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忘れがたき青春の記憶 ~AKB48『君は僕を覚えてるかな?』~

この曲は、AKB48の62ndシングル「アイドルなんかじゃなかったら」のカップリング曲です。
岩立沙穂とともにWセンターを務めた浅井七海にとっては、卒業を控えていますので、最後の参加曲ということになるのでしょう。

青春時代を懐かしんで感慨に耽るという点で、同時期にリリースされたNGT48の「僕はもう少年ではなくなった」(9thシングル「あのさ、いや別に…」のカップリング曲)と近いものがありますね。
どちらの曲も郷愁を誘う良い曲です。

この曲を初めて聴いたときには、片思いの切なさを歌った曲なのかなと思ったのですけれども、歌詞をよくよく眺めてみると、そうではなくて、学生時代の青春の記憶を呼び覚まして、感傷に浸るような曲なのですよね。
つまりこの曲の主題は、「片思いの切なさ」ではなく「青春の記憶」ということになるのでしょうか。
確かに、思いを寄せていた「君」のことが大きな部分を占めてはいるのですけれども、それだけではなく、あの頃の自分を慈しみながら振り返り、今の自分を癒しているといった感じの曲になっているのですよね。

1番Aメロ

学生時代の街並みに
懐かしさが胸に込み上げてくる
何も変わってないけれど
風は心を過ぎて行く

この主人公は、懐かしいこの街に、いかなる理由でやって来たのでしょうかね……。
学生時代を懐かしんでいることから、すでに社会人になっていて、この街から久しく遠ざかっていたのでしょう。
もしかしたら、仕事か何かで、たまたまこの街に来ることになったのかもしれません。
いざ来てみると、街の様子はあの頃と何も変わっていないわけです。
けれども、自分はもうここではない別の場所で生きている。
「何も変わってないけれど 風は心を過ぎて行く」というのは、その一抹の寂しさを表しているのでしょう。

1番Bメロ

あのアパートも取り壊されずに
長い西陽が差してる
細い路地を歩きながら
青春の1ページが蘇(よみがえ)った

かつて住んでいたアパートなのでしょうかね。
それが当時のまま残っている。
そんな街の様子を目の当たりにすると、まるでタイムスリップしたかのように、一気にあの頃の自分に引き戻されてしまう。
忘れかけていた当時の気持ちが、まざまざと蘇ってくるわけです。

1サビ

君は僕を覚えてるかな?
駅のホームでいつもすれ違ってた
何度も目が合ったけれど
全ては気のせいかな?
思い出の中 覗(のぞ)くたびに
微笑んでくれた

グレイの制服
いつも束ねてた
長い髪の君

あの頃の自分に引き戻されたときに、まず心に浮かんできたのは、思いを寄せていた「君」のことだったわけです。
駅のホームで「君」とすれ違っていたときのことが、つい今しがたの出来事のように鮮明に思い出される。
そして、思い出の中の「君」は「僕」に微笑みかけてくれていた。
もしかしたら、少々美化された思い出になっているかもしれませんけれども……。

2番Aメロ

あの色褪せた看板は
毎日通っていた喫茶店
ホットケーキが美味しくて
いつか誰かに勧めたい

「あの色褪せた看板」というのが、時の流れを感じさせますよね。
かつて足しげく通っていた喫茶店もそのまま残っている。
その見慣れた看板を目にして、そこで食べたホットケーキの味も、リアルな味覚として蘇ってくる。

2番Bメロ

あっという間の時間(とき)の流れに
僕は押し流されて
ふと気づいたら もう大人で
美しい夕焼けを見逃してた

気がついてみたら、「僕」はもうすっかり大人になっていた。
学生時代の気持ちを蘇らせたことで、あらためてそのことを自覚させられたのではありませんかね。
「美しい夕焼けを見逃してた」というのは、大切なことをやり残してきてしまったといったようなことを意味しているのでしょう。
この間の自分の来し方を振り返ってみたときに、そのことに気づくわけです。

2サビ

僕が君を覚えてても
きっと時計は元に戻せやしない
その一瞬は幻なんだ
今さら間に合わない
そんな痛みも僕にとって
大切な記憶

思いを寄せていた「君」のことを覚えていたからと言って、今さらどうなるものでもないわけです。
駅のホームで「君」とすれ違うときのトキメキは、あの頃の日々における一瞬の出来事であり、今となっては幻に過ぎない。
結局この主人公は自分の思いを告げることもなく、片思いのまま、この恋を終わらせてしまったのでしょう。
そのことに対する悔いは、もちろんあるわけです。
けれども、この主人公は、その後悔を決して否定的には捉えてはいないのですよね。
ほろ苦い記憶ではあるけれども、それもまた青春の大切な1コマとして、しっかりと心に刻み込んである。

Cメロ

人は誰も 自分だけの いつか歩いた道がある
ねえ たまに帰ってみて 失くしたもの 落ちてるかも…

これまで自分が歩んできた道のりを、たまには振り返ってみるのも悪くはないでしょう。
自分は、いったい何を得て何を失ってきたのか。
あるいは、道の途中で何を置き忘れてきてしまったのか……。
ときには歩みを止めて、そういったことを確認してみるのも必要かもしれませんね。

落ちサビ

君が僕を忘れていても
輝いていた 日々は確かにあった

「君」は「僕」のことを忘れているかもしれない。
あるいはもしかすると、そもそも「君」は「僕」のことを意識もしていなかったかもしれない。
だとしても、「僕」の「君」への気持ちは紛れもない本当の気持ちだったわけです。
「僕」にとってあの頃は、心ときめく日々であり、自分の心の内に確かに刻み込まれた大切な記憶なのですよね。

大サビは1サビと同じ内容になっていますね。
サビの歌詞の最後に置かれている

グレイの制服
いつも束ねてた
長い髪の君

というのは、思いを寄せていた「君」の姿を表しているわけですけれども、これはある種の象徴なのでしょう。
学生時代の思い出を呼び覚まし、当時の気持ちを心に蘇らせるアイコンとしての役割を果たしていると言って良いのかもしれません。

ところで、「君は僕を覚えてるかな?」という曲名が意味するところなのですけれども、「僕は君のことを忘れやしないよ」ということなのではありませんかね。
「君」というのは、もちろん学生時代に心を寄せていた「君」のことではあるのですけれども、それとともに、その学生時代の青春そのものをも表しているのではないでしょうか。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「君は僕を覚えてるかな?」(2023年)


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