見出し画像

不屈の人・希望の象徴 ~AKB48『それでも彼女は』~

村山彩希が劇場公演1000回出演を果たしたのは、2020年1月のことになります。
この偉業を成し遂げたのは、現在まで彼女の他には、峯岸みなみとHKTの上野春香、下野由貴の3人だけです。
しかもその3人は既に卒業していますから、現役メンバーとして今なお記録を更新し続けているのは、村山彩希ただひとりということになります。
まさに唯一無二の存在ですよね。

そんな村山彩希が初めてセンターを務めた楽曲。
歌詞を読んでみますと、彼女をモチーフにしたと思われるところが随所に見られます。

歌詞に描かれている情景ですけれども、1番Aメロ、Bメロには、

最後に存在が目撃されたのは
誰もが絶望したあの時代

傷ついた人々は
生きる意味 失って
広場の片隅でじっと固まっていた

とありますから、かなり暗い世相せそうであることがうかがわれます。
2番の歌詞を見てみますと、「戦火に焼かれた広場のその真ん中」というフレーズがありますから、戦争の災禍さいかに巻き込まれて、人々が絶望の淵に突き落とされているといった状況なのでしょう。
ちなみに、最後に存在が目撃されたのは誰かというと、この歌の主人公である「彼女」のことでしょう。

そして、そういった絶望的な状況下でも、「彼女」は歌って踊り続けるわけです。

それでも彼女は歌って踊り続けた
悲しみを振り払うように
それでも彼女は諦めたりはしない

そんな「彼女」を目の当たりにした人々は、希望の光を見いだしていきます。

ふいに希望が見えた気がした
どん底にいても何か信じれば
頭上には限りない空が広がってる

生きる意味を失うほどの絶望の中にあっても、何かを信じてあきらめなければ、必ず希望が見えてくるはず。
「彼女」の歌と踊りが、人々の心にそうした気持ちを芽生えさせてくれているわけです。

村山彩希は、他を犠牲にしてでも意固地いこじなまでに劇場公演にこだわってきました。
そして、彼女は踊れるし歌える。
ダンスでもボーカルでも、多くの人を惹きつけるだけの力を持っているわけです。
最近では、歌唱力No.1決定戦にも出場するようになって、真摯しんしに歌と向き合うことで、その歌声にも磨きがかかってきている。
パフォーマンスというのは歌とダンスで両輪を成しているわけですから、歌のレベルがアップした彼女のパフォーマンスは、ますます厚みが増してきているのではありませんかね。
やはり彼女は、ステージで歌って踊っているときが一番魅力的ですね。
そんな彼女の姿を見て、希望や勇気をもらっている人も少なくないはずです。

さて、2番Aメロ、Bメロには、

いつしかあの人は英雄と祀(まつ)られ
多くの若者が集まった

誰もみな問いかけた
今 何をするべきか?
答えが見つからぬままに路頭に迷う

とありますけれども、英雄として祀りあげられた人(もしかすると1人や2人ではないのかもしれません)たちの言説げんせつに、多くの若者たちが惑わされているといったところでしょうか。

それでも「彼女」は惑わされることなく歌って踊り続けるわけです。

それでも彼女は舞台に立ち続けた
ただ単に立ちたかっただけ
それでも彼女はやりたいことをやった
自分の意思が大切なんだ
ツイテナイ時もツイテイル時も
しっかりと踏ん張ってそこに立つしかない

どんなときでも自分の意思に従って、自分が立つべき場所でしっかりと地に足をつけて立つ。
それしかないだろうということですよね。

ただ純粋に「劇場が大好き、劇場に立ちたい」という思いで劇場のステージに立ち続けている村山彩希。
選抜に加わるようになった彼女は、依然として公演に出演できるときには可能な限り出演していますよね。
選抜メンバーともなると、プロモーションやら外仕事やらが増えて忙しくなりますし、歌番組などの華やかな場所にも出られるとあって、劇場公演が原点だと口では言いながら、どうしても公演の優先順位は低くなりがち。
そんな中にあっても彼女は、何はさておき公演に出続けているわけですから、劇場公演に懸ける情熱には凄まじいものがありますし、一貫していてブレがない。

Cメロには、

風の向きを感じて
右へ左へ 合わせるよりもブレない方がいい

とあります。
他人の言葉に流されて右往左往するのではなく、自分の意思を貫き通したほうが良いということですね。

多くのメンバーが「選抜」にこだわる中、村山彩希は「選抜」よりも劇場のステージに立ち続けることのほうにこだわってきました。
かつては、劇場公演を優先して、立候補制になってからは総選挙にも出ませんでした。
歌番組と被ったときには公演を優先させたこともありました。
それを見て、いろいろと思う人もいるかもしれませんけれども、彼女にしてみれば、いたって当然の振る舞いなのですよね。
彼女にとっては、劇場公演のステージに立ち続けることこそ、自分の存在意義そのものなのですから。

Cメロ後のサビには、

彼女の名前は歴史に残ってないが
人々の記憶には残る
戦火に焼かれた広場のその真ん中
自分の場所を守っていただけ

とあります。
自分の立つべき場所に立って歌って踊り続ける「彼女」は、歴史に名を残すような「英雄」と称されるような人ではなかったかもしれません。
けれども、そんな「彼女」から希望の光をもらった人々は、「彼女」のことを深く記憶に留めているに違いありません。

こうして見てくると、この曲は、まぎれもなく村山彩希を歌った曲なのですよね。
つまり、秋元Pが彼女に当て書きした曲であると言って差支さしつかえないのでしょう。

「選抜」に入ろうが入るまいが、村山彩希は微動だにしない確固たるものを持っている。
それは、劇場のステージに立ち続けるということ。
そしてそれはまた、AKB48というグループの原点でもあるわけです。
その「原点」をみごとに体現しているのが、村山彩希という人なのです。

「AKB48劇場に人生を捧げます」と、いつだったか彼女は口にしていましたけれども、それは、AKBを卒業するときには芸能界からも足を洗うということを意味しているのではありませんかね。
つまり、AKB48劇場のステージ上で完全燃焼して果てるつもりでいるということなのでしょう。
彼女のその決意は、いさぎよいと言いましょうか、凄味すごみすら感じさせますよね。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「それでも彼女は」(2018年)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?