、はじめから10年くらいはやらないと職人の仕事って身に付かないとは思っていました。当初は自分で独立することも考えていたのですが、うちの会社って自分の作品を休み時間や休日に作れたりと、寛大なところがあるんですね。そうすると、徐々にここでしかできないことってあるだろうなと考え直して。ガラスのタネがふんだんにあったりだとか、窯に色が溶けているだとか、それって個人の工房では絶対に考えられないので。そういうところですかね」

やっぱり内藤さんの言葉には、苦労や逆境やらに打ち勝ってきた人だから言える明快さのようなものがあります。そうなるともはや、女性だから、男性だからなど関係ないと思いますが、でも、みんながみんな打ち勝てる人ではないことも確かで。だからこそ、女性にとっても働きやすい環境づくりが必要。そのことを桑升さん、江良さんから聞くことができました。

そして考えさせられるのはそこから先で、二人の話しにも挙がってましたが、例えばコロナでものづくりの体制や性質にやむを得ない変化があって、一言で言えば量より質、体力より感性がより求められることが顕著になったと。そして、それは作り手の一方的な都合ではなく、そうやってできた製品をお客さんも求めているのでは?という予感または実感がある。そうなると、相対的に女性(あえてカテゴライズすると)がものづくりの現場において活躍する機会も、ますます増えていくのではないか、性別差はもっと関係なくなるのではないか、と自然に思えるのです。10年後の工房には、どのような光景があるのでしょうか。

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