雄手舟瑞物語#40:緊張の演奏本番

照明が明転した。

さぁどう即興演奏を始めようか。進次郎がリフっぽいフレーズを弾き始めた。マサアキがサックスで続く。僕も簡単な8ビートを叩き始める。

フィルを入れてシンバルを叩く。(練習ではこれで進次郎が別の展開に移っていた)
しかし、進次郎は依然同じフレーズを繰り返す。マサアキのサックスも間延びしているし、音が出たり出なかったりしている。

様子がおかしい。

もう一度、フィルを入れてドラムのパターンを変えてみる。今度は、進次郎のギターのフレーズが少し変わった。マサアキのサックスは依然緩慢だ。途中、サックスを置き、ベースを手にするも何か手持ち無沙汰な感じで、ボンボンボンと弾いているだけだ。自分も怖くて全然大きな変化が付けられない。。

練習のときのように音も身体も飛び跳ねたりせず、叫び声を上げることもなく、「あれっ、あれっ、次のタイミングで変わるかな、変わるかな、変わらない・・・」という状況が10分、15分と続く。地獄だ。。。全然、ジャムっていない。

もうダメだ。。。

僕は無理やりフィルとロールからのシンバルをガシャンと鳴らして、そのセッションを終わらせた。既に18分経っていた。会場からは微妙な拍手。チラッと見えたマスクマンの表情も硬い。慣れているはずの二人もどことなく無表情だ。

マサアキがベースを置いて、もう一度サックスを手に取ろうとした。その時、手を滑らせてサックスを床に倒してしまった。それを見て進次郎が笑う。マサアキはサックスが大丈夫か試しに吹いてみると、見事にチューニングが可笑しくなっている。

会場はザワッとしたが、僕らにとってはむしろ正常。これで行くしかない。

三人はお互いの顔を見合わせ笑う。そして、「せーのっ」と目で合図しながら演奏を始めた。さっきまでの硬さはどこへやら、練習の時のような軽快なメチャメチャさで、色んな音やフレーズが出てきた。僕も二人の身体の動きや様子をじっと見て、良さ気なタイミングでリズムのパターンを変える。すると二人も見事に変化する。空気が調和してきた。

この三人の感じ。この留まらない空気感。楽しい。

こうなると二曲目はすぐに温まり7分くらいでまとまって演奏を終えた。今回は会場からも力強い拍手が来て、ホッとする。

時間的にはもう最後の曲だ。最後に僕は二人に「最後は、テーマつけよう。「ルチャ・リブレ」で」と言うと、二人は「いいねぇ」と言ったそばから、マサアキがサックスをブォオンと吹き鳴らし始めた。進次郎は、ベース、ギター、ベースと交互に持ち替えてハードロックな感じで格好良い音を出している。マサアキも独特のクネクネした動きをして歩きながらサックスを吹いている。僕は、二人に身を任せ、二人に引っ張っられる感じで、フィルを入れ、リズムを変え、時には叩くのを止めたりしながら遊んだ。

あっという間に5分が過ぎた。そろそろということで、二人に時間が来たことをそれとなく知らせ、僕は「せーのっ」と二人に目で合図を送り、最後はガシャガシャガシャガシャーンとよくある風に演奏を終えた。

*****

舞台を下りると、マスクマンがニコニコしながら「良かったよー」と、スタッフの方も「今日も楽しい演奏ありがとうございました」と言いに来てくれた。見に来てくれていた進次郎のお姉さんもニコニコして「お疲れ様」と声を掛けてくれた。

僕は進次郎とマサアキに「いやー最初は焦ったよー」と笑いながら言った。進次郎は笑いながら「ひゃー、いつも最初は緊張しちゃうんだよねー、アハハハ。でも、さすがマサアキだよねー、あそこでサックス倒すとか、アハハハ」と答えた。マサアキは「えっそう?でもスッタフの子、良い人だね。かわいいなぁ」と目は彼女に釘付けだった。

僕らはトリのバンドの「これぞザ・ノイズ」というディストーションとディレイといったエフェクターとテルミン満載のザクザクザーザーとした轟音の雨に打たれた後、ライブハウスを出た。そして、僕ら三人は高円寺の中通り商店街で見つけた元気な感じの居酒屋へと入っていった。

(つづく)

<次の話>

<前回の話>


こんにちは