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【追悼=上原正三 ウルトラマンシリーズなどのシナリオ執筆、屈指の名作「怪獣使いと少年」生む(2020)】

 異端者への差別と人間に絶望するウルトラマン-。子ども向けだった怪獣・特撮ものに社会的な視点や問題意識を鋭く刻み付けたウルトラマン史上屈指の名作として知られる「怪獣使いと少年」(「帰ってきたウルトラマン」第33話)など「ウルトラセブン」や「怪奇大作戦」、ウルトラマンシリーズなどのシナリオを担当したシナリオライターの上原正三が1月2日に82歳で亡くなった。悲惨な戦争を体験し、戦後も政府の欺瞞に満ちた政策と本土の市民の無関心に悩まされてきた沖縄の反骨のこころを持った上原には至極当然な社会的要素も、平和と経済的繁栄に浮かれた1970年代の日本人には「過激」と映ったようで制作現場から外されることもあったが、その作品群は後年高く評価されており、今日の日本のアニメーションや戦隊ヒーローものがただ夢を語ったり勧善懲悪を貫くだけでなく、鋭い社会性を持つに至ったことに大きな影響を与えた先駆者の一人として位置付けられる存在だ。その損失はあまりにも大きい。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも読めます(劇評など一部のコンテンツは有料ですが、追悼記事はいまのところ無料です)

 1937年生まれ、沖縄県那覇市出身。台湾や九州で疎開した後、戦後沖縄に戻り、東京の中央大に進学した。高校時代から好きだった映画に夢中になったが、病気の療養のため沖縄に一時帰郷。その際に紹介された金城哲夫が後に円谷プロダクションに入社し、誘われて上原も手伝うようになった。
 その後上原も正式に入社し、シナリオライターとして「ウルトラQ」などを担当。「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」でも活躍した。
 1969年にはフリーとなり、「秘密戦隊ゴレンジャー」をヒットに導いた。

 1971年に放送された「帰ってきたウルトラマン」の第33話「怪獣使いと少年」では、宇宙人かもしれないおじさんを行方不明の父のように慕っている少年の良が、子どもたちや町の人々からいじめられるエピソードを中心に構成。良を襲おうとした怪獣を地底に閉じ込めていたおじさんを市民らが攻撃したために怪獣が復活し、人間たちの愚かさに絶望して一時は地球の人類を救うことをやめようとしていたウルトラマンが苦渋の決断を下して怪獣と闘うという怪獣ドラマ史上ほとんど例を見ない展開を創り出した。
 放送にはこぎつけたものの、当時の放送局上層部が激怒し、監督と上原は制作現場から事実上追放された。しかし、差別やいじめが蔓延していた大阪万博直後の日本の社会を鋭く切り取った名作としてウルトラマンシリーズ全編の中では今も語り継がれる作品のひとつとなっており、後進のクリエイターからも大きな尊敬を集める作品になっている。

 2017年には小説「キジムナーkids」を発表。沖縄戦で傷ついた子どもたちが戦後たくましく成長していく姿を生き生きと描き岡山市主催の坪田譲治賞を受賞した。

 報道によると、近年は体調を崩して自宅で療養を続けていたという。

 ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 なお、阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」では金城哲夫を主人公に劇団民藝が舞台化した「光の国から僕らのために―金城哲夫伝―」の2016年初演の劇評を掲載しています。上原正三さんも登場するこの作品を読んでいただき、上原さんや金城さんが活躍した時代に思いをはせてください。

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」舞台「光の国から僕らのために ―金城哲夫伝―」(2016)」劇評=2016.02.20投稿

★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」【Topics】 劇団民藝がウルトラシリーズ脚本家の半生を舞台化(2016)ニュース&稽古場だより=2016.01.28投稿


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