罰金1億3500万で人生オワタかと思ったら割と大丈夫だった話〜米国Streamlined Foreign Offshore Procedures体験記〜

私はアメリカで暮らしていた。いわゆる帰国子女というやつだ。
高校と大学をアメリカはNYで過ごし、就職するにあたって日本に戻ってきた。

そして永住権、いわゆるグリーンカードを持っていた。
なんか気付いたら親がゲットしていておこぼれで手に入れていた。
これがあると空港で入場する時にエイリアンではなく市民の方に並べる優れものだ。

ただ、私はこの永住権が持つ責任を知らなかった。
ざっくり結論から言うと、永住権を持っている者は他の国で暮らしていても毎年確定申告金融資産の報告(FBAR)必要なのだが、私は帰国して以来9年間やっていなかった。シンプルに知らなかった。だって大学卒業後すぐに日本に帰ったんだもの。

げに恐ろしきはそのペナルティである。FBARだけでも次のようなペナルティが科される。

$100,000 or 50% of the account’s maximum value at the time of the violation, whichever is higher, for each year a person didn’t file a required FBAR
必要なFBAR(外国銀行口座報告書)を提出しなかった各年について、違反時の口座の最大残高の50%または10万ドルのいずれか高い方の金額が罰金として科されます。

https://www.greenbacktaxservices.com/knowledge-center/fbar-penalties

残念ながら私はそんなにリッチではないので、科されるとしたら10万ドルの方である。それが9年分とすると90万ドル、大体1ドル150円とするなら1億3500万円である。

死んだ〜〜〜〜〜😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇

がしかし、私のようにそんな申告の義務を知らない人は数多く存在するためかちゃんと救済措置があった。

それが今回の話の主題であるStreamlined Foreign Offshore Proceduresである。

私は今年の春先にこの申告の義務を知り、絶望。そこからStreamlined Foreign Offshore Proceduresを申請し、先日還付金の小切手を無事受け取って担当の会計士からも「OKだったってことだな👍」とお墨付きをいただいた。

しかしこのStreamlined Foreign Offshore Procedures、いかんせん情報が出回っていない。会計事務所の解説記事はちらほらあったものの実際にやった事がある人の情報はほぼなかった。そもそもやる必要がある人がそんなに少ないというのもあると思うが、きっと未来に困る人も出るであろう、そんな人に向けて私はこの記事を書く。

適切な行動を取れば意外と怖くないし、出費もそこまで手痛くない感じで済むので落ち着いて進めて欲しい。
また、免責として私は米国税務のプロではないので、あくまで体験談として読みつつ、具体的な制度などについては必ず会計事務所などその道のプロとご相談いただきたい。
ただ、困ったり不安な場合にコメントやXの方でDMなどもお寄せください、お役立てる範囲で回答いたします。

申告の義務を知り、絶望

私は日本に帰ってきて以来アメリカと関わることはなく、9年間過ごしていた。そんな折に会社の仕事の関係でアメリカはラスベガスで開催されるイベントに行ける用事ができた。ウキウキである。ウキウキで飛行機とかホテルの予約した。

ただ、「グリーンカードは2年ほどアメリカに行っていないと失効する」という情報はなんとなく覚えていたので、入国する時に何か対応が必要ないかを調べ始めた。

またアメリカで住むことも無さそうな気がしていたのでこれを機に放棄をしっかりしといてさっぱりしとくか〜なんて最初は考えていた。

そんな放棄の手順について調べている内に次の記事を見つけた。
ざっくり重要なところを引用する。

■世界中どこに住んでいてもアメリカで確定申告が必要!
グリーンカードを保有している方が半年に1度アメリカに入国しなければ米国への再入国が認められない可能性があるということはある程度周知されていると思います。しかし、米国市民権又はグリーンカードを保有している限り世界中のどこに住んでいようと、毎年必ずアメリカでタックスリターン(確定申告)を行わなければならないことは知らない人も多いのではないでしょうか。

へ?

そして私を震えさせたこの情報である。

■世にも恐ろしいFBAR(国外金融資産報告)ペナルティー
米国外に金融資産(預金、株式、保険等)が$10,000以上ある方は、タックスリターンと合わせてアメリカ財務省に対してFBARと呼ばれる金融資産報告をしなければなりません。こちらは報告義務であり、資産を保有していること自体で課税を受けることはありませんが、恐ろしいのは申告をしなかったときのペナルティーです。通常、税務申告にかかるペナルティーは未納税金額に対して一定の割合で算出されます。しかし、このFBARに関しては未納税額は存在せず、最大で資産額の50%がペナルティーとして徴収されます。つまり、仮に10億円の資産を国外に保有していてそれを故意に申告しなかった場合、5億円もの罰金が徴収される可能性があるということで、極めて恐ろしい制度と言えるでしょう。

あばばばばばばばばばばばばばばばばばばば
一年あたり$100,000!!!???

ちなみにこれを学んだ時に妻に送ったLINEがこちら。今振り返ると大袈裟で、世界は思ってるより公正だったのだが、いきなり多額のペナルティの可能性を知ったらこう焦るのも無理もない。

妻とのLINE

だがしかし、記事にはちゃんと救済措置についてもちゃんと説明があった。

■Streamlined Procedures – タックスリターン義務を知らなかった人を救う救済制度

国は税金の徴収漏れが起きないよう細心の注意を払って複雑な税制を整えておりますが、アメリカ合衆国も冷酷非情というわけではありません。そのため、故意に脱税、資産隠蔽をしようとする者に対しては厳しいペナルティーを科しておりますが、知識を持ち合わせていないだけの善意の市民に対しては多少の寛容な制度を敷いております。そのひとつが、Streamlined Proceduresです。

Streamlined Proceduresとは、簡潔に説明すると、直近3年分(申告期限がすぎているもの)のタックスリターン及び直近6年分のFBARの申告を同時に行うことで、それ以前のタックスリターンの申告並びに、タックスリターン及びFBARのペナルティーの免除を受けられる制度です。もちろん、直近3年分のタックスリターンを作成した結果、納税が発生する場合には当該納税金額及びそれに対する利息を支払う必要はありますが、特にFBARのペナルティーを正式に免れることができるという点において非常に納税者を安心させてくれる制度です。

ありがとう、ありがとう…。

この制度に託すしかない且つ、なんか複雑そうで自力でやるのは怖いので、助けてくれる会計事務所を探すのであった。

会計事務所への依頼が高過ぎて($25,000)、絶望

という訳でまずは日本語で話せる会計事務所でこのStreamlined Foreign Offshore Proceduresをやってくれるところを探した。

いくつか見つかったが、まず最初の面談を申し込むだけでもめっちゃ高い。大体$200くらいかかる。
そんな中、良質な記事もたくさん出している且つ、最初の面談は無料で受けてくれる事務所を見つけたのでまずはそこに申し込んでみた。

アメリカに構えている事務所なので、面談の時間は深夜3時からで辛みがあったが、焦りに焦った私としてはもはや何時からでもいいので早く話したかった。

面談したところとても親身に色々教えてくれた。

  • 移民法と税法は違うし、入国する際にグリーンカードの放棄を迫られても断ることができる。

  • 放棄する際には過去5年分の確定申告をしていないと出国税がかかるため今すぐには放棄しない方がいい

などなど。実際のリスク度合いやどう対処していけばいいかを学べて、不安がとても和らいでいった。だが、最後に「この申請をお願いする場合どのくらい費用がかかりますか?」と聞いたところその和らいでいった気持ちは一気に吹き飛んだ。

「大変そうだし急な痛い出費だし3-40万かかるのは覚悟するか〜〜〜」と思っていたところに告げられた金額は

$25,000

1ドル150円で計算するならおよそ375万円である。うそ〜ん。
想像を遥かに超える金額で失礼ながら面談中に放心してしまった。

ただ後々すぐ分かる話ではあるが、この会計事務所はちょっと高級というか実績豊富なため値段が高いところであった。また主に法人向けで個人向けの案件を携わっていなかったというのもある。
私の面談をしてくださった方も、私のような何も知らなかった方を救済する措置なのに、プログラムの費用が高過ぎて手伝えず非常に歯がゆいと仰っていた。

あまりの値段の衝撃と、客にならないだろうなと知りつつ親身にご対応いただいた会計士の方の温かみへの感謝が混ざり、涙が流れつつもその日は床に着いた。

監査法人の会計士の方に相談

さすがに我が財力では払えなかったので他の安くやってくれる事務所を探すことにした。

迷惑かかるとアレなので少々ぼやかすが、知人に相談したところ、監査法人で会計士をされていて今も米国に住んでいる方と相談する機会を頂けた。感謝である。

その方は当然書類準備などのお引き受けとかはできないのだが以下のような情報を教えてくれた

  • こういうのは富裕層をターゲットにしたものなので過度に心配する必要はない。IRS(アメリカの国税局)もIppeiみたいな大物で忙しい

  • Streamlined Procedureは陳述書などの追加の書類もあるため、しれっと確定申告をやり始めて5年間無事やり通す人や、もうずっと無視しちゃう人もいる

総じて心配し過ぎなので、しれっと確定申告始めちゃば〜という感じであったのだが、小心者の私としては、免除される正規の道があるのであればしっかりそれをやりたかった。
小心者は世の中で誠実とされる価値規範で生きることが最適な戦略なのである。

また、グリーンカード放棄を念頭にする場合、Streamlined Procedureでは出国税回避の条件である5年分の確定申告の内、3年分の申告が一気にできるというメリットもあった。

大手?海外在住者向け確定申告サイトTFX

日本人がやるところは大体高い、という結論に至った私は現地の会計事務所でStreamlined Procedureを手伝ってくれるところを探した。

ググっていただけると分かると思うが、結構リスティング広告いっぱい出てくる。

そんな中私が最終的に選んだのがこちらのTFX(Tax for Expats)である。

Streamlined Procedure用のパッケージを用意してあり$1,300でやってくれる。(実際にはもう少し増えて$2,100かかった)

決め手としてはめちゃくちゃクオリティの高いUIである。下記のように年毎に必要な項目を入力していくと書類作成が終わり、且つ複数年度入力していく時に他の年で入力した内容をインポートできたりする。
あとアプリもある。意外と会計士の人と往復で会話するので便利である。

実際にファイルを作成し終わって先方にレビュー依頼するまではお金がかからないので、とりあえず作り始めてみたのだが、書類作成時のコストが大分低くなることを実感したため、そのままこちらに依頼しようと決めた。

直球でアフィリエイトをするのだが、紹介するといくらかもらえるらしいので、もし登録する場合はぜひ下記リンクから登録してほしい。

過去6年分の金融資産調べるのめんどくさ過ぎて、絶望

決めたところで後は入力するだけである。
そしてここで非常にめんどくさかったのが資料の準備である。

他にも細かいものは色々ありつつも、用意したのは以下だ。

  • 過去3年分(2020-2022)の確定申告、源泉徴収票

  • 過去6年分(2017-2022)の各金融資産残高

一つ目はまあ大体手元にファイルが残っていたりするし、税務署にe-taxからお問い合わせすれば数日後には用意してくれるのでそこまで問題ではない。

問題は後者の過去6年分の各金融資産残高であった。

これは何かというと、私は3つの銀行口座と投資口座を持っていたのだが、それぞれに対して各年で一番高かった時点での残高を記載する必要があるのだ。
ここ数年分であれば銀行のアプリから入出履歴を見ればすぐ分かるのだが、例えば私の場合三井住友銀行は2021年からしか見られないし、みずほ銀行も2019年からしか見られなかった。

がしかし、なんと今回は2017年まで遡らないといけない。

最初は「通帳入れたら記載してもらえるんじゃね?」と思い、そそくさとATMに赴き通帳を入れてみたが、上記の年度の時点で合算されてしまった。余計な情報を載せすぎない親切設計だが今回は困る。

そんな過去の詳細な履歴を見るには何が必要だったかと言うと、それぞれの銀行に直接連絡して通帳未記載分の履歴を送ってもらうことだった。

例えば三井住友銀行では次のような制度で過去の明細を出してくれる。

預金入出金取引証明は、以下の手数料がかかります。
(5年以内の期間分) 明細1年分につき1,100円。
(5年超の期間分)5年分の手数料5,500円に加えて、5年を越える明細1ヶ月分につき550円。

実際には2000円くらいで済んだ記憶があるのだが、こういったものを送っていただくために、まずは近場の支店に赴き手続きをする。
みずほ銀行は電話からでもOKだったりしたが、人によってはもっと色んな口座で取り寄せないといけないかもしれない。グッドラック。

一番めんどくさかったのは上述したような情報を揃えるところまでで、入力はTFXのシステムのおかげでそこまで疲れず終えることができた。時

ちなみにめんどくさいと言われていたStreamlined Procedureの陳述書だが、私の場合は主に

  • 高校生の時にグリーンカードを手に入れて、大学を卒業後はすぐに日本に帰ったので米国で確定申告は一切したことがなかったこと

  • 各金融資産口座の開設経緯

などを説明しただけでそこまで大変ではなかった。TFXの人がいくつか質問をしてきたので、上記のような内容を回答したら陳述書が生まれていた。

入力した後はお金をクレカで支払って書類作成を依頼し、会計士の方に伝えられた修正点に回答を何度かすると数週間後には最終的な書類が出来上がった。

最後のハードル、物理郵送

通常の確定申告などはe-file、オンラインでファイルできるみたいなのだが、Streamlined Procedureは物理で送らないといけない。

ざっくりは過去3年分の確定申告書類(一年あたり30ページくらい)やStreamlined Procedureの陳述書など諸々含めて大体100ページくらい印刷することになる。
家にプリンターがないのでコンビニでめっちゃ刷った。地味に2000円くらいかかった。

そして、最後にデカい封筒に詰めて、郵便局でIRSに向けてエアメールを送って完了である。
結局最初に申告の義務を知ってから3ヶ月くらいかかった。長い戦いであった。

希望の小切手

それからはもうすっかりこの申告については忘れて過ごしていた。
TFXでは「Streamdlined Procedure は受理の通知などはなく、返事がないのが良い便り。ただ大体2ヶ月くらい経って何も音沙汰なければ問題なく受理された可能性が高い」のような感じで説明されていた。

しかし、送付してから3ヶ月ほど経った9月末、IRSからエアメールが届いた。
「え、なんかやらかしちゃいました…?」とドキドキで開封したところ、そこには小切手が入っていた。

実は申告は基本的に還付金も納付する必要もなかったのだが、2021年だけコロナの給付金?か何かで還付金が発生していたのだ。
還付金ももちろん嬉しいのだが、これが届いたということはStreamlined Procedureが問題なく終わった…ってコト!?というのが何より嬉しかった。

TFXの人にも伝えたところ、そう解釈して問題ないとのことだった。

初めはかなりビビってしまったが、実際のところは着々と書類を揃えて入力し、少し手痛いもののいくばくかの手数料($2100で大体30万円くらい)を払うのみで済んだ。
もし私と同様に後からこの申告の義務に気付いた人がいた場合、あなたが富裕層であればまた別かもしれないが、多くの場合そこまで大変なことにはならないので落ち着いて対処していって欲しい。

以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。

〜完〜


…としたいところだが実はまだ終わっていない。
先日小切手の換金をしに三井住友銀行の支店に行った。下記のページで対応していると書いてあったからだ。

しかし、実際に行ってみると「すみません、もう対応していないんですよ〜」と言われてしまった。え〜〜〜?

よく見ると上記は三井住友銀行ではなくSMBC信託銀行で同じ三井住友でも別の存在だった。

なんでも海外の小切手はマネーロンダリング対策か何かで国内で換金する手段は限られているらしい。ので方法が分からず小切手はまだ小切手のままである。

ちょっと20万円相当のものをそのまま失うのは忍びない、誰か換金方法教えて!!

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