【雄手舟瑞#32-インド編】カトマンズからデリーへ(8/26-29)

カトマンズのバス停からインドはゴーラクプールに向けてバスが出発した。窓の外で手を振ってくれていたチカブンが見えなくなる。僕は一人旅に戻った。

カトマンズの闇夜の中をバスが静かに進む。バスの揺れに身を任せ、僕はボーッと窓から外を見ていた。

チカブンとデリーで出会ってから3週間弱。デリーでの脱出失敗、ブジでの皆既日食、ワラナシでの沐浴、そして何十時間もの列車やバスでの大移動。この短い期間にトラブル、神秘、病気を経験してきた。ぎゅっと凝縮された時間。

僕は車窓から暗くて何も見えない外をずっと眺めている。眠りに落ちて目が覚めてはまた外を眺める。

ネパールとインドの国境スノウリに着く。入国時と同じパスポートのページに出国スタンプが押される。行きの時の反対。もう慣れた感じで無意識に歩いて国境を越え、ゴーラクプール行きのバスに乗り込む。ゴーラクプールからはデリー行きの列車が出ている。

3時間と経たずゴーラクプールに着く。宿を探し一泊し、翌日の夕方の列車を待つ。インドに来て1ヶ月、自分一人で宿探しをするのはこれが初めてなのかと気づく。しかし、もう慣れたものだ。

列車は夕方18:44に出発した。約13時間の列車一人旅。デリーに着いたらあのツーリストオフィスの様子を見に行こう。デリーの観光もしてなかったな。「歩き方」を開き、帰国便まで4日間の予定を思ってみる。

僕の席の周りにはほとんど人が乗っていなかった。外はまた暗くなっていった。列車の走る音以外、何も聞こえない。

「歩き方」を閉じて、また外を眺める。流れる景色の中で何か大きなものが横たわっているのが見える。何だろう、と思ってよく見てみると横転した列車がそのままの状態で放置されていた。

インドらしい風景に微笑みながら旅の終わりを感じている。カトマンズを経ってから周りはずっと静かである。

夜10時。久しぶりに強行スケジュールじゃなく、ゆっくり寝たので眠くない。真っ暗で何も見えない外を眺める。ずっと眺めていられる。

急に雨が降ってきた。窓の外には雨の線が無数に見える。いや雪?

違う。

それは雨でも雪でもなく、無数の蛍だった。

白い光の中を進む列車。

それは完全に不意打ちだった。夢か現実か自信が持てないくらい幻想的な光景。

どの場所だったのか。夢だったのか。具体的なことは何も分からない。でも、しっかりと記憶に残っている。

30分くらい続いたと思う。そして、また外は真っ暗になった。

朝8時。この旅が始まった場所デリーに戻った。

(つづく)
※次回は明後日掲載予定

<次の話>

<前の話>

<第一話>

<その他のマガジン>


こんにちは