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個人使用大麻非犯罪化への手引き - 第1章

2022年9月14日に、政治家志望の勝田さんから引き継いだツイッター/spaceでの大麻勉強会、毎月第二水曜日20:00-22:00の枠で、リニューアルした第1回 人権擁護のための大麻非犯罪化勉強会を開催しました。この勉強会を始めるにあたって新しくツイッターアカウントコミュニティを立ち上げましたので、みなさまどうかフォローやリツイートでのご支援やコミュニティへのご参加をお願いいたします。ツイッターアカウントは相互フォローで運営しています。

私は人前で話をする経験が少なかったのですが、共同ホストを務めてくださった勝田さんや、スピーカーに上がってくださったRasNobuさんはじめ、多くの参加者の方に助けられ、なんとか無事に第1回のスタートを切ることができました。spaceの録音は、2022年10月14日まで聴くことができます。スタートは参加者のアンチの方との議論からです。

関連文書 1.
個人使用大麻非犯罪化への手引き 第1章

関連文書2.
個人使用大麻非犯罪化の達成に向けた行動計画
 - アクションプラン 2022(案) - 第2.1版

関連文書3.
人権擁護のための大麻非犯罪化勉強会 総合カリキュラム(案)第2版

今回のスペースでは初回にもかかわらず、たくさんの貴重なご意見をいただき、次回への展望も見えてきましたので、その一部をこちらで情報共有させて頂きます。


次回のspace勉強会に向けた情報共有

・個人使用大麻所持での受刑者の釈放と前科の抹消はどうすれば実現できるのか?
・個人使用大麻所持のみで収監されている人は、再犯を含め、現時点で何人ぐらいいるのか?
・アルコール依存症への大麻の置換薬としての効果に関するエビデンスはどれぐらいあるのか?
・NHK党の浜田参議院議員、諸派党構想で政治家としての質問が出来る。担当は、秘書末永ゆかりさん。
・アイデアがあれば、NHK党のホームページに所定のフォームがあるので(紹介者アッキーと書く)そこに希望を書き込み、キャッチボールをしていく。返事が頂ける可能性が高い。質問の内容も何が訊きたいのかきちんと整理する。浜田さんが役人に質問してくれる可能性がある。アッキーさんがバイパスで浜田参議院議員のDMにダイレクトに入れる可能性もある。
・勝田さん:厚生労働省に関しては議事録を見させて頂いて意見を言っていこうと思っています。
・勉強会の主張を一つの文書フォーマットにまとめる。

録音を聴き直してみて、わかった反省点

・家の中のもっとwi-fi環境の良い場所で配信する。
・共同ホストを務めてくださっている勝田さんにもっと話題を振る。「ここまでで何か質問はありませんか?」など。
・ホストは話に夢中になりすぎないで、常にどこか冷静さを保つ必要がある。

お寄せいただいた情報の中で特に可能性を感じたのは、NHK党浜田聡参議院議員にアプローチするアイディアです。浜田議員は、東大と京大を卒業しておられ、放射線科の専門医でもあるという特異的なほど優秀なプロフィールを持っていらっしゃいます。浜田議員は、お誕生日がこの記事の執筆者であり、勉強会代表の野中と5日違いだということを知り、同世代としての親近感も感じました。

浜田議員はご自身のYouTube動画で、国会に請願を提出することを広く呼びかけられています。

提出窓口は、秘書の末永ゆかりさんが務めていらっしゃいます。

国会への請願は、紹介議員が一人でもいれば署名数が少なくても提出できるようですが、浜田先生のブログによると、議員立法で法案を通すには、沢山の議員の賛成者が必要になるそうです。

"1.議員が議案を発議するには所定の賛成者を要すること(国会法第56条)
発議者のほか、参議院では10人以上(予算を伴う法律案は20人以上)、衆議院では20人以上(同50人以上)の賛成者が必要です。"

現在の与党の自民党は、令和3年7月9日に、「大麻事犯の積極的な摘発・検挙」や「大麻の「使用」に対する罰則」を掲げる「大麻事犯等撲滅プロジェクトチーム提言」を上川陽子法務大臣に提出しています。そのため、個人使用大麻非犯罪化を法改正によって達成するためには、超党派の議員連盟などを設立することが有効であると思われます。

参議院法制局に個人使用大麻非犯罪化法案の骨子を作ってもらおう!

注目すべきことに、浜田議員は上述のブログ記事で、参議院法制局に、消費税の税率を現在の10%から5%に下げるための法案の骨子を依頼してわずか2日で作ってもらったことを明らかにしています。

参議院法制局の職務は、議員立法の補佐をすることです。

当局作成の法律案は、依頼者が所属する政党の政策決定機関等にかけられ、あるいは、他会派との議員間協議に付され、所要の賛成者を得た上で、国会に提出されます。当局は、立案を補佐した立場として、この政党の政策決定機関等での議論や他会派との議員間協議の場に同席し、依頼者の補佐をすることもあります。  当局作成の法律案が国会で審議される段階では、答弁用のメモ等の関係資料を作成するなどして提案者の補佐を行います。当局の職員が法制面に関して答弁に立つこともあります。
国際的視野をもって
 社会のあらゆる分野でのボーダレス化が進展している今日、参議院議員からの立案や調査の依頼に的確に対応するために、特に、国際的な視野をもって職務に取り組むことが求められています。

当局では、定期的に海外での調査を実施しており、職員が、現地の担当者と直接面談し、法制度や最新の立法事情等について説明を受けたり、意見交換を行ったりしています。また、外国の立法機関等からの求めに応じてわが国の法制度や法制執務に関する情報を提供することもあります。

参議院法制局に、個人使用大麻非犯罪化法案の骨子をつくってもらうことができれば、議員立法の賛成議員を募ったり、超党派の議員連盟を設立したり、一人ひとりの国会議員にロビー活動をしたりするときに、非常に有用な資料となります。また、社会の一般の方に、広く問題の所在を認知していただくきっかけをつくる材料として利用することが出来ます。そして参議院法制局がつくった個人使用大麻非犯罪化法案の骨子の存在自体に話題性や法改正へのリアリティがあります。

薬物個人使用の非犯罪化は、今では国連が推進する政策となっており、薬物使用者の逮捕や拘禁はさまざまな国際的な人権基準に違反していることが国連人権理事会、恣意的公金作業部会による調査でも明らかにされ、懲罰的な法律を見直すよう勧告されています。こうした動きは日増しに加速しており、実際に、今年(2022年現在)の2月17日にアメリカの女子プロバスケットボールのブリトニー・グライナー選手が医療目的で利用していた大麻由来のオイルなどの所持でロシア当局に拘束され、有罪判決を受けた事件で、アメリカのバイデン大統領は、

ロシアによる「不当な拘束」と批判し、即時解放を求める声明を発表した。

ことが産経新聞ほか多くのメディアで報道されています。個人使用のための大麻関連違反での逮捕は国際的な人権基準の侵害であると示されているため、今後日本でもこのような形で国際問題に発展することは十分に考えられます。

世界の大麻合法化を達成した国や地域では、住民投票など、ボトムアップで積極的に地域住民が行動したケースが多く見受けられます。日本でもトップダウンですぐに個人使用大麻非犯罪化が達成されることは、現状では考えづらいです。私たちは、この問題を解決するために勉強会を立ち上げ行動を起こすことを決意しました。みなさまどうか、関わりやすい形からで構いませんので少しづつお力を貸してください。あなたの「いいね」「リツイート」「フォロー」が世論を動かす力となります。私たちは今後も定期的に勉強会を開いてアクションを起こし、フィードバック を拾い、より多くの人たちを巻き込んださらなるアクションにつなげます。そして継続的に資料をアップデートし、個人使用大麻非犯罪化の手引きをマニュアル化します。

SNSでシェアしやすいように、また検索エンジンに語句がヒットするように、今回の資料「個人使用大麻非犯罪化への手引き - 第1章」の全文を以下に掲載します。

個人使用大麻非犯罪化への手引き - 第1章

Study Group on Decriminalisation of Cannabis for Human Rights in Japan (SDGC)
2022年 9月14日 水曜日 20:00-22:00
人権擁護のための大麻非犯罪化勉強会 代表 野中 烈

1. 用語の定義


1.1 大麻


1.1.1 1961年の麻薬に関する単一条約(単一条約)による定義
単一条約日本語訳1では、大麻は以下のように定義されています;

“第一条 定義 1
 (b) 「大麻」とは、名称のいかんを問わず、大麻植物の花又は果実のついた枝端で樹脂が抽出されていないもの(枝端から離れた種子及び葉を除く。)をいう。
(c) 「大麻植物」とは、カンナビス属の植物をいう。
(d)「大麻樹脂」とは、粗のものであると精製したものであるとを問わず、大麻植物から得た樹脂で分離されているものをいう。”


単一条約の大麻の定義から、枝端から離れた葉が除外されている理由は、単一条約草案第 3版に含まれていた「大麻の禁止」という特別な条項が、低THC濃度の大麻植物の葉から作られるバング(bhang)の広く普及した伝統的使用の禁止に反対したインド、パキスタンやビルマ、伝統医学や一部の製剤での大麻使用を指摘し、将来の研究でより多くの医療上の利益が明らかになる可能性があると指摘した他の国々からの強い反対により、採用されなかったことに由来します。その結果、いくつかの妥協点が見出され、会議では珍しくゼ ロ・トレランスの原則から逸脱し、「大麻」の定義から葉と種子が明確に除外され、「大 麻植物の花又は果実のついた枝端」のみに言及され、インドでは伝統的なバングの使用が継続されることになりました。[2]


1.1.2 日本の大麻取締法による定義
大麻取締法では、大麻は以下のように定義されています;

“第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。”


1.1.3 WHO(世界保健機関)による定義
WHOは、2018年に行われた大麻及び大麻関連物質クリティカルレビューの報告書で大麻について、以下のように定義しています;[3, 4]

“大麻及び大麻樹脂大麻は通常雌雄異株(すなわち、雄花と雌花を別々の株につける)の顕花植物である。それはモノテルペン、セスキテルペン及び他のテルペノイド様化合物を含む揮発性化合物の混合物に起因する特徴的な香気を有する。大麻の頂部及び大麻樹脂 (”ハシシュ”と呼ばれることもある)は一般に燃焼ののち吸入によって(すなわち、喫煙によって)投与される。大麻は、1961年の国連麻薬に関る単一条約によって、花又は果実のついた枝端で樹脂が抽出されていないもの(枝端から離れた種子及び葉を除く。)と定義されている。大麻樹脂は、粗のものであると精製されたものであるとを問わず、大麻植物から得た樹脂で分離されているものと定義されている。植物の樹脂状分泌物は植物の花序全体に発生するより高い濃度のΔ9 -THCの製品を産出するために採取することが 出来る。分泌物に加えて大麻樹脂は微細な植物性物質からなり、生産の方法次第で緩いあるいは圧縮された粘着性の粉末のようにみえる。”


1.1.4 大麻植物の分類
genus Cannabisをアサ属と訳す研究者も多いようですが、1961年の単一条約では、”「大麻植物」とは、カンナビス属の植物をいう。”と定義されているため、この文書では、カ ンナビス属という訳語を用います。2022年に公表されたUNODCのマニュアル 「Recommended methods for the identification and analysis of cannabis and cannabis products(大麻及び大麻製品の同定並びに分析のための推奨方法)」では、大麻植物の分類について以下のように記述されています; [5]

“カンナビス(Cannabis)属とカラハナソウ(Humulus)属 (ホップ) は、同じアサ (Cannabaceae) 科に属し、他に8属が含まれる。

カンナビス属は、単一の種によって表されるのか、あるいは複数の種によって表されるのかについての議論が継続中であるにもかかわらず、一般的には単一種(カンナビス・サティ バ・エル[Cannabis sativa L.])と考えられており、 カンナビス・サティバ亜種サティバ(C. sativa subsp. sativa)及びカンナビス・サティバ亜種インディカ(C. sativa subsp. indica)などの亜種を含む。報告されている品種には、カンナビス・サティバ・エル亜種サティバ変種サティバ(Cannabis sativa L. subsp. sativa var. sativa); カンナビス・サティバ・エル亜種サティバ変種スポンタネア・ヴァヴィロフ(=カンナビス・ルデラリス, Janishevsky)(Cannabis sativa L. subsp. sativa var. spontanea Vavilov (= C. ruderalis, Janishevsky); カンナビス・サティバ・エル亜種インディカ変種インディカ(ラム)ウェイマー(Cannabis sativa L. subsp. indica var. indica [Lam] Wehmer); カンナビス・サティバ・ エル亜種インディカ変種カフィリスタニカ(ヴァヴィロフ) (Cannabis sativa L. subsp. indica var. kafiristanica [Vavilov]が含まれる。

異なる亜種の化学的及び形態学的区別は、多くの場合、容易には識別できず、環境によって変更可能であり、連続的に変化するようである。しかし、DNA研究は、大麻が Cannabis sativa L.一種のみを持つ単型属であるという考え方を支持しており、ほとんどの目的には、遭遇したすべての大麻植物にこの名称を適用すれば十分であろう。”

このような分類は、形態学的特徴と化学的特徴(果実形態とΔ9-THC含有量)を組み合わせたSmall and Cronquistによって提唱されました。Smallによって提唱された全ての亜種と変種の特徴による分類体系は以下の通りです; [6]

“C. sativa l. (カンナビス・サティバ・エル)の亜種及び変種の検索表

 1. C. sativa subsp. sativa
(カンナビス・サティバ亜種サティバ)
酩酊能力の限られた植物、Δ9-THCは通常、開花期の植物の上部3分の1の0.3%未満(乾 燥重量)含まれ(場合によっては最高1%)、通常は樹脂のカンナビノイドの半分以下で ある。植物は繊維もしくはオイル用に栽培されるか、そのような栽培が発生した地域に自 生する。
2. C. sativa subsp. sativa var. sativa

(カンナビス・サティバ亜種サティバ変種サティバ)
成熟した痩果は比較的大きく、全長3.8 mm未満のものは稀で、宿存性の傾向があり、基部の狭窄部がなく、斑紋あるいはマーブル模様でなく、花被は脆弱に果皮に付着しており、多かれ少なかれ頻繁に剥がれ落ちる。
2. C. sativa subsp. sativa var. spontanea Vavilov
 (カンナビス・サティバ亜種サティバ変種スポンタネア・ヴァビロフ)
成熟した痩果は比較的小さく、一般に全長3.8 mm未満であり、小花柄から離断しやす く、程度の差はあるものの明確な短い、基部に向かう狭窄部を有し、大部分が宿存性かつ沿着の花被の不規則な色素沈着部のために外観は斑紋あるいはマーブル模様になる傾向がある。
1. C. sativa subsp. indica (Lam.) E. Small & Cronquist

(カンナビス・サティバ亜種インディカ[ラム]E. Small & Cronquist)
酩酊能力の著しい植物、Δ9-THCは通常、開花期の植物の上部3分の1の1%を超え(乾燥 重量)、高い頻度で樹脂のカンナビノイドの半分以上を含んでいる。植物は酩酊特性のために栽培されるか、そのような栽培が発生した地域に自生する。
3. C. sativa subsp. indica var. indica (Lam.) Wehmer
(カンナビス・サティバ 亜種 インディカ 変種 インディカ[ラム]ウェイマー)
成熟した痩果は比較的大きく、全長3.8 mm未満のものは滅多になく、宿存性の傾向があり、基部の狭窄部がなく、斑紋あるいはマーブル模様でなく、花被は脆弱に果皮に付着しており、多かれ少なかれ頻繁に剥がれ落ちる。
3. C. sativa subsp. indica var. kafiristanica (Vavilov) E. Small & Cronquist 

 (カンナビス・サティバ亜種インディカ変種カフィリスタニカ[ヴァヴィロフ)]E. Small & Cronquist)
成熟した痩果は比較的小さく、通常全長3.8mm未満であり、小花柄から離断しやすく、多かれ少なかれ明確な短い、基部に向かう狭窄部を有し、大部分が宿存性かつ沿着の花被の不規則な色素沈着部のために斑紋あるいはマーブル模様である傾向がある。”


1.2 非犯罪化、非刑罰化、合法化、それぞれの用語の定義

1.2.1 UNODC(国連薬物犯罪事務所)による定義
UNODCは、世界薬物報告書2022でそれぞれの用語について、以下のように定義しています;

“大麻の法的位置づけに用いられる用語
条約は大麻について何を規定しているか?
国際薬物条約は、「非刑罰化」、「非犯罪化」、及び「合法化」の概念を定義していないが、これらの用語は、薬物の議論、特に大麻の文脈において頻繁に用いられている。それにもかかわらず、「重大な違反の実行、比較的重大性の低い違反の実行、薬物を使用する者による違反の実行を含む、薬物に関連する行為に対処するための」規定が含まれている。[i]
一般的義務として、1961年及び1971年の国際薬物規制条約は、締約国に対し、これらの条約の規定に従うことを条件として、規制薬物の生産、製造、輸出、輸入、分配、取引及び所持を、医療上及び学術上の目的にのみ制限するための措置を定めることを要求している。[ii] 1961年の条約のもとでの規制対象物質として、これらの規定は大麻にも適用される。
したがって、非医療上及び非学術上の目的のために行われる上記の活動はいずれも、条約 への締約国の法的義務と矛盾している。国際薬物規制条約は、締約国に対し、薬物使用への刑事犯罪を定めることを要求していない。INCBは最近、「少量の薬物の個人使用及び所持を非犯罪化する措置は、薬物規制条約の規定に整合している」ことを明らかにした。 [i]

非犯罪化は、INCB により、「立法措置により違反が「犯罪」 から「非犯罪」に再分類される過程」と定義されており; その行為は違反のままであるが、刑法以外の手段で対処 することができる。[iii]
合法化は、多くの場合、大麻のような規制薬物の非医療上及び非学術上の目的のための、その薬物の生産、製造、輸出、輸入、分配に対する罰則を(刑事、行政、民事又はその他を問わず)伴わない、管理並びに商業化と関連している。
非犯罪化と合法化は全く異なる概念であり、軽微な薬物違反における非犯罪化は国際薬物条約の規定の範囲内であるが、合法化はそうではない。iv
非刑罰化という用語は、異なる文脈及び言語で、異なる意味で用いられている。[iii] INCB によれば、非刑罰化のアプローチには:「警察のダイヴァージョン実践、条件付判決及び刑事訴追の代替としての検察官の裁量権の拡大」などが含まれる。非刑罰化とは、例えば大麻の所持及び取引など、特定の行為が刑事犯罪のままであるが、既存の刑事制裁の適用が減少した状況を指すため、非犯罪化とは異なる。非犯罪化とは対照的に、非刑罰化には法的枠組みの変更を必要としない場合もある。
INCBは、薬物規制条約の範囲内において分化型の政策選択を行い、重大な薬物関連行動への効果的な対応を確保し、軽微な性質または薬物を使用する人 [v] によって行われた薬物関連行動への不均衡な対応を回避する法的枠組みを採用する各国に与えられた柔軟性を強調している。
i. See paragraph 371 in INCB, Report of the International Narcotics Control Board for 2021 (E/INCB/2021/1). ii. See article 4(c) of the 1961 Convention and article 5(2) of the 1971 Convention.
iii. See paragraph 378 in INCB, Report of the International Narcotics Control Board for 2021 (E/INCB/ 2021/1).
iv. See paragraphs 376 and 377 in INCB, Report of the International Narcotics Control Board for 2021 (E/ INCB/2021/1).
v. See paragraphs 380 and 381 in INCB, Report of the International Narcotics Control Board for 2021 (E/ INCB/2021/1).”


1.2.2 EMCDDAによる定義
EMCDDAの文書「Models for the legal supply of cannabis: recent developments (Perspectives on drugs)大麻の合法的供給のためのモデル:最近の進展(薬物に関する展 望)」では、それぞれの用語について、以下のように定義しています;[7]

“定義
この分野の用語は頻繁に混同されるが、基本的な用語では以下の区別に注意すべきであ る: 非犯罪化とは、ある特定の行動又は行為から犯罪としての地位の除外を指す。ただし、依 然として刑事罰でない罰則が適用される可能性があるため、その行為が合法であることを 意味するものではない。薬物に関する議論では、この概念は通常、薬物の供給ではなく、 個人の所持又は使用に対処する法律を説明するために用いられる。
非刑罰化とは、例えば、事件が 「軽微」 である又は起訴が 「公益に反する」とみなされ、処罰を科さずに刑事事件を終結させる可能性又は方針を導入することを指す。
合法化とは、以前は禁止されていた行為を合法化することを指す。薬物の場合、これは通常、すべての刑事制裁及び刑事でない制裁の除外を意味するが、他の規制によって許可の範囲が制限される場合もある。この用語は一般に薬物の供給の文脈で用いられる。
管理とは、アルコールやタバコの事例と同様に、物質の供給又は使用に関して規則と制限 のセットが設けられていることを意味する。管理制度は通常、年齢制限及び販売店規制な ど、アクセスに制限を設け、広告の制限を設ける場合もある。これらの規則に違反した場合の罰則は、刑事罰又は刑事罰でない罰則である。”


1.2.3 IDPC(International Drug Policy Consortium : 国際薬物政策共同体)による定義
IDPCは、「IDPC Drug Policy Guide 3rd Edition : IDPC薬物政策ガイド第3版」で、それぞれの用語を以下のように定義しています;[8]
非犯罪化
薬物使用の非犯罪化は、薬物使用、薬物の所持、薬物使用器具の所持並びに個人消費を目 的とした薬物の栽培及び購入に対する刑事罰の廃止を指す。非犯罪化は、すべての罰則の廃止を含む場合がある。その代わりに、非犯罪化の後に(刑事罰とは対照的に)民事罰又は行政罰が課される場合もあるが、それらは犯罪化の下で科されるものよりも懲罰的でな く、根拠と人権に基づくハームリダクション、保健及び社会サービスへの自発的なアクセ スの増加につながるものでなければならない。
法律上の非犯罪化(de jure decriminalisation)の下では、特定の活動に対する刑事罰は、法 改正によって正式に廃止される。
事実上の非犯罪化(de facto decriminalisation)の下では、選択された活動は依然として刑事犯罪であるが、実際には刑事罰は適用されない。

非刑罰化
非刑罰化とは、刑事犯罪に対する罰則の重さの軽減である。非刑罰化には、特定の薬物犯罪についての刑期の上限及び/若しくは下限又は罰金額の引き下げ、又は軽微な犯罪についての収監に代わる刑の選択肢への置き換えが含まれる。
合法管理
合法管理とは、特定の薬物の栽培、製造、輸送、販売が、法的規制制度によって運営されるモデルを指す。この制度には、価格、効力、包装、生産、輸送、入手可能性、販売及び/又は使用に関する管理が含まれ ‒ これらはすべて国家機関によって執行される。
合法化
合法化とは、すべての薬物関連行動(使用、所持、栽培、生産、取引など)が合法的な活動となるプロセスである。このプロセスの中で、政府は薬物の生産、配布及び使用を管理 し、入手可能性及びアクセスを制限する行政法並びに政策の採用を選択することができる ‒ このプロセスは「合法管理」として知られている。


1.3 非犯罪化の2つの形態


非犯罪化には、法律上の非犯罪化(De jure decriminalisation)と事実上の非犯罪化(De facto decriminalisation)と呼ばれる2つのモデルがあります。上述の「IDPC Drug Policy Guide 3rd Edition : IDPC薬物政策ガイド第3版」では、2つのモデルの特徴について以下のよう に説明しています。

“非犯罪化のプロセスは ‒ 法改正によるもの(de jure)と事実上のもの(de facto)の2つのタ イプに分類される。最初のタイプでは、刑事罰の除外は ‒ 刑事法の廃止、民事法の制定、または法律の見直しにつながる憲法裁判所の判決などの立法プロセスを通して行われ る。デファクト(de facto)モデルでは、薬物使用は国の法律では刑事犯罪のままである が、(例えばオランダなど)実際には人々は起訴されなくなっている。非犯罪化は、特定の物質(通常は大麻)、複数の物質、またはすべての物質(ポルトガルの事例)に焦点を合わせることができる。
法改正による非犯罪化は達成するまでに数年間かかる可能性があるが、事実上の非犯罪化は実践的な政策調整によって比較的短期間で実施することができる。しかし、事実上の非犯罪化政策は、例えば政治的指導者の交代があった場合などに、より簡単に覆される可能性もある。”

2016年に公表されたIDPCによる報告書「A public health approach to drug use in Asia: Principles and practices for decriminalisation : アジアにおける公衆衛生アプローチ: 非犯 罪化の原則と実践」では、法律上の非犯罪化(De jure decriminalisation)と事実上の非犯罪 化(De facto decriminalisation)について、以下のようにそれぞれさらに詳しく解説されています。[9]


1.3.1 法律上の非犯罪化 (De jure decriminalisation)
法律上の非犯罪化は、以下の内容について、刑事犯罪を除外するための法律の改正または廃止を必要とする:
• 薬物使用
• 個人使用のための薬物の所持および栽培、ならびに
• 薬物使用のための機器(例. 針や注射器、消毒綿、スプーン、フィルター、注射用水アン プルなどの薬物使用器具) の所持
法律上の非犯罪化アプローチの下では、違反金などの民事または行政 (非刑事) 制裁が設 けられる可能性がある。したがって、刑事罰の除外に加えて、これらの新たな民事上または行政上の罰則を規定する法律の制定が必要となる可能性がある。あるいは、薬物の使 用、個人使用のための所持または栽培に対する一切の制裁を設けず、代わりに自発的に治 療、保健または社会サービスに紹介することも可能である。

制裁のない非犯罪化モデル
ウルグアイは非犯罪化モデルを採用しており、そのモデルでは、薬物使用または個人使用 のための薬物の 「適正な量」 の所持に対して、法律はいかなる(刑事または行政)制裁 も課していない。ただし、薬物を製造する者については、その者自身の消費のために製造 されたものであっても、刑事制裁が適用される。

民事または行政制裁を伴う非犯罪化モデル
法律上の非犯罪化の多くのモデルでは、薬物の使用または所持は、刑事犯罪としてではな く、民事上または行政上の違反として扱われる。様々な管轄区域における非刑事的な制裁には、罰金、社会奉仕活動命令、注意または正式な警告、強制的な治療またはカウンセングと教育セッション、運転免許または職業免許の停止、強制的な薬物検査が含まれる。
薬物の使用や個人使用のための少量所持を刑事犯罪ではなく、行政違反とみなす国には、 チェコ共和国、ポルトガル、ドイツ、エストニア、スペイン、スイスがある。一部の国は、薬物法を改正し、大麻に対する刑事制裁を行政罰に置き換えたが、他の薬物には適用していない(例. オーストラリアの一部の州)。

このアプローチは、行政制裁の結果が軽微な場合(拘禁ではなく、少額の違反金または薬物の没収など)には効果的である。刑事罰の代わりに行政制裁を課すことで、公判前の拘禁、法廷審問、収監などを含む、刑事司法プロセスの費用を回避し、予算の利益を得ることができる。また、犯罪歴が残らないという事実は、将来の雇用、教育、住居の確保に有利となる。

しかし、行政罰が適用される場合には、その罰則が薬物を使用する人々の社会的排除をさらに強めることがないように注意する必要がある。一部の国では、個人使用のための薬物所持に対して違反金(警察による現場での違反金を含む)を課す国もある。違反金制度が採用される場合は、適正な水準に設定され、未払いによる収監につながらないようにする必要がる。また、パスポートの没収や運転免許証の停止などの民事罰は、雇用機会を含む、その人の生活に不当な負の影響を与える可能性があるため、避けるべきである。


1.3.2 事実上の非犯罪化(De facto decriminalisation)
事実上の非犯罪化は、法律上の非犯罪化と同様の結果を達成するが、法的に有効な刑事法を執行しないという政策決定を通して達成される。事実上の非犯罪化の現在のモデルには、次のような特徴がある。

• 薬物の使用および/または個人使用のための所持は刑事犯罪であるが、政策と警察の慣 行により、薬物を使用する人は刑事上の有罪判決や刑事罰を回避することができる。
• 刑事上の有罪判決や刑事罰の代わりに:
• 罰則が適用されない; または
• 軽微な民事上または行政上の制裁が適用される; および/もしくは
• 治療、保健および社会福祉サービス、カウンセリング、教育へ移行する。

法改正による非犯罪化は達成するまでに何年もかかる可能性があるが、事実上の非犯罪化は実践的な政策調整によって比較的短期間で実施することができる。しかし、法律によって裏付けられていないため、事実上の非犯罪化は既存の刑法を適用するという決定によって簡単に覆される可能性がある。

オランダは、大麻使用を非犯罪化する事実上の(de facto) アプローチをとっている。国内 での大麻の栽培、供給、消費は依然として犯罪であるが、政策課題として、政府は特定の 大麻使用および所持違反を訴追しない。

オーストラリアのいくつかの州では、警察のダイバージョンプログラムを通して、薬物使 用に事実上の非犯罪化アプローチを適用している。刑事上の有罪判決に代わるものとし て、注意または治療、教育、カウンセリングへのダイバージョン制度が機能している。教育は、文書資料の提供、電話または対面での情報提供、教育およびカウンセリングセッションの形をとることができる。

参考文献

1 外務省,『麻薬単一条約(「1961年の麻薬に関する単一条約」 )』 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mayaku/index.html
2 Bewley-Taylor D, Jelsma M. Regime change: re-visiting the 1961 Single Convention on Narcotic Drugs. Int J Drug Policy. 2012 Jan;23(1):72-81. doi: 10.1016/ j.drugpo.2011.08.003. Epub 2011 Oct 12. PMID: 21996163. https://www.tni.org/files/publication-downloads/regime_change.pdf
3 WHO Expert Committee on Drug Dependence: forty-first report. Geneva: World Health Organization; 2019 (WHO Technical Report Series, No. 1018). Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/325073/9789241210270-eng.pdf? ua=1
4 WHO Expert Committee on Drug Dependence: forty-first report. Geneva: World Health Organization; 2019 (WHO Technical Report Series, No. 1018). 7 Cannabis and cannabis- related substances. p.37. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
WHO薬物依存専門家委員会: 第41会期報告書, 7. 大麻及び大麻関連物質, 日本語仮訳, p.3 https://drive.google.com/file/d/1oNGWclwuwSUmSRHUhfA4jfIQ86ZCGRS3/view
5 Recommended methods for the identification and analysis of cannabis and cannabis products (Revised and updated) , Laboratory and Scientific Section, United Nations Office on Drugs and Crime, Vienna, 2022, p.8 https://www.unodc.org/unodc/en/scientists/recommended-methods-for-the- identification-and-analysis-of-cannabis-and-cannabis-products.html
6 E. Small, Cannabis: a complete guide, Kindle ed., CRC Press, Boca Raton, Florida, 2017, p.472
https://saltonverde.com/wp-content/uploads/2017/09/15- cannabis_complete_guide.pdf
7 UNODC, World Drug Report 2022 (United Nations publication, 2022), Booklet3,p.28
https://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/world-drug-report-2022.html
8 EMCDDA, Models for the legal supply of cannabis: recent developments (Perspectives on drugs), 2016. https://www.emcdda.europa.eu/publications/pods/legal-supply-of-cannabis_en
9 International Drug Policy Consortium (2016), IDPC Drug Policy Guide 3rd edition, p.144 -146 https://idpc.net/publications/2016/03/idpc-drug-policy-guide-3rd-edition
10 International Drug Policy Consortium (2016), A public health approach to drug use in Asia: Principles and practices for decriminalisation, p.14 - 16 https://idpc.net/publications/2016/03/public-health-approach-to-drug-use-in-asia- decriminalisation

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