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【雄手舟瑞物語#30-インド編】ワラナシからカトマンズ(後編,8/21-22)

川が増水してバスが渡れない!?

なんてことだ。鎮痛剤を飲んで熱は少し落ち着いてきたものの、少し体勢を変えるだけで胃に激痛か走る謎の腹痛で辛い。

運転手や欧米系バックパッカーたちはバスを降りて、川の様子を見に行く。

普段この川は川というより、チョロチョロと水が流れる小川程度だと言う。

彼らが現場を見に行って10分、20分経っただろうか。なかなか戻ってこない。どうなるんだろうと思った頃、何人かが戻ってきた。車内に残ってた乗客が聞くと、

「渡ってみるぜ」...らしい。どうやってか??

次にようにしてだ。

まず、ここで立ち往生しているバスは3台だ。
①1台目の乗客を全員下ろし残りのバスに乗せる。
②1台目と2台目の後部に牽引用ワイヤを付ける。
③1台目はがんばって川を渡る。
④2台目は1台目に牽引してもらい川を渡る。
⑤3台目は2台目に牽引してもらい川を渡る。

できるのか。とにかく1台目が勝負だ。

続々と1台目に乗っていた乗客ーこちらはほとんど現地の人ーが乗り込んできた。席は一杯だし、川がどのくらい深いか分からない。彼らや元の乗客は何とバスの屋根に登り始める。

た、楽しそう… 僕も混ざりたかったが、流石にこの体調なのでやめておいた。チカブンは当然屋根に登って行った。

僕は自分の座席から様子を伺うことにした。

その場で10分くらい待機していたら、前のバス、つまり2台目が動き出した。ということは1台目は川を渡り切ったらしい。すごぞネパール人。

通常の座席からだと前方の様子はあまり見えない。屋根に登った乗客たちが中に残ったメンバーに情報を入れてくれる。

「2台目も川を渡り始めたぞ」

みんなのテンションはちょっとしたお祭り状態だ。それに合わせて僕らの3台目も徐行しながら前に進む。川が見えた。結構、幅広い。向こう岸まで20mはありそうである。

川の手前まで来た。おぉー!と歓声が上がる。2台目も渡り切ったようだ。ついに僕らの番。

ちょっとずつ進む。下る。川の中に入っていく。明らかに川の中に入って行っている。バスは壊れないのか?という不安も、屋根組の盛り上がりの中では馬鹿らしく思えてくる。タイヤは完全に水没している。まだ深くなる。窓とタイヤ上部の半分くらいまで泥水に浸かっている。どうやらここが最深部らしい。

ちょっとずつ前のバスに牽引されながらローギアで進む。徐々に上り勾配になってきているのを感じる。ゴリゴリと進む。

そしてついに川を上がる!

「オォーー!オォーー!!」

屋根組も車内組も皆んなでハイタッチとハグの嵐。文化祭の打ち上げ状態。完全に陸に上ると、屋根組も降りてきて、それぞれ自分のバスや座席に戻って行った。運転手勢はワイヤーを外し、元の席に戻ってきた。

そして運転手に大きな拍手!!運転手は、さっと手を挙げて拍手と歓声に応えるが、すぐに通常モードに入り、エンジン音を上げてアクセルを踏み出す。クールな男だ。

ただの乗客だった僕らは、このハプニングを乗り越えた同志だった。

そこからは、あっという間の5時間。時刻は夕方5時。ついに僕らはカトマンズに着いた。この頃には僕の胃も明らかに違和感と痛みはあるものの、ゆっくりであれば苦痛に顔を歪めずとも歩けるようになっていた。

同志たちはバスを降り、それぞれの目的地に向かった。チカブンと僕もバスの中で教えてもらった宿に向かい、ここから5日間の宿を確保することができた。

カトマンズは静かな場所だった。とにかく疲れ切っていた僕らは、そのままベッドに倒れ込んだ。

(つづく)
※次回は明後日掲載予定
photo(cover) by Mario Micklisch

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