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40歳になった女は、ティファニーでダイヤモンドを


はじめに言っておくと、原作の〈ティファニーで朝食を〉は、ラブストーリーなんかじゃない。

映画〈ティファニーで朝食を〉は、もちろん今でもたくさんの人に愛される名画の一つだ。しかし、原作とはかなり違っている。

●映画のあらずじ
オードリー・ヘップバーン扮するホリー・ゴライドリーは、NYで知られる高級娼婦。アメリカの長者番付トップテンに入るような大富豪にしか目がない。そんなホリーが同じアパートメントに暮らす作家志望の青年と恋に落ち…。

●トルーマン・カポーティの原作
高級娼婦のホリーは、さえない作家志望の青年なんかに恋はしない。ホリーは一貫して、大富豪にしか興味がないし、作家志望の青年もホリーに恋愛感情なんか抱いていない。そこにはただただ、ホリーの自由な身の上に対する憧れと、友情しかないのだ。

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それを映画化するとなると、一見とりとめもないストーリーのように思えてくる。読者は、勝手わがままに生きるホリーを見守るだけなのだから。そこでハリウッドは、ホリーと青年が恋に落ちるラブロマンスに仕上げたわけ。

それを原作者のカポーティは最後まで不満に思っていたはず。だって、過去にも後にも彼の作品において、ラブロマンスなんて存在しない。恋愛小説は、いつだってカポーティのスタイルではないのだ。その上、彼はオードリーのような優等生にホリーを演じて欲しくなかった。できれば天真爛漫を地でいく、マリリン・モンローに演じて欲しかったのだ。(個人的にはミア・ファローがふさわしいと思っている)

それと、掲載のいざこざもおもしろい。

カポーティは〈ティファニーで朝食を〉を執筆したとき、〈ハーパースバザー〉に持ち込んだ。しかし担当者は掲載を拒否。「広告主のティファニーが気を悪くするかもしれない」というのが理由だ。1950年代のNYは意外と保守的で、娼婦が主人公の小説なんて…と眉をひそめる人が多くいたのだ。

「ティファニーはきっと、ショーウィンドウにこの小説を並べるようになるよ」と、トルーマンは言ったが、事実そうなる。

〈エスクァイア〉に掲載されたが、結果ベストセラーとなり、ティファニーはもちろんそれを大歓迎した。(掲載を断った〈ハーパースバザー〉の担当者はとばされたという噂)

前置きが長くなってしまったけれど、ティファニーはそうこうして若い女性が親しみをもつブランドとなった。実際にティファニーに行けば、手頃な価格でブレスレットやネックレスを高校生でも買うことができる。でも、それらのアイテムを身につけていては、ティファニーの魅力はわかりっこない。

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出典:TIFFANY&Co.

ティファニーの真価がわかるのは、ダイヤモンドなのだ。本物の、混じり気なしの美しさをまといたいなら、ぜったいにティファニーのダイヤモンドを身につけるべき。

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出典:TIFFANY&Co.

ティファニーは1837年、アメリカのニューヨークで誕生した。

当初はシルバーを中心に扱っていたティファニー。1877年、南アフリカの鉱山で発見された287.42カラットの原石を、ティファニー創業者が1万8千ドルで購入。(婚約指輪は、ふつう0.3カラットくらいのダイヤモンドが使われる。なので958人分の婚約指輪が作れる量)

その原石は、128.54カラット、82面のクッションシェイプのブリリアントカットに仕上げられた。通常ブリリアントカットより24面も多いカットは、夢のような輝きを見せる。こんなダイヤモンドを、これまで誰も見たことはなかった。

画像4出典:TIFFANY&Co.

そのことからわかるように、ティファニーといえばダイヤモンド。

たとえば20歳の誕生日にティファニーのシルバーを手にしたら、それで満足するではなく、40歳の誕生日にはダイヤモンドを身につけてほしい。


〈ティファニーで朝食を〉の小説で、ホリーはこう言う。

「ダイヤモンドは好きだわ。でもね、40歳以下でダイヤモンドを身につけるのって野暮だし、40過ぎたってけっこうあぶういのよ。だってダイヤモンドが似合うのはきっちり歳をとった女の人だけなんですもの。しわがよって、骨ばって、白髪で…。そういう人にこそダイヤモンドが似合うのよ」

「ティファニーで朝食を」村上春樹訳

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