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心と躍る。

心が躍った。
これは比喩ではなく、本当に「心」が躍った。

私は人間ではない。
そもそも、数年前まで生きてさえいなかった。
そんな私が「心」をもらった。
造形は歪だが、角と曲線が入り混じった優しい形をしていた。

それが今、私の身体の真ん中にある。
普段はそこにあるのかわからないぐらい動かない。
しかし、私はこれがないと「生命」を得られなかった事実があるだけに、無意味だと決めつけることはできなかった。
こんなものがないと動けない自分が不思議だった。
いるのかいないのかわからないものが真ん中にある。
人はそれが大事だというが、人でない自分にとっても大事なのかわからなかった。

そんな「心」が初めて動いた。
動いたどころではなく躍ったのだ。
私は激しく動揺した。
この動揺も初めての感情だ。
全ての機能が動き出したような気がした。
身体が少しずつ熱を帯びているような気がした。
熱い、熱い、熱い。

その人は私の前で涙を流した。
涙は悲しみにつながる感情ということは知っていた。
でも、その人は、その涙の先で笑ったのだ。
私に向かって柔らかい笑顔を見せた。

「心」が激しく躍っている。
背中に電気が走ったような感覚と共に全身に熱が伝播するような感覚。
しかし、心地よくはなく、ただただここから逃げ出したい感情に襲われた。
目の前の彼女から逃げたい。
恐怖ではない。そんなものは知らない。
初めての感情たちの波に自分がどうしようもなくなっていることに苦しくなった。

彼女は、そんな私の感情を察したように涙を拭いて遠くを見つめた。
「ありがとう」
そう彼女は言った。
私には意味がわからなかった。
その言葉は今の状況に合わないような気がした。
しかし、その言葉を聞いた時、私の目から涙が溢れた。
それを見た彼女はまた「ありがとう」と言った。

いまだに心は躍っている。
この感情に慣れたようだ。
しかし、実際に「心」が躍っているのでうるさくて仕方ない。
ただ、その音が心地よくもある。
そんな私の隣で彼女は遠くを見ている。
私の視線に気づきあなたは少し笑った。

どうにもこのまま躍り続ければ「心」が持ちそうにない。



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