ABSとLAS

アンチロックブレーキのABSではありません。かつて、日本中の河川が泡だらけになった時期が有りました。この原因は、このABS(=分枝鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)という石鹸より強力な汚れ落とし機能を持つ化学物質が原因でした。

今では、スティック1本とかボール1個なんて小さく手軽な洗濯用洗剤ですが、以前は新聞の四つ折りより大きなサイズの厚めの箱に、どっさりと粉石鹸が入っており、カップで2杯洗剤を入れると、良く落ちるということで、この粉石鹸が発売されると、スーパーの洗濯コーナーはこの大型の洗剤の箱で埋め尽くされました。

その主成分であるABSは、そこそこの毒性を持っており、河川に流入すると生態系に大きな影響を及ぼすことが今は分かっていますが、この洗剤が発売された当時はそんなことはお構いなしに、メーカー入り乱れての商品棚陣取り合戦が繰り広げられました。一つの商品が大きいというより「でかい」ですから、そこにン十箱も重ねて陳列すれば、その視覚効果や絶大でした。

しかし、その後、この大量に消費されるABSのせいで、河川の汚れが深刻化してきます。特にその泡が問題でした。今は、洗剤は消泡にも気を配って設計されていますが、ABSの頃はそこまでの気配りはどこのメーカーも持っていませんでした。
ABSはすすぎで衣類からは離れていますが、性質そのものは変わりませんので、河川で激しい流れや曝気の盛んな場所では、再び猛烈な泡を発生させ、これが原因で富リン化も進みました。

この現象によって、特定の植物だけが猛烈に繁殖して、生態系を破壊してしまうのです。最初の頃は目をつむっていたお役人も、さすがに公害として騒がれ始めると、思い神輿を上げざるを得なくなり、ついには洗剤の改革にまでその矛先が向けられました。

こうなると「はしっこい」のはメーカーです。ABSの親せきの様な成分でありながら、毒性が弱められたLASを開発して投入してきました。双方に共通の「S」はスルフォン酸の略ですから、非常に近い構造だということが分かりますね。

でも、化学式に詳しい人なら一発で分かるでしょうが、一つの枝分かれの方向一つで性質ががらりと変わるのも、また、化学物質の最たる特徴です。この特徴をしっかりと技術でコントロールすることができれば、公害には発展しなかったはずなんですが、そこは資本主義で、儲けなかったらなんぼの世界です。ごうつく爺の欲望のために、一時期我々は滅ばされるかもしれなかったんです。


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