★劇評★【舞台=シラノ・ド・ベルジュラック(2018)】

 剣豪であり詩人でもある男の不器用な愛をハイテンポな物語展開とロマンチシズムあふれる味付けで描いた「活劇」として知られる「シラノ・ド・ベルジュラック」の物語。この作品にあまた仕掛けられたエンターテインメントの宝ものを一つずつさらに磨き上げ、そして微に入り細に入りせりふの力を鍛え直して、戯曲としての強靭な姿をあらためて私たちの前に示してくれたのが、東宝・ホリプロ企画制作の舞台「シラノ・ド・ベルジュラック」だ。シェイクスピア劇の権化として君臨してきた吉田鋼太郎がシラノのせりふに込められた言葉の魅力をたっぷりと味合わせてくれるこの作品は、詩へのこだわりがオタクレベルのお嬢さまロクサーヌを茶目っ気たっぷりに演じる黒木瞳と、純粋さが国宝級のクリスチャンを演じる大野拓朗・白洲迅の奮闘によって、ますますその面白さを増した、今までに見たことがないシラノに仕上がっている。ミュージカルではないのに、心が激しく跳ねたり、優しく撫でられたりするのは、ところどころに挟み込まれるピアニスト清塚信也の即興性にあふれたピアノ演奏と朝里奈津美の当意即妙のパーカッションが俳優たちの変幻自在の演技と織りなす相乗効果の賜物だろう。演出は鈴木裕美。
 舞台「シラノ・ド・ベルジュラック」は5月15~30日に東京・日比谷の日生劇場で、6月8~10日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される。

★舞台「シラノ・ド・ベルジュラック」公式サイト
http://www.tohostage.com/cyrano/

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