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ゾーンに入った

暗くて長いトンネルを自転車で走っていた。
ライトの電池は切れ、携帯電話も繋がらない。
頼るのは遠くに見える出口の光。
聞こえるのは自分の息の音。
どこか夢の中に居るようで、でも頭の中はスカーっとした気分。
そのような感覚になった。
後から調べたら、あれは棚場山トンネルという場所らしい。

雨の中、馬鹿みたいにひたすら漕いた仁科峠。
西伊豆スカイラインは生憎の霧。
晴れていれば駿河湾を一望でき、富士山を拝みながらのライドになるはずだった。
比較的アップダウンがある道を、真っ白な霧の中を手探りで走った。
自分は今どこに居るのか全く分からない。
下り坂になるとブレーキも効かないし、少量の雨でも水滴がバチバチと体を打ち付けた。この時、自転車で平衡感覚を保つため必要なのは、想像力だと思った。

後半の戸田峠で、体は冷え切ったしまい体力も消耗した。
ガタガタと震えが止まらなくなった。
「リタイアしたい、でも寒いから早く温泉に入りたい!」
そう思いながら、フラフラの状態で下った。
最後はヘトヘトな状態で修善寺にゴール。

今思うと、あんな怖いことをよくやったな。
まるで修行のようであった。




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