【雄手舟瑞#35】ムンバイ振りの再会

インドから帰って2ヶ月。僕はインドから戻ったトラと東京で再会した。

「お前、今日空いてる?」とトラから連絡があり、クラブでイベントするから恵比寿に来いということだった。

そういう場所は得意でない。自信に満ち溢れた人たちに囲まれて自分が小さく感じるからだ。ただ折角のトラとの再会の機会。僕は恵比寿に向かった。

今までコンビニバイトの先輩のダンスを見に渋谷のハーレムに行った時しかクラブに行ったことはない。そもそも恵比寿さえ初めてだ。

知らされた場所に向かう。受付をし、暗いクラブの中を人を掻き分けて進む。ヒップホップが流れている。美人や美男がとてつもなく速いスピードで言葉を交わし笑い合っている。自分が話し掛けられる気がしない。

しばらくしてトラの姿を見つけた。

「トラ!」と大声で声を掛ける。

トラは「おぉー雄手!!よく来たなぁ!!」と再会を喜んでくれた。矢継ぎ早に周りの人たちに僕のことを紹介する。「こいつがインドであった奴だよ!面白れぇー奴なんだよ!」そして僕に「俺たちが会った時の話を皆んなにしてやってくれよ。あっ、俺出番だからまた後でな!」と言って放置される。

トラの友達たちは皆んな背が高く、服がオシャレだ。垢抜け集団。インドの話をするにも、こんな爆音の中じゃ、僕の通らない声は届かない。とりあえず愛想笑いを浮かべて、ドリンクを取りに逃げる。

ドリンクを手に元いたスペースに戻ると、

「ヨーヨーヨー」とマイクを手に持ったトラがDJに合わせて喋り始めた。今日はトラのヒップホップグループのライブだった。全然詳しくないけど、ポップで良い曲だった。「俺は口から生まれた」が口癖のトラはラッパーが天職なんだと思える。MCで笑いも入れて皆んなを盛り上げていた。

クラブほぼ初心者の僕もトラのおかげで楽しむことができた。自分の出番が終わると、わざわざ僕のところまで来てくれて、「楽しんでる??お前インドの話、皆んなにした?」と気に掛けてくれた。僕が「いや、まだ」と答えると、「なんだよー」と言いながら、トラが乗っていたバスに僕が乗り込んできて僕に客引きされた、という話を僕の代わりに流れるように話してくれた。

おかげで周りの友達たちも「やるなー」と言いながら、僕の存在を認知してくれた感じだった。彼らはトラの高校時代の同級生だった。彼らに聞くと、当時彼らはロンドンにある日本人学校に通っていて、半分くらいのメンバーはそのままロンドンに残って、音楽、デザイン、ファッション、アートなどを大学で学んだということだった。この垢抜け感はそういうことだった。そして皆んなは三つも下の僕に対してフラットに付き合ってくれた。

なんてカッコよくて、やってることが面白くて、オープンな人たちなんだろうと嬉しくなった。

僕の中で何かがうごめいた。

皆んないい感じで酔っ払ってクラブの中の階段に座り込みながら話していた。トラが女の子に「お前さぁ、コイツと雄手、どっちがタイプ?」と聞き始めた。やめて欲しかったが少しだけ期待した。僕は選ばれなかった。それでもトラは「コイツもカッコイイと思うけどなぁ」と推す。僕は「いやいやいやー」と苦笑いしながら話題を終わらす。

そんな感じでトラとの再会と新しい経験に充実感で一杯の恵比寿の夜。

皆んなでクラブの外に出る。まだ暗い。足下をフラつかせながら駅に向かう。トラが誰かを連れてきた。

「おい雄手、コイツをお前に紹介したかったんだよ」

(つづく)
※次回は明後日更新の予定

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