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<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

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阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に… もっと詳しく
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#濱田めぐみ

異常な出来事に人間が本来持っている可能性や優しさで向き合った人々の姿を通じて絆の本質をえぐり出したミュージカル。トップ俳優たちが「全員が主人公」の物語を演じ、演劇というものの新しい可能性さえたぐりよせた…★劇評★【ミュージカル=カム フロム アウェイ(2024)】

 「9.11」。この数字の羅列、あるいは日付が特別な意味を持つようになったのは、あらためて説明するまでもなく米国東部時間2001年9月11日朝(日本時間11日夜)に起きた米中枢同時多発テロからである。主な標的となったニューヨークのワールド・トレード・センターやワシントンの国防総省ペンタゴンのほか、世界中の様々な場所での、それぞれの人の「9.11」があったはずだ。テロの手段として旅客機が使用されるという特殊性から、さらなる被害を防ぐため、テロの直後から領空が閉鎖された北米地区で

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異国の人々とのたった一晩の出会いと別れ。私たちはほんの少しだけきのうとは違う場所にいるはずだ…★劇評★【ミュージカル=バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊(2023)】

 初めて行く土地で、行き先を間違え、最後のバス。しかも団体で迷子になってしまった外国からの音楽隊には今晩泊まる場所さえない。2007年に公開され話題を呼んだ映画『迷子の警察音楽隊(原題The Band’s Visit)』)を原作に2016年にオフ・ブロードウェイで舞台化され、ブロードウェイに進出した後の2018年のトニー賞では作品賞など10部門を制覇したミュージカル「バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊」が日本人キャストで初めて上演された。異なる文化の違和感満載の接触と融合は

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互いに共鳴し合う有機的なつながり。記憶をめぐって描き出される生命感にあふれた世界の響き…★劇評★【ミュージカル=COLOR(2022)】

 劇中のすべてのせりふが音楽が、そしてすべての要素が、互いに共鳴し合って、有機的なつながりを創り上げている-。そんな不思議な感覚を味わわせてくれる新作ミュージカルが誕生した。ミュージカル「COLOR」は、草木染作家の坪倉優介さんが、芸術大学で学んでいたころに遭遇したオートバイの事故で記憶喪失に陥った経験から導き出された、記憶といのちの物語。記憶を失うとはどういうことなのか、記憶のない状態は「無」なのか、記憶を失った状態から何かを生み出せるのか。舞台上には坪倉さんが乗り越えた、

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メリー・ポピンズは人生の楽しみ方、歓びの感じ方の先生。決して見たことのないところへ連れて行ってくれる…★劇評★【ミュージカル=メリー・ポピンズ(濱田めぐみ・大貫勇輔・山路和弘・木村花代・鈴木ほのか・ブラザートム・浦嶋りんこ・内藤大希・大廣アンナ・中込佑協出演回)(2022)】

 メリー・ポピンズは子守や家庭教師という肩書はついていて、服装もオーソドックスな家庭教師の姿をしているが、彼女は勉強そのものを子どもたちに教えて、しつけをするというよりは、どちらかというと生き方の師であり、人生の楽しみ方、歓びの感じ方の先生なのだ。ミュージカル「メリー・ポピンズ」を観ているとそのことがよく分かる。子どもながらにこじれてしまった毎日やよどんでしまった親との関係に突破口を開いたり、日々の生活に色彩や躍動感を失ってしまった町の人々にときめきを取り戻したり、例えメリー

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子どもたちの小気味の良いダンスや歌の躍動感と、実力派の役者たちの演技が表現する物語軸の確かさが組み合わさり、観る者を圧倒する作品に…★劇評★【ミュージカル=オリバー!(武田真治・ソニン・原慎一郎・小浦一優・鈴木壮麻・浦嶋りんこ・北村岳子・目黒祐樹・越永健太郎・大矢臣出演回)(2021)】

 一人の少年の波乱万丈の日々を通して、英国の階級社会を上から下まで串刺しにしたようなチャールズ・ディケンズの出世作「オリバー・ツイスト」の1960年初演のミュージカル化作品を「レ・ミゼラブル」や「オペラ座の怪人」で知られるキャメロン・マッキントッシュが1977年に生まれ変わらせてリバイバルヒットしたミュージカル「オリバー!」の最新演出版の世界初演がいま日本で上演されていることをご存じだろうか。複雑に入り組んだディケンズの物語の要素をマッキントッシュが得意とする繊細なタッチとい

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「社会」そのものを謳い上げる壮大なミュージカル、多彩な人生と呼応して奏でる大交響曲だ…★劇評★【ミュージカル=レ・ミゼラブル(2021)】

 「レ・ミゼラブル」は社会そのものである。罪と罰の考え方や、正義への思い、格差社会の中での不平等、恋愛など個々の多彩な人生をそれぞれに謳い上げ、積み上げた総体が物語としてもミュージカルとしても大きな社会をかたちづくっていて、それがスケールの大きなテーマと呼応し合って大交響曲を奏でているのだ。一見いびつなパーツを組み合わせているのに、私たちの前に立ち現れるのは壮麗な大聖堂のような美しい建物。時の施政者や権力者にどんな思惑があろうと、ひとりひとりの思いがやがて社会を動かしていくよ

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夢幻のベールに包まれながら、登場人物や私たちが「オペラ座」から続けてきた長い旅路の終着駅に連れていってくれる…★劇評★【ミュージカル=ラブ・ネバー・ダイ 石丸幹二・平原綾香・咲妃みゆ・香寿たつき・小野田龍之介出演回(2019)】

 ミュージカルとして知られる「オペラ座の怪人」の原作はガストン・ルルーの同名小説だが、ミュージカル化の立役者で作曲家のアンドリュー・ロイド=ウェバーがミュージカル化した完全オリジナルの正統的続編が「ラブ・ネバー・ダイ」。ホリプロが日本人キャストで初演した2014年から5年ぶりに再演が行われ、連日盛況が続いている。しかしなんとも興奮するキャスティングが実現したものだ。主人公のファントム役には「オペラ座の怪人」日本人キャスト版を日本初演した際にファントムを演じた市村正親と、ラウル

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複雑に組み合わされたその運命から聞こえてくるのは、極めてシンプルなもの…★劇評★【ミュージカル=レ・ミゼラブル(吉原光夫・伊礼彼方・濱田めぐみ・唯月ふうか・三浦宏規・生田絵梨花・斎藤司・森公美子・相葉裕樹出演回)(2019)】

 運命という言葉があるが、ある一人の人間のことだけを考えるのであれば、それは大いなるうねりを持ったひとつの物語だ。しかしある瞬間に同時に生きている人すべての運命がジグソーパズルのようにぴたりとはまっているのだということを考えると、物語などという暢気なことを言っていられなくなるほど、事は壮大で重大だ。私は神を信じないし、せいぜい「(科学的な)宇宙の論理」を信じる程度だが、19世紀の最重要な小説家、ヴィクトル・ユゴーは、欧米人やキリスト教徒が言うところのそうした「神の摂理(あるい

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優しさを持ち寄った結晶体のように美しく輝く作品に仕上がっていた…★劇評★【ミュージカル=シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ(吉野圭吾・濱田めぐみ出演回)(2020)】

 わたしたち人間と宇宙が相互につながっている感覚。それはSFでもファンタジーでもなく、当たり前すぎる現実的な感覚だ。だから人の人生もまた宇宙という苗床の上に育つひとつの命。言葉や共通原理が違っても、生きるということに前向きになる気持ちに違いはないはずだ。音楽座ミュージカルがオリジナルミュージカルとして長らく演じ継いで来たミュージカル「シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ」は、運命にもみくちゃにされても、そんな優しさにあふれた物語の大地に抱かれながら、あくまでも幸せを追求す

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