見出し画像

未来への期待と不安 ~AKB48『未来が目にしみる』~

「AKB48春コンサート2024 inぴあアリーナMM」昼の部のサブタイトルにもなっていて、同コンサートのラストに歌われた曲でもあります。
ちょうど10年前のチームサプライズ公演「バラの儀式」の1曲目に当たる曲です。
同年に卒業した大島優子がセンターを務めていますね。

ところで、10年前の公演曲のタイトルを、なぜ今回のコンサート(昼の部)のサブタイトルに起用したのでしょうか。

1番Aメロ

こんな夜明けを
眺めるのは
たぶん 初めてだ
絞り出された
青い絵の具
溶かすように
空が広がってく

夜明けは、新たな一日の始まり。
ここでは、未来への扉が開かれたことを意味しているのではありませんかね。
そして「青」という色が象徴しているのは、若さであり、青春であり、希望ということになるのでしょう。
つまり、夜が明けて次第に青空が広がっていく光景を眺めながら、希望に満ち溢れた未来への期待に胸を膨らませているといったところでしょうか。

1番Bメロ

人は決心した時に
見えるものが変わるんだ
いつも同じ朝なのに

人の目に映る風景は、その人の心の在り様を反映している。
まったく同じ風景であっても、すさんだ心で見る風景と、希望に満ち溢れた心で見る風景とでは、まるで違う風景としてその目には映るものです。

この主人公は、いろいろと迷いながらも、新たな挑戦を決心したのでしょう。
そうした大きな決意を胸にして迎えた夜明け。
これまでに何度となく繰り返し迎えてきた同じ朝の風景ではあるけれども、この日の朝だけは、いつもとは違う特別な朝の風景として、この主人公の目には映ったのではありませんかね。

1サビ

目にしみても
ちゃんと見ろよ
どんな眩しくても
あれが未来なんだ
目にしみても
世界は待っている
なぜだろう?
涙が溢れる

まばゆいばかりの輝かしい未来が待っているのであれば、それは喜ばしいことであるはず。
大いに期待もするでしょう。
けれども、そんな大きな期待を抱くと同時に、一方で大きな不安も抱えることになる。
本当にそんな未来が待っているのだろうか?
そんな未来を手にするためには、どれほどの苦難を乗り越えていかなければならないのだろうか?

「目にしみても ちゃんと見ろよ」というのは、そうした不安に負けることなく、しっかりと未来を見据えて突き進んで行こうではないかという決意を表しているのでしょう。

こうした不安は未来への「恐れ」ということになるのでしょうけれども、それとは別に、輝かしい未来への「おそれ」もあるわけです。
あまりにもまばゆすぎて近寄りがたいという気持ち、本当に自分が手にして良い未来なのかというためらい。

2番Aメロ

悲しいことは
何もない
だけど 切なくて
陽が昇って行く
あの空を
見てるだけで
泣けてしまうんだ

1サビの話の続きのようなところがありますね。
1サビの歌詞の中に「なぜだろう? 涙が溢れる」というフレーズがありますけれども、そこで言っている「涙」は、うれし涙でも悔し涙でも、ましてや悲しみの涙でもないわけです。
この2番Aメロにも「悲しいことは 何もない」とありますしね。

ここでは、未来への「期待」と「不安」、未来への「恐れ」と「おそれ」、そういった複雑な心境からくる気持ちの高ぶりを表しているのでしょう。
例えば、富士山頂で御来光を拝んでいるときに、なぜだか涙がこぼれてくるという人もいると思うのですけれども、苦労してたどり着いた先でそういった崇高なるものを目の当たりにしたときの心境に近いものがあるのではないでしょうか。

「陽が昇って行く あの空を」というのは、希望が満ち溢れてくるさまを表現しているのでしょう。

2番Bメロ

なんて美しいのだろう
思い悩む雲などない
心だけは晴れでいたい

陽が昇り夜が明け切った空には、雲一つない青空が広がっていたのでしょう。
その風景は、それだけで美しいですよね。
そしてそれは、この主人公の今現在の澄み切った気持ちを映し出しているわけです。
何も心配することなどない。
晴れ晴れとした心で前へ進もうではないかといったところでしょうか。

2サビ

目を逸らすな
雨の時も
どんな空模様も
それが生きることだ
目を逸らすな
すべて受け止めろ!
つらいこと
涙が洗うよ

未来へ至る道筋が、多くの苦難や困難に満ちて、どれほど厳しいものであったとしても、目を背けることなく全て受け止めて、突き進んでいくしかない。
こうした試練を乗り越えていくことが、すなわち「生きる」ということなのだと言っているわけです。

ラスサビは1サビと同じ歌詞ですね。
未来への希望が大きければ大きいほど、その裏返しとして、不安も大いに募ってくる。
それでも、その大きな不安に負けることなく前へ進んで行くしかない。
否が応でも、未来は待っているわけですから。

さて、AKB48は体制を一新して、1年前の春コンと比べても、その人数、顔ぶれともにずいぶんと様変わりしました。
お世辞にもAKB48の置かれている現状が良好だとは言えない中で、新しい世代のメンバーたちが中心となって、気持ちも新たに新しいAKB48をもう一度作り上げて行こうではないかというのが、今回の春コンの趣旨だったのではないでしょうか。
そういった意味では、この曲の歌詞で表現されている内容が、今のメンバー達の心境、まさしく未来への期待と不安ということで、ぴたりと当てはまっていたということになるのでしょう。

さらに、この春コンで、行天優莉奈、黒須遥香、山根涼羽の3人が、マレーシアで新たに結成されるKLP48に1期生として移籍することが発表されました。
メンバーの海外移籍というのも、ずいぶんと久しぶりのことになりますけれども、移籍を決めたこの3人にしてみれば、人生を左右するような一大決心だったはず。
今回の春コンのサブタイトルとして、そしてラストに歌う曲としてこの曲を選んだことは、セトリを考えた人がそこまで考えていたかどうかはわかりませんけれども、彼女ら3人に対するはなむけにもなっていたのではないでしょうか。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「未来が目にしみる」(2014年)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?