偶然SCRAP#50: ベルリンの不動産価格の10倍もの高騰は、この都市のアートにとって何を意味するのか

(追記:2020年1月1日)
あっと、抽象、テクノロジー、マイノリティ、写真と、あと都市系も好きなんです。東京で生まれて、4歳くらいまでを清澄白河の同潤会アパートで過ごし、その後、文京区に引っ越し。27歳でイギリスに留学するまではずっと東京。小さいながら同潤会アパートの鉄の匂いや、人が集まってくる広場、路地、駄菓子屋の記憶は鮮烈に残ってる。その思い出の場所が、区画ごとなくなり、今はタワマンになっている。

留学する前に、もう10何年振りかに、近くの現代美術館に行くついでに寄ろうとしたら、タワマンになってたことに愕然とした。建物がなくなるのも、そうだけど、区画(路地って言った方がいいかな)がなくなるって、本当に手がかりなしで、喪失感。

そんな自分の背景からも都市をテーマにしたものは気になる。

そんな中でベルリンの土地がこの10年くらいで高騰しているという記事を見つけた。それとアートの関係について。ベルリンは、アートを始めとするクリエイティビティを刺激するだったが、美術館とかが不動産ディベロッパーに売っちゃってるって話。今は利益が優先されちまっていると。

ベルリンは支配者の変遷が街に刻まれていて、ベルリン宮殿というのが、まさに象徴的な場所らしい。その新しい使われ方に対する批判や街のこのディベロッパーの買収ぐあいのリサーチを視覚的に表した作品などを、それこそ街をあげて、ベルリン内のギャラリーで展示されているようだ。

都市ができていくのは時間がかかる。価値観がかわるのも時間がかかる。時間がかかるってことは、いろんなものを飲み込んでいくってことだ。それを一個一個、人が触れられる形に変換する仕事を、彼らアーティストは果たしていると言っていいでしょ。

(初投稿:2019年11月23日)
イギリスのアートマガジン「Frieze」に掲載の展覧会レビューを引用紹介します。

Reviews/
ベルリンの不動産価格の10倍もの高騰は、この都市のアートにとって何を意味するのか
BY KITO NEDO
14 NOV 2019

ドイツの首都における文化コストの加速度的増大

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事実は小説より不思議なことがある。ベルリンのHamburger Bahnhof Museum for Contemporary Artが、ある日10,000㎡の展示空間を不動産企業に明け渡すことを誰が想像しただろうか。2003年からFlick Collectionを展示している建物であるRieckhallenの取り壊し計画が、事実上成立した。このリース契約は2021年の9月に終了し、それ以降は延長されないと、現オーナーのCA Immo (ウィーンを拠点とするディベロッパー)が伝えている。その理由は明らかだ。近年、ドイツの首都において投機と需要が不動産価格を押し上げ、幾つかの地区では2008年から2018年の間に土地の価格は十倍になった。営利目的ではないアート施設が、ディベロッパーにとって魅力的ではないのは明らかである。資本の圧力の下、かつては譲渡できないと考えられていた物―歴史的なモニュメントや国際的に名が知れた美術館など―さえ、次第に消え去ってきている。

この都市は、かつて豊かなクリエイティブ・シーンから利益を得ていたし、逆に豊かなクリエイティブ・シーンもこの都市から利益を得ていた。しかし今日は利益が全てである。ベルリンの壁の崩壊後、安い賃料と広い間取りは、国際的なアーティストをこの地に引きつけた。キュレーターのRené Blockはベルリンを「資本主義者や実利主義者の欲望から逃れる組織に属さないクリエーターにとって理想的な都市」だと評していた。東西に分けられた都市が再統合されてから時間が経っても、この神話はよく引用され、ベルリンはそれを糧にしていた。しかし、30年という時間には実に多くのことが起こる。今日、この都市は急速な成長とジェントリフィケーションと立ち退きを原因とする社会的大変動を経験している。例えば、Deutsches Wohnen & Co. Enteignen (German Housing & Co. Expropriation [ドイツの協同組合住宅のための土地収用] )と名付けられた、物言う居住者たちによる抗議運動では、「ベルリンから資産管理者を締め出すべきか」という国民投票を要求している。これらの問題が、町中で開かれた都市化や空間政治学や経済学を論じる展覧会シリーズの背景になった。

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Andrej Holm, Glossary of Privatization, 2019, exhibition architecture by ARCH+ and Peter Grundmann, installation view, ‘1989–2019: Politics of Space in the New Berlin’, 2019, Neuer Berliner Kunstverein. Photograph: Jens Ziehe © Neuer Berliner Kunstverein

Neuer Berliner Kunstverein (n.b.k.)でのグループ展「1989–2019: Politics of Space in the New Berlin [1989-2019: 新しいベルリンにおける空間の政治学]」では、分析的な取り組みを行っている。この展覧会は、Anh-Linh Ngo (the co-editor of Arch+ magazine) と n.b.k. director Marius Babiasによってキュレーションされ、ベルリンにおける急速な民営化が引き起こす社会的インフラ問題を批評的に描写した。

大きなフロアに広げられたベルリンの輪郭を描いた地図の作品からこの展覧会は始まる。「Cartography of Privatization [民営化の地図制作]」(2019)で、都市の研究者であるFlorine Schüschkeは、灰色の地図の上に、民間の投資家に売却され、以前は公営であった全てのビルの場所に青い印をつけ、売却の広がりを示した。東西統一後、ベルリンでは合わせて7,700もの売却があり、モナコの10倍に当たる21k㎡の範囲に及んでいる。

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Guerilla Architects, Shahrzad Rahmani, Philine Schneider, Die Sprache der Spekulation (The Language of Speculation), 2019, film still. Courtesy: the artist © Guerilla Architects, Shahrzad Rahmani, Philine Schneide

他の場所では、都市社会学者のAndrej Holmが「民営化」に関する専門用語集を提供している。ミシン目のついた大きな紙に印刷された「Glossary of Privatization [「民営化」の用語集]」(2019)には、Aの「Altschuldenhilfe」(意味的には ‘legacy debt aid [旧債務の支援]’。これは1990年代初頭からの法律で、東ベルリンで公的に所有されていた46,000戸の住宅の強制的な民営化を進めるもの)から、Tの「TreuhandI」 (旧東ドイツの公的資産を民営化するための組織)、そしてZの「Zwischenerwerber」(仲買人方式、早期民営化のためのモデル)まで掲載されている。この非常に法律的な用語は、他の言葉と並べて置かれている。例えば、映像作品「Die Sprache der Spekulatio (The Language of Speculation [投機の言語])」(2019)で、Guerilla Architects という建築家グループのメンバーたちは、不動産のパンフレットやウェブサイトから、太字で強調された意味がよく分からない宣伝文句を寄せ集めた。この映像の中で、一人の女優が、何の変哲もない建築のレンダリングの前に立って、それを朗読する。「中空の構造体」という様な単語が、コンピューターでシミュレーションされた空間の中で飛び交う。もしこの映像が新自由主義の都市における基本的な人間の欲求を少しずつ刷り込んでいくマーケティング戦略を暴く意図を持っていなければ、こんな早口のセールストークなんて単に滑稽でしかない。

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Dierk Schmidt, Schloßgeister (castle spirits), 2002–04, installation view, ‘Stadtschlawinereien’, 2019, KOW, Berlin. Photograph: Ladislav Zajac/KOW

補足として完璧に近い表現が、ギャラリーKOWでの展覧会「Stadtschlawinerein (City Tricksters Business [都市のペテン師ビジネス])」の作品の中で見つけられる。この展覧会には、アーティストのAlice Creischer, Larissa Fassler, Andrea Pichl, Andreas Siekmann, Michael E. Smith、および建築事務所のBrandlhuber+が参加している。ジェントリフィケーションと都市開発が散らかったエリアでは、馴染みのある「「私たち」対「彼ら」」という構図では、今の問題を捉えるのには複雑さが足りない。「彼らは、みんな都市のペテン師だ」とギャラリストのAlexander Kochが展覧会のテキストで書いている。「彼らは自分自身を歴史的に発展し、特有の構造を持つ近隣関係に介入する。彼らの投資や取引によって、この近隣関係の構造は既に消えたり、踏みつぶされ、変形してしまった。あるいは、まもなくそうなるのである。」

所詮アートの政治力が弱いと受け入れるのでなく、この展覧会ではアート作品を集結させる。作品たちの主題は、ベルリンの現在の都市開発の危機について扱っている。この点において、Larissa Fasslerの優れたビルボード作品「Emotional Blackmail [感情的な恐喝]」は示唆的である。リサーチに基づいた本作品は、家賃の上昇や土地の価格、この地区で大規模な土地建物を所有する様々な不動産事業者、そしてその結果として生じている社会的な対立に注釈をつけて、Kreuzberg地区のMoritzplatzの全貌を見せる。Fasslerは、都市の庭園化プロジェクト「Prinzessinnengärten」やクリエイティブ・ビジネス拠点のAufbauHaus、コワーキングスペースのBetahaus、その近所にあるギャラリーKönig Galerieで知られている。Fasslerは、もしコミュニティと企業が協働しなければ、この地区がどんな危機に陥ってしまうのか、について強調している。

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‘Stadtschlawinereien’, 2019, installation view, KOW, Berlin. Photograph: Ladislav Zajac/KOW

他の作品は、いつからこの論争が始まったのかを表している。Dierk Schmidtによる絵画シリーズ「Berliner Schlossgeister’ (Berlin Castle Ghosts [ベルリン城の亡霊])」(2002–04)は、この首都の城が、時間を経るなかで、分裂する政治的姿勢をどのように象徴してきているのかを指し示している。いくつかの絵画は、建築的に、とりとめなく変貌してきたBerlin’s Stadtschloss(City Palace [都市宮殿])を物語っている。―The Prussian Hohenzollern castle [プロイセンのホーエンツォレルン家の城] (1845)から、GDR Palace of Republic 共和国宮殿を経て、議論を呼んでいる現在のホーエンツォレルン家の王宮再建計画(2020年に完成予定)に至るまで。そして、この再建計画の中心はHumboldt Forum [フンボルト・フォーラム]である。フンボルト・フォーラムは、アフリカ、アジアからアメリカに至るまでの民俗学的コレクションを集める博物館で、幾つかの脱植民地化の議論を巻き起こす構想によって批判を受けている。この再建プロジェクトを賑やかす1990年代の王宮のファサードを模した弓形のタープを使うことで、Schmidtはイデオロギーの転換を伴って手から手に渡っていく建築的な変化に着目する。人目を引く場所を占拠するこのホーエンツォレルン家の城の模型は、進歩主義的な都市政策の失敗と過去への復古的、反動的なまなざしの再興を象徴している。

これは、ベルリン市長であったThe Social Democrat [ドイツ社会民主党]のKlaus Wowereit [クラウス・ヴォーヴェライト] (2001-14)の下、ベルリンの公的所有の不動産が、卸売りと横暴な金の流れに身を委ねる民間の住宅マーケットに売り払われたことに対する皮肉にも見えると言ってよいだろう。例えば、2004年に、65,000戸のアパートを所有する非営利の住宅連盟であるGSWが、405百万ユーロ [約550億円(1ユーロ136円換算)]で、様々な国際的な投資ファンドに売却された。最後には、留まるところを知らない賃料の上昇が、賃借人の抗議運動へと導き、幅広く支持されている。それにも関わらず、最近ベルリンで行われた上棟式でWowereitは、「変化は不可欠だ。我々は投資家を追い払うべきではない。それどころか、彼らを喜んで受け入れなければならない」と言ったのだ。もはや、この街の前市長に今の政治に関わって欲しいと思う人はいなそうだ。

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House of Statistics. Photograph: Victoria-Tomaschko

Tacheles building [タヘレス](1990年から2012年までオルタナティブなアートセンターとして利用されていたアーケード商店街の廃墟)が消えた後、空虚に広がったその区画はまもなく、建築家のBrandlhuber+やGrüntuch Ernst、Herzog de Meuron、そしてMuck Petzetが設計したオフィスと住居で満たされる予定だ。このプロジェクトの総コストは約600百万ユーロ[約720億円]になると現在見積もられている。その一方で、この街では賃料の上限を決めようという議論が行われている。またMitte [ミッテ区]では、Alexanderplatz [アレクサンダー広場]にあるHaus der Statistik (House of Statistics [統計の家])が、都市が資本の遊び場になってしまうことを避ける手段について、良い事例を与えてくれている。―ここでは、アーティストや都市のアクティビストが、投資家や旧公営だった建物の取り壊し計画への不動産の売却を阻止している。今秋、STATISTA(ZK/U – Centre for Arts and UrbanisticsとKW Institute for Contemporary Artの共同事業)は、この建物の活用の可能性を主張していくため、参加型のプロジェクトやワークショップのシリーズ企画を開催した。統計の家は、社会と文化の融合に向けた構想の中心的役割を担っていくだろう。これは、納得のできる都市開発を目指して人々が一体となって進める取組である。もしかすると今のベルリンの危機が、都市空間におけるアートと文化の可能性―新しい革新的な思想―の実践を促進するのかもしれない。その最初の兆候は、もうそこにある。

Translated by Nicholas Grindell

Main Image: Larissa Fassler, Kotti (revisited), 2014, installation view, ‘Stadtschlawinereien’, 2019, KOW, Berlin. Photograph: Ladislav Zajac/KOW

KITO NEDO
Kito Nedo lives in Berlin where he works as contributing editor for frieze and as freelance journalist for several magazines and newspapers. In 2017, he won the ADKV-Art Cologne Award for Art Criticism.

訳:雄手舟瑞

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