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魔法科のカロン

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魔法学校に通う高校生たちの非日常と情動と日常。
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2019年5月の記事一覧

新参者のローゼ

「ロゼッタ、少し良いか」女王は声をかけてきた女、マリアの方を向いた。背後でジェスが身を硬くし、抗議の声を発したので、やはりか、と思う。「耄碌したかマリア。人の名前を間違えるな、私はローゼだ」マリアは物言いたげなジェスと女王を交互に見た。「おや…… そうだな、失礼した」女王は尊大に頷いた。「……女王。私は少し、マリアと話を」ジェスが気まずそうに言う。大方『前の』女王の存在をほのめかしたマリアに苦言を

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為政者のリロイ

人間達は代替わりをする。長い歴史は流転の連続で、塔の建設に関わった者でさえ今は数えるほどしかいない。時間を止めたような王宮内でさえ緩やかに変化を受け入れる。リロイ。彼は人間だ。

王宮には様々な機関がある。リロイの担当は法整備と施行。実務をこなし、同時に塔の監視を受ける。塔の監視。リロイは塔の魔術師のことを知っている。歳をとらず、監視役にそぐわない実権を持つ女。自分が来る以前から王宮に仕え、おそら

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侵略者のフォクシー

女は魔法使いだった。老いることのない体と褪せない美貌を併せ持ち、その手には無法を成す力(可能性)が握られていた。人間なら誰もが一度は夢見るような理想がそこにあった。ひとつ女の醜悪な部分を上げるとすれば、女が邪悪だったことに尽きる。

フォクシー。細い腰と肉付きの良い体を持つ女は永い時間を持っていた。両親はとうに亡く、しかし女は独り立ちを望まなかった。行き場のない彼女は他者の家庭に入り込み、姉として

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針土竜のシンロ

シンロは医療従事者だ。器用な指と甘いフェイス。つんと澄ました表情の彼は女達から黄色い声を浴びせられる側の人間だったが、彼自身は女を恐れていた。馴れ合いを嫌う様子と彼の持つ針によって、彼は針土竜と名付けられた。

シンロは治癒魔法が使えない。彼は元々、服飾系の専門学校に通う学生だった。過去形だ。布を扱う指は皮を縫い、ボタンを掴む爪は弾丸を抜く。そこに魔法は介在しない。シンロは縫う。生きた肌を。シンロ

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