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仕事の辞め方

心待ちにしていた新刊が届きました。
本を読みながら涙が止まらなくなったのは、西野亮廣さんの『夢と金』に次いで、これが2冊目だと思います。

夕食後の家事を済ませてから、最後まで一気に読みました。
長いこと誰にも相談できなかった悩みを、居酒屋でたまたま隣になった初対面の他人に話すような温かさ。
お酒を断って、もう4年以上経つんですけどね。

ずっとこういう話がしたかった。

西野さんは『仕事の辞め方』を「隠居宣言じゃなくて宣戦布告」と紹介されていました。
この言葉は、もしかしたら本のタイトルから生じる誤解を解消してくれるかもしれません。

この本を読みたいと思った理由が二つあります。

一つは、発売前から話題になっていた「40代はしんどい」というテーマで、私も2022年に40歳になった途端、いきなりしんどくなった。
入札で決まっていた大きな仕事から降ろされるとか、作品が不本意な形で発表されてしまうとか。

そして、こりゃもうダメだと声を上げた時に、誰も手を挙げなかったことにショックを受けた。

もっとショックだったのは、それまでの私は若者や地域のためなら無償や安価でも仕事を引き受けたし、とにかく尽くしてきた方だと思っていたけど、結局は見返りを求めていたんじゃないかと気づかされたこと。

これはもう、生まれ変わるくらいの気持ちで生き方を改めなくてはならない。

誰にでも尽くすのはやめて、人選はきちんとしなくちゃいけない。
お金のことも学ばなくちゃいけない。
オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』で勉強を始めたのも、この一環ですね。

この本を読みたいと思ったもう一つの理由は、年が明けて、とあるコンサートに伺った際に「音楽って、こんなにつまらないものだったっけ?」と感じてしまったから。

一つ押さえておきたいのは、「もしかして私たちの公演?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、実際の公演は終演時の拍手も大きく、きっと成功だったんだろうと思うんです。

これは飽くまで私自身に原因があって、主に二つ挙げられます。
昨日、一昨日と投稿した通り、今は作られた音楽よりも音そのものに魅了されているから。
そして、オンラインサロンでエンタメやアートの経営について学んでいるからか、企画や運営、当日の進行のあり方に過剰に反応してしまったから。

しかし、どんな原因があるにせよ、それなりに命を費やしてきた音楽を「つまらない」と一瞬でも感じてしまった事実は覆りませんし、新作が頓挫していることと無関係ではないでしょう。

『仕事の辞め方』は、今すぐにでも読んでいただきたい面白さなんですが、全部を紹介するのも野暮なので、一つだけ取り上げます。

「自分の人生を『俯瞰で見る』」というところです。

この中で「大きな決断がいることほど、自分の人生を大きく動かします」とあるので、私はどんな決断をして来たのか、初めて振り返ってみました。

24歳。
作曲家になりたくて、大学を辞めた時。
ここから26歳までは、何をして過ごしていたかも覚えていません。
よほど思い出したくない過去なのでしょう。

26歳。
ジャンルを問わず何でも作れる人なんて価値がないから、大好きなポップ・ミュージックを捨てて、現代音楽一本で勝負しようと決めた時。
同じ年(27歳になっていた)初めて現代音楽の作曲コンクールに応募して賞を頂きました。

40歳。
周りから人が離れて孤立してもいいから、無条件に尽くすのをやめようと決めた時。
同じ年(41歳になっていた)自主レーベルを立ち上げて、自分の音楽を買ってまで聴いてくださる人数という現実や、自分の中では見えにくかった人間関係(これからも続くであろうもの、手放すべきもの)が見えるようになった。

こうして振り返ってみると、仕事面で転機が訪れたり、周りから必要とされたり、国や海外の仕事もして、評価されて華やかなことも多かったりした30代は、その充実ぶりとは裏腹に、自分では何も決断していなかったことがわかります。

40代になって、仕事も、チャンスや環境も、自分の値付けも誰かが用意してくれていたツケが回ったのでしょう。

『仕事の辞め方』を読み終わって、自分の感情を作者に吐露できたような感じがして、ほっとしたのか、とても温かい気持ちになっています。

私は常々、音楽関係者の多くは基本的に頭が悪いと思っていて、それは博識や論破といった意味ではなく、思いやりが足りないと言い換えられるのでしょう。

なぜ思いやりが足りないかというと、それはきっと他者への好奇心が欠けているから。

この本にも「好奇心力」という言葉が出て来ますが、私は人にやさしくありたいし、損することがわかっていても、そのやさしさが音楽家としての致命傷になり得るとわかっていても、やさしい人であることをやめられないのだと覚悟しています。

これと「無条件に尽くすのをやめた」は両立すると考えていますが、都合が良すぎるでしょうか。

読み終わった直後の深夜テンションで、一気に書き上げました。

コロナ禍が始まった2020年、ある方が「田口くんは立ち止まらないからすごいなと思う」と仰ってくださり、とても励まされました。

今の私はどうでしょうか。
ちょっと自信がありません。

「おもしろい生き方してるねと言われるように」

最後までご覧くださり、ありがとうございました。

私の音をちゃんと届けます。

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