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一歩ずつ自分の足で歩いて行く ~AKB48『翼はいらない』~

この曲の曲名「翼はいらない」から連想されるのが、昭和のフォークグループ・赤い鳥が歌う「翼をください」なのではありませんかね。
音楽の教科書にも載っている良く知られた曲で、合唱コンクールなどでの定番曲にもなっている。
そういう曲である「翼をください」を意識して、この「翼はいらない」は作られたのではないかと思うのですけれども、言っていることが真逆ですよね。
これは一体どういうことなのだろうかと興味を惹かれるではありませんか。
まあもっとも、そのように興味を持たれることは、秋元Pにしてみれば、してやったりといったところなのかもしれませんが……。

この曲は、AKB48の44thシングルの表題曲になります。
向井地美音がセンターを務めた、なんとなく昭和の雰囲気が漂うフォーク調の曲です。

「翼をください」のほうは、端的に言ってしまえば、自由を得るために翼が欲しいと言っているわけですよね。
大空を思うがままに飛び回れる鳥のように自由になれたならということで、「翼」というのがキーワードとして用いられているのですけれども、要するに自由になるための手段ですよね。
もっとも、この曲では、その手段に関しては頓着とんちゃくしていなくて、あくまでも自由への希求ききゅうを歌い上げているわけで、その意味では、希望にあふれる名曲なのだと思います。

では、その手段とは何なのだろうかと考えると、何がしかの力であったり、思わぬ幸運な機会であったりするわけです。
そういった力や機会があれば、自分の望みは叶うのにということなのでしょう。
けれども、そういった力や機会を得て、即座に自分の望みが叶えられたとして、それで果たして満足できるのでしょうかね。
手っ取り早く結果だけを手に入れられることが、幸せなことなのでしょうか?
もちろん、「翼をください」は、そういうことを歌っているわけではないのですけれども……。

ということで、「翼はいらない」のほうは、そういった疑念に対するひとつの答えを提示していると言って良いのかもしれません。

この曲は、曲の構成がユニークで、Aメロが2ブロック続いて、Bメロ、そしてサビは再びAメロになっている。
2番も同様で、最後にCメロ、Bメロ、ラスサビのAメロへと続いている。

1番Aメロ

翼があったら
大空を飛んで
どこへ行ってみようかと
考えてみたけれど…

あの風に乗って
雲を横切って
今 僕の目指す場所が
思いつかない

思うがままになんでもできるほどの力があったなら、一体何をしようかと誰でも考えますよね。
けれども、なんでもできる、その気になればなんでもすぐ手に入るとなったら、逆に何をしたら良いのか、何が欲しいのかがわからなくなってしまうのではありませんかね。
と言うよりも、とりたてて何がしたいとか、何が欲しいとかも思わなくなってしまうかもしれません。

1番Bメロ

空を飛ばなくても
歩いて行けるんだ
そんなに急ぐことはないさ
しあわせは待っている

すぐになんでも手に入れられるような力などなくても、目指すべき夢や希望を持っていさえすれば、そこに向けて一歩ずつでも近づいていくことはできる。
幸せというものは、一歩一歩踏みしめて行くその歩みの先にあるのではないでしょうかね。

1サビ(Aメロ)

翼はいらない
夢があればいい
大地を踏みしめながら
ゆっくり歩こう

翼があればどこにでも行けるけれども、それはあくまでも手段にすぎないのですよね。
大切なのは、目指すべき夢や希望を持つことでしょう。
目指すべきものさえあれば、地に足を付けてゆっくりとでも歩んで行けば、必ずそこにたどり着けるはず。
そう信じることもまた、大切なことなのではありませんかね。

2番Aメロ

翼が生えたら
自由になれるよ
どこへでも思い通り
願いは叶うだろう

その先が見えず
悩むこともない
目の前の嫌なことも
俯瞰で見られる

なんでもできるとなったなら、自分の思うがままにふるまえる。
望みも、いつでも好きなだけ叶えることができる。
何にも邪魔されることもなく、悩んだり苦しんだり、あるいは嫌な思いや悔しい思いもしなくてすむことでしょう。

2番Bメロ

それでもなぜだろう?
歩こうとしている
自分で汗かいてるうちに
しあわせは近づくよ

たとえそうだとしても、そんなものに頼らずに自分の足で一歩ずつ歩いて行きたいということなのでしょう。
すぐには結果を手に入れられないかもしれませんけれども、努力して目指すべきものに少しずつ近づいていくことの喜びや幸せを感じることができるわけですから。

2サビ(Aメロ)

翼はいらない
希望があるから
悲しみも道の途中
ひたすら歩こう

夢や希望さえあれば、翼などなくても歩いて行ける。
結果がすぐに手に入らない分、そこに辿り着くまでの長い道すがら、苦しみや悲しみにも遭遇するかもしれない。
けれども、そういった苦しみや悲しみも味わい尽くして、ひたすら歩いて行こうではないか。
そういう決意の表れでしょうかね。

Cメロ

鳥は空から
僕らのことを
眺めて思う
翼が (翼が)
ないって (ないって)
素晴らしい

逆説的な物言いではありますよね。
けれども考えてみたら、なんでも思うがままに手に入るようになってしまったら、努力してやっとの思いで手に入れることの喜びを感じることはできなくなってしまうわけです。
結果だけを簡単に手に入れられても、気持ちの上では空虚なだけなのではありませんかねぇ。

Bメロ

空を飛ばなくても
歩いて行けるから
自分が持ってるものだけで
しあわせになれるんだ

手っ取り早く結果を手に入れられるような妙な力など必要ない。
夢や希望さえあれば、自分の足で歩いて行ける。
目指すべきものに辿り着くまでの長い道のりがあるからこそ、苦心惨憺くしんさんたんして辿り着いたときに、達成感やら充足感やらが得られて、幸せな気分に浸れるのではありませんかね。

ラスサビ(Aメロ)

翼はいらない
今の僕がいい
遥かなる道の先を
夢見て歩こう

夢見て歩こう

今のありのままの自分の力で、夢や希望を目指して歩いて行きたいということなのでしょう。

それにしても、この曲は、メンバーたちへの秋元Pからのメッセージでもあるのではないでしょうか。
グループに加入すると、昇格やら選抜入りやらを目指すことになり、それ以外でも、さまざまな局面で常に比較され、嫌でも競争にさらされる。
そんな状況に置かれてしまうと、とにかく早く結果が欲しいということになってしまうもの。
同期だったりライバルだったりに先を越されると、ついつい焦りが生じて、結果を得ることだけに性急になってしまう。
けれども、一番大切なことは、何かを目指す過程で得られるさまざまな経験なのですよね。
その経験には、葛藤や挫折、苦しみや悲しみ、あるいは悔しさなどつらいことも多いでしょう。
むしろ楽しいことや嬉しいことよりも、つらいことのほうが多いかもしれません。
だとしても、ここで得られた経験は、これからの活動や、ひいてはこれからの人生において、とても大事な糧となるはずです。
ですから、結果を得ることばかりに焦るのではなく、何かを目指す過程での楽しみや苦しみをじっくりと味わい尽くしなさい、ということなのではありませんかね。
そうは言っても、現在進行形で必死に頑張っている人たちには、なかなかその言葉は届かないかもしれませんけれども……。

引用:秋元康 作詞, AKB48 「翼はいらない」(2016年)


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